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映画「シン・ウルトラマン」~宇宙に憧れたあの時代

先週末、映画「シン・ウルトラマン」を観てきた。
令和という時代を代表する空想特撮映画として、語り継がれる名作になるであろうことは容易に想像できる。かつての平成ガメラシリーズを観た時のような高揚感とカタルシスがあった。

ネタバレになるから、物語展開や作品世界の解説などは省略する。
他の人がたくさん語っているので、そちらを読んで欲しい。
思い浮かべたSF小説がある。アーサー・C・クラークの「幼年期の終わり」と小松左京の「果てしなき流れの果てに」だ。


私は初代ウルトラマンをリアルタイムで見ていた世代ではない。
同時代的には、よりSF的でドラマ性の高いウルトラセブンの方が好みであったし、特撮作品でいうと「謎の円盤UFO」などのゲーリー・アンダーソン作品や「スタートレック 宇宙大作戦」のジーン・ロッテンベリーの方に惹かれていた。
どちらかというと、怪獣が出てきて暴れるような特撮は、子供が見て喜ぶ作品だなーと冷めた目で見ていた。自分も子供だった癖に。

初代ウルトラマンが放映された1960年代後半という時代の記憶は、微かながら覚えている。
カラーテレビ放送が映る家庭用受像機は、まだ一般的ではなかった。
電話は黒電話で、市外局番につなぐには交換手を通す必要があった。

アポロ計画で人類が初めて月に降り立ち、大阪万博で月の石を見るために何時間も行列待ちがあったことはニュースで知った。
ニュース映像は画質の粗い8ミリ映写機で撮られていた。野外で持ち運び可能なビデオ撮影・録画機器はなかったのだ。

そんな時代に創り上げられたコンテンツだったのだ。
令和の時代に生きる若い世代にとっては、遠い歴史の彼方であろう。
まだ、科学の進歩とテクノロジーの発展によって、人類社会の明るい未来を信じることができる時代だった。
宇宙は今よりも身近に感じられたと思う。

とはいえ、太陽系内の天体の様子さえまだよく分かっていない時代だった。この半世紀の間に、科学技術の進歩に伴う観測技術の発展で宇宙空間への解像度は、飛躍的に高まった。
その分こうしたコンテンツのSF的な考察に対するハードルが高くなったと言っていい。
子供じみた荒唐無稽な嘘がもう通用しなくなったのだ。

例えばゼットンは、1兆度の火球を出すという。
劇中ではラスボスとして登場し、衛星軌道上に浮かぶ巨大なプラントとして人類を脅かした。究極の戦略兵器という位置付けだ。

1兆ケルビンの温度というのが、どれだけすさまじいか子供にはピンと来ないだろう。温度とエネルギーを変換するボルツマン定数とか知らないだろうし。

原子爆弾が炸裂した時の中心温度は250万Kである。
核融合はもっと高温で、太陽の中心温度は1500万Kになる。
金やプラチナが合成されるには、中性子星の衝突が必要なほどで1億Kくらいになる。
1兆Kはその1万倍も高い温度で、自然状態ではブラックホールの衝突でしか成しえない超高温なのだ。

とはいえ、実は人類はその温度を達成したことがある。
2010年のことだ。

独立行政法人理化学研究所(野依良治理事長)と大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構(KEK 鈴木厚人 機構長)を中心とする研究グループは、米国ブルックヘブン国立研究所(BNL)の国際共同研究で、相対論的重イオン衝突型加速器(RHIC)を用い約4兆度の超高温状態を初めて実現することに成功した。

この超高温状態では物質はクオーク・グルーオンプラズマという新しい物質相となる。

最新の科学技術はそこまで進歩しているのだ。
核兵器が玩具に見えてくるとてつもないオーバー・テクノロジーとして描写されるベータ・システム。人類がその存亡を賭けてその原理を解析しようとするのも、こうして見るとそれほど無茶な設定でもないような気がしてくるから不思議だ。

また、劇中ではこの宇宙に130億もの知的種族が居るという台詞もある。
とんでもない数だ。
この地球上に存在している全生物種が175万種というから、その多さが分かるだろう。

そんなに居たら、地球外文明なんてとっくに知られているのでは?
そう思うかもしれない。
ところが、そうでもないのだ。
宇宙の広さを舐めてはいけない。

公式設定では、ウルトラマンの故郷である光の国まで300万光年だという。1Mパーセク近い遠距離で、アンドロメダ銀河より遠い。
光の国の版図がどのくらい広がっているか分からないが、銀河系が所属するおとめ座銀河団がその範囲だと想定しよう。
差し渡し20Mパーセクほどで、その銀河団のなかには1300から2000個の銀河が存在することが分かっている。

仮に1300の銀河に130億の知的種族としたら、1銀河で1000万。
銀河系には2500億の恒星が存在するから、確率としては2万5000分の1ということになる。
2万5000もの恒星が存在する宇宙空間の大きさはどれくらいだろうか?

SF作家でもある石原藤夫博士の「光世紀世界」を紐解くと、地球から半径50光年の範囲に存在する恒星は、最大で2千個程度。これをもとに計算すると、半径116光年の大きさとなる。
人類が地球外に届く電磁波を使って通信を始めたのは、20世紀半ばになってからである。つまり人類が発した有意信号は、外星人が存在するかもしれない領域にいまだ届いていないのだ。


宇宙はとんでもなく広く大きい。
だからこそ夢を持ち続けることができるのかもしれない。

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