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わたしの大きなコンプレックスが生まれた日。


数年ぶりにジーンズを買おうと思っている。まだしっくりくるものに出会えておらず買えていないけれど、ジーンズ選びで自分の足と向き合っていると、わたしのコンプレックスが生まれた日の記憶が呼び起こされてしまった。


秋になりたての、よく晴れた日。そのときわたしは中学生で、体育祭の練習をしていた。リレーの選手に選ばれたわたしは、とても張り切っていた。盛大に張り切って生きてきた人生序盤だったので、リレーの代表なんてそれはもう使命感がお祭りさわぎだった。

その日の練習では、本番同様に走ることになった。わたしはほかの子を抜いて、順位を1位に上げた。


走り終えた直後だったと思う。男子2人がひそひそ声でこう言った。わたしのほうを見ながら、わたしに聞こえないように。




「足短くね?」



いや聞こえてるし!こっち見てるし!それわたしのこと!わたしは足がとっても短い。


今まで、バレていないと思っていた。だけど、高速で足を回転させると、隠せなかったよう。しかもよりによって一緒に走っていたのが足がすらーっと長い女子2人だった。比較してはいけない。並んで走ってはいけない。

足が速い人になったつもりが、足が短いけど速い人になっていた。

思春期ど真ん中だったわたしは、顔で湯が沸かせそうなくらい恥ずかしかった。本番が憂鬱になる。どうしよう。そこからわたしは、いかに速く走るかではなく、いかに足が長そうに走るか、ということに思考をシフトした。


中学生のわたしに思いついたのは、走る直前になるべく体操着のズボンを上げてしっかりしばること(当時は腰パンが流行っていた)。そして、前傾して走ること(角度でごまかそうとした)のふたつだった。効果があるのかはさっぱりわからない。けど、そうせずにはいられなかった。


体育祭当日、わたしはいつもよりズボンを上に上げて走った。ちゃんと順位も1位に上げた。例の男子たちにも何も言われなかった。ほっ。



自宅に帰り、父が撮影してくれたホームビデオを見る。そこに映っていたのは、短い足を高速回転させて前傾で駆け抜ける女子中学生だった。自分の想像よりはるかに短かった。


ショックで、「そんなことない」と誰かに否定して欲しかった。なのに父は、「仕方ないよ、父さんと母さんの子だから。父さんも足は短いけど、速かったよ」なんて自慢げに言う。


わたしは、短足足速一家の娘だった。14歳。運命を受け入れるしかないのだと悟った。両親から受け継いだ短い足。足がすこし短いのが、胴がすこし長いのがなんだ!と思って生きることにした。そして自分は人に容姿のことを言うのはやめようと誓った。どんなに小声でも。

そんな愛すべきわたしの足に似合うジーンズを、もうすこし探してみる春にしよう。そして、それを履きこなす春にしよう。


おわり

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