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片脚VS両脚トレーニングの転移は競技特性に合わせた効果といえるのか?


両脚か?片足か?競技によっては、片脚トレーニングを強く推奨する人もいます。他にも一見奇抜で独特なトレーニングを行う人も多いです。


今回は、
・片脚強化は「片脚トレーニング」
・競技特性に合わせた「特異性トレーニング」
本当にそれらが有効的か?を考えさせる内容になります。

Dr. Newtonが論文を紹介していた投稿です。
内容は

ターゲットパフォーマンスの動きの特異性に基づいた運動の選択ではなく、根底にある生理的刺激をターゲットにすることの重要

個人的には本質的部分だなと感じ、とても腑に落ちました。


【参考文献はこちら】

Appleby et al. (2020) Unilateral and Bilateral Lower-Body Resistance Training Does not Transfer Equally to Sprint and Change of Direction Performance. J Strength Cond Res. 34(1):54-64.

研究モデル

ー研究プロトコルー

・被験者:トレーニング経験ありのラグビー選手(プレシーズン中)
・3つのグループに無作為にに分ける
・8週間のトレーニングを週2回実施

比較群(10名):通常の活動を継続
両脚群(13名):下半身のウエイトトレーニングとして両脚エクササイズ(スクワット)を実施
片脚群(10名):下半身のウエイトトレーニングとして片脚エクササイズ(ステップアップ)を実施

両脚群と片脚群は、各メインエクササイズ(スクワットステップアップ)に加え傷害予防目的として、

・ノルディックハムストリング
・グルートハムレイズ
・ルーマニアンデッドリフト
・カーフレイズ

等のエクササイズも実施した。
それ以外に、上半身のウエイトトレーニングも実施した。

両脚群と片脚群とでは、トレーニングにおける相対的な強度・量は等しくした。

両脚群と片脚群で異なるのは、下半身メインエクササイズの種類(スクワット vs. ステップアップ)だけであった。

この8週間のトレーニング期間の前後に、

・20-mスプリントタイム
・50°方向転換タイム
・スクワット1RM
・ステップアップ1RM

の測定を実施した。

※スクワットもステップアップも1RM測定では膝関節が90°になる深さが基準と報告されており、トレーニング中の可動域については言及がありませんが、おそらく膝関節90°でトレーニングしたものと思われます。

結果

※今回のメインである内容のみ抜粋。

【トレーニング前後のスクワット1RMとステップアップ1RM】
・両脚群・片脚群ともに向上。
・ステップアップ1RMは片脚群のほうが大きな伸びを示す傾向が見られた。

ステップアップ1RM→両脚群<片脚群

【トレーニング前後の20-mスプリントのパフォーマンス】
・比較群と比べると両脚群・片脚群ともに向上したが、両脚群と片脚群の間では伸び率に大きな差は見られなかった。

20-mスプリント→両脚群・片脚群(有意差なし)

【トレーニング前後の50°方向転換のパフォーマンス】
・比較群と比べると両脚群・片脚群ともに向上したが、両脚群のほうが大きな伸び率を示す傾向が見られた。

50°方向転換のパフォーマンス→両脚群>片脚群

ここから考えられること

この研究で、最も注目すべきポイントは、
・方向転換のパフォーマンス向上効果については、
両脚エクササイズ(スクワット)のほうが、
片脚エクササイズ(ステップアップ)よりも優れていた。という点です。

【50°方向転換のパフォーマンス→両脚群>片脚群】

この研究から見える客観的な事実はそれだけです。この結果を元に個人的に考えた内容をお伝えしていきます。


まず、ウエイトトレーニングを行うことで、筋力や柔軟性が向上し、それがスプリントや方向転換といった動きのパフォーマンスUPに繋がる現象を

「トレーニング効果の転移」と呼びます。

この観点でいうと、方向転換動作への「トレーニング効果の転移」はスクワットのほうがステップアップよりも優れていた、と解釈することができます。

ここで今回の結果と異なり、ポイントなるのが、方向転換動作は基本的に片脚での動作であるという点です。

片脚で持続的に動くわけではないですが、左右の脚を交互に動かし、地面に足が着いて地面に対して力を発揮するときは片脚になっているということです。

トレーニングにおける「特異性の原則」の解釈を誤り、ウエイトトレーニングの見た目の動きを実際の競技の動きに近づけたほうがよい、と主張する人たちが一部います。※SNSの影響が大きいのではないかと個人的には考えています。

もしその考え方が正しいのであれば、片脚エクササイズであるステップアップのほうが、両脚エクササイズであるスクワットよりも、片脚で行う方向転換動作に見た目が似ているので「トレーニング効果の転移」も優れているはずですが、この研究では逆の結果が得られたということです。

つまり、少なくとも「片脚 vs. 両脚」という観点でいうと、向上させたい競技の動き(例:方向転換)にウエイトトレーニングが似ているからといって「トレーニング効果の転移」が促進されるわけではないのです。

両脚で実施するスクワットによって得られる何かしらの適応(例:筋力向上、柔軟性向上、RFD向上、胴体部分の剛性向上)が、片脚で実施するステップアップによって得られる適応よりも、方向転換動作を向上させるのに役に立ったということです。

したがって、ウエイトトレーニングにおけるエクササイズを選択する際には、向上させたい競技動作に見た目が似ているかどうかで決めるのではなく、そのエクササイズを実施することで引き起こされる適応が狙った競技動作の向上に繋がるかどうかで決めることが大切なのです。


そうはいっても、この研究のみをもって、両脚エクササイズのほうが片脚エクササイズよりも、方向転換動作向上に優れていると結論づけることは難しいです。※あくまでも確率の話

まず、スクワットとステップアップというのは、両脚か片脚か以外にも大きな違いがあります。

スクワットは「しゃがんで切り返して立ち上がる動作」

エキセントリック→コンセントリックのストレッチショートニングサイクル(SSC)タイプの動き(注:SSCでもとくに遅い部類です)

一方、ステップアップはSSCの要素がほぼない

ステップアップ→コンセントリックオンリーの動き

つまり、両脚か片脚か以外にも

・筋の収縮様式

という点で、スクワットとステップアップでは大きな違いがあるのです。

もしかすると、両脚か片脚かの違いではなく、筋の収縮様式の違いが、方向転換動作への「トレーニング効果の転移」の差に繋がったのかもしれません。

とはいえ、たとえそうだったとしても、それはそれで、「見た目が似ているかどうかでエクササイズを決めないほうがいいという考え方を否定するものではなく、むしろその考え方を強化」した結果になります。

結局のところ、見た目が似ているかどうかではなく、そのエクササイズの特徴がどのようなものであり、その特徴によって引き起こされる特異的な適応が競技動作向上に役立つかどうかでエクササイズを選択するのが適切なわけです。

また、この研究で集められた被験者にとっては、スクワットのほうがステップアップよりも方向転換動作向上に効果的であったとしても、それがすべてのアスリートに当てはまるとは限りません。

たとえば、日常的にスクワットでガシガシ鍛えていて、スクワットの1RMも高いレベルにあるようなアスリートにとっては、ステップアップに切り替えてトレーニングしたほうが方向転換動作向上に効果的かもしれません(あくまでも可能性のお話)。

たまたま、今回紹介した研究に参加したアスリートにとっては、スクワットを実施して得られる適応が方向転換動作向上に役に立っただけなのかもしれません。

つまり

向上させたい競技動作において必要な体力要素が複数存在し、その中でアスリートに不足している体力要素を向上させるようなエクササイズが「トレーニング効果の転移」を最大限にする可能性が高いということ。

スクワットを実施して向上させることができる体力要素をすでに高いレベルで有しているアスリートにさらにスクワットをやらせても方向転換動作の向上に結びつかないかもしれません。

まあ、それはそれで、見た目が似ているかどうかでエクササイズを決めるのではなく、そのエクササイズを実施することで得られる適応が、目の前のアスリートにとって必要なものか・役に立つものかどうかで決めるのが大切であるという考え方に変わりはありません。

まとめ

今回の研究結果も踏まえ、個人的な意見としては、両脚か片足か?に固執したり優劣をつけるのではなく、「今自分に足りないものを補ったり、新しい刺激(カンフル剤)として役割をもたせる」ことが成長に繋がるのではないでしょうか。

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