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うそのある生活 22日目

9月17日 あいまいに晴れ

娘の保育園の園児がなかなか厄介な感染症にかかったというので、翌日から保育園が休園になった。娘やほかの園児たちも真面目にマスクはしていたが、子どものことなので、いつもお互い触ったり抱きついたりしながら遊んでいた。だからなのかわからないが、その日の午前中には、園児は残らず検査をするようにと市役所からお達しがあった。

急遽会社を休んで保育園まで検査キットを受け取りに行った。たくさんのお母さんたちが保育園の玄関先でなにやら話をしている。そこには加わらずに(加われずに)、さっさっとキットを受け取って帰る。帰り際、どこかで知っているような知らないような気持ちになってもやもやしていると、娘と同じクラスの男の子が切りたてのオレンジみたいなキラキラした笑顔で手を振ってくれた。

帰ってからはすぐに娘の唾を採集ケースに集めた。ただ、集める唾の量が多くてなかなか規定量にならない。5歳の子どもがこんなに唾を出せるもんか、と妻は憤り、一方娘は普段は止められるのに唾を吐くのを推奨されるのでなんだか楽しくなったらしい。ニコニコとしながら目線を斜め上にして、だらりと口のはじから垂らすようにして唾を吐くので、僕も隣で真似をしてみると、それを見て妻はますます憤った。

昼前に保育園に唾液の入った容器を持ち込むと、夕方にはもう検査の結果が出た。電話口では保育士さんが、陰性でした、良かったです、と我がことのように喜んでくれる。けれど、次の瞬間には声色が変わり、実はですね、と言うのでどきりとした。

「検査で娘さんの性格も出たんですよ」
「そんなこともわかるんですか?」
「えぇ、最近はなんでも」
「なんでも?」
「えぇ、娘さんはきづかいストレス溜め込み爆発型ということで」
「そんな型があるんですか?」
「はい、最近はそういう型が増えていて」
「そうですか、なにか不都合が?」
「いえ、不都合ということはないんです」

保育士さんの話は、深刻な調子だったのが、最後だけがからりと渇いたような抑揚のない調子になったので拍子抜けの感じがした。

そもそも、娘がわりに気をつかうたちで、それでストレスを溜めてしまうのは前からわかっていた。親ならそんなことはわかっている、いまさら検査で明らかにしたところでなんなんだ、と妻とも話したが、思えばそれも随分傲慢な態度なのだろう。そもそもなにかと混み合った世の中だから、誰かに断定してもらうということが案外大事なのかもしれない。もちろん、そんなことはないのかもしれないが。

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