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【はじめての2.5次元舞台】『HUNTER×HUNTER THE STAGE 2』天王洲 銀河劇場

言わずと知れた、という慣用句がピッタリくる作品は世の中にそう多くない。
しかし、この作品は迷わず「言わずと知れた漫画」だと言ってよいだろう。日本国内のみならず世界で読まれ愛されている、そして連載再開を熱望されている。
作者は、冨樫義博氏。
言わずと知れた『HUNTER×HUNTER』のことである。
といっても、本記事は漫画について述べるわけではない。漫画を原作とした舞台作品の観劇記録である。

“2.5次元舞台(ミュージカル)”と呼ばれる舞台演劇の台頭が目覚ましい。
漫画・アニメ・ゲームといった2次元コンテンツが原作である舞台作品のことで、2003年に上演された『ミュージカル・テニスの王子様』が近年のブームの草分け的存在だと言われている。なお、それ以前から2次元コンテンツが原作の舞台は存在はしており、『HUNTER×HUNTER』も、2000年、2001年、2002年に『ミュージカル HUNTER×HUNTER』が、2004年に『リアルステージ HUNTER×HUNTER』が上演されている。これらの舞台作品は、テレビアニメの声優がそのまま演者として起用されていた。声はもちろんアニメのままだが、ビジュアルだけを見ると原作のキャラクターに近いとは言えない。しかし観客はそれを理解しておりビジュアル面の完璧さを求めているわけではなく、また声の芝居や歌唱は当然イメージと相違がないので、ミュージカル版は大変好評だったそうだ。

“2.5次元舞台”という言葉が浸透しだして以降のHUNTER×HUNTERの舞台作品は、2023年5月に上演された、『HUNTER×HUNTER THE STAGE』が始まりである。
原作通り、主人公のゴンが父親と同じくハンターになるために受験する試験の終わりから始まりまでを描いた<ハンター試験 編>と、ハンターとなったゴン・クラピカ・レオリオの3人が、兄のイルミにより家に連れ戻されたキルアの元へと向かう<ゾルディック家 編>が舞台化された。

そして第二弾として2024年3月に天王洲 銀河劇場で、2024年4月に梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティで上演されたのが、『HUNTER×HUNTER THE STAGE 2』である。描かれるのは、“幻影旅団”と対峙する<ヨークシンシティ 編>だ。


筆者は2.5次元舞台を観たことがなかった。
ストレートプレイの作品が好きで普段は出演者や演出家で観劇を決めているが、本作の出演者やスタッフについては、不勉強で恐縮だが、数名の方の名前を存じ上げている程度で、特別よく知っている人はいなかった。
また、漫画やアニメに特別詳しいわけでもなく、実は週刊少年ジャンプを買って読んだこともこれまで一度もない。
ただ、HUNTER×HUNTERのテレビアニメは好きで全話観ていたので、内容はもちろん知っている。漫画も単行本を一度読んだことはある。

なぜ、HUNTER×HUNTERの舞台、通称“ハンステ”を観ようと思ったのか。

「一度、2.5次元舞台も観てみたいなぁ」とぼんやり思ってはいたが、実際に予定を決めてチケットを取って観に行くという行動を起こすほど原作をよく知っている作品がこれまでなかった(先述のように、筆者は2次元コンテンツにあまり明るくない)。いや、そもそも情報収集もしていなかったというほうが正しい。

2024年3月、都内劇場に関しての調べ物をしている際に、たまたま出演者のSNSの投稿が目に入り、HUNTER×HUNTERの舞台が上演されていることを知った。「今公演しているのだな」と認識して作品を思い出したこともあってか、OTTコンテンツ・プラットフォームでアニメも配信されていたのでまた見返し始めた。
引き続き連日劇場に関する調べ物をしている中で、観劇客たちの感想も目にしたのだが、すこぶる評判がよい。日に日に増す興味の中でゲネプロの動画を観たことが駄目押しとなり、「これはもう行こう、いや行かねばならん」と観劇することを決めた。

3月30日。
天王洲 銀河劇場は、馬蹄形をした三層構造の劇場で、客席数は746席。2階と3階にはボックス席が設けられている。舞台と客席の距離は、最大でも20メートルだという。

1階G列より観劇した。

客席の階段を使いステージへと降りて行くクラピカとクルタ族の登場から始まる。
本記事ではキャラクターの人物像や設定の紹介は割愛するが、緋の目の演出やクラピカの語りに、暗く深い哀しみ且つ激しい怒りが表現されており、冒頭より引き込まれた。

ゴンやキルアも登場し、物語が動き出す。
以降に登場するキャラクターも含め、出演者のビジュアルや衣装や小道具が、アニメそのままである(筆者は原作漫画よりアニメのほうにより触れていたので比較対象がアニメになる)。ディティールにまで拘っていることがよくわかる出来栄えで、まず視覚的な満足度が高い。

さらに、ストーリー構成がよく組み上げられていた。
ゴンやキルアは、<天空闘技場 編>で、ウイングから“念能力”を教わるが、念はHUNTER×HUNTERの世界に必要不可欠な要素である。ここについて省くことは当然できないが、天空闘技場の場面を全て描いていくと到底時間が足りない。本作では、ゴンとキルアが、ゴンの故郷であるくじら島へ帰郷したシーンを起点に回想をする形で、“裏ハンター試験”を凝縮して組み込んでいた。
なお、この流れの場面は登場人物たちがかなり早口であった。基本的には観客は原作をよく知っている前提なのだと思うが、もし何も知らない客がいたとしたらついていけないであろうスピード感だった。これまで観てきた舞台演劇にはなかった“動く歩道に乗っている”かのような感覚は、2.5次元舞台ならではかもしれないと感じた。

ハンター試験からの因縁である、ゴンとヒソカの対決も描かれている。
ヒソカによるパフォーマンスはエンターテインメント性に溢れており、役者の表現力が素晴らしかった。
ヒソカを演じるのは、俳優でありダンサーの丘山晴己氏だ。
2014年にブロードウェイで上演された舞台『The Illusionists(ザ・イリュージョニスツ)』に初の日本人出演者として抜擢された実力者で、国内外の舞台に数多く出演している。
ヒソカの妖しさ、愛嬌とおぞましさの絶妙な雰囲気を、“キャラを演じる”ということのさらにひとつ上の次元で、自分のものとして根っこから発していた。声、喋り、表情、動き、身体の使い方、いずれも他の誰にもできないヒソカでありながら、原作からそのまま生きて出てきたかのようでもあり、とても魅力的であった。

場面がヨークシンシティに移ると、クラピカが所属することになるノストラードファミリーや、本作での肝心要ともいえる幻影旅団、さらにゾルディック家のゼノとシルバ、そしてレオリオやゼパイルも登場する。

繰り返しになるが、いずれのキャラクターも再現度がとても高い。
ただ見た目を似せているだけでなく、佇まいや醸し出す雰囲気、他のキャラクターとの関係性があるうえでの距離感や空気感までもしっかりと2次元での在り方のまま、3次元で感じられる。
「2.5次元」として表現され提供されるものの質の高さに感心しきりであった。


他の2.5次元舞台のダイジェスト映像を観ても思っていたのだが、2.5次元と呼ばれない舞台演劇に比べ、映像をかなり駆使していることも印象的だった。
原作は2次元であるので、現代の現実世界には存在しない物や力ももちろん存在することができる。それを、プロジェクションマッピングを用いることで表現している。映像技術を駆使して、2次元の世界観を現実に映し出しているのだ。アトラクションを体験しているかのような臨場感を味わうことができた。



芝居が特によかった役者についても述べていきたい。

幻影旅団はメンバー全員が揃うと圧巻で、「実在しているではないか!」と高揚するほどであったが、特によいと感じたのが、ノブナガ役の村田充氏。
ダイジェスト映像を観たことが観劇を決める駄目押しとなったと先述したが、もっと言うとその中での数秒のノブナガのシーンが決め手になった。数秒でもわかる巧さと完成度だった。
まず声が、“そのキャラクターの発声の癖”までも計算したかのような発し方だった。といっても、“アニメ通りだからすごい”と言いたいわけではない。原作である漫画には当然音や声はない。読者それぞれの頭の中に鳴るものは異なるし、アニメ化されたからといってアニメの音声や音楽が正解になるというわけでもない。ひとつの要素でしかない。その上で、村田氏のノブナガは、“ノブナガの音の正解”を響かせているように思った。ノブナガなら、その声色で、その息遣いで、その間で、その言葉をそう発するだろう、と思う音だった。
また、眼の迫力も凄まじく、カラーコンタクトを付けているからという意味ではなく、キャラクターとしての哀しみや苛立ち、殺気や高揚が、瞳の奥からも感じられるような芝居であった。

それから、クロロ役の太田基裕氏。
2.5次元舞台への出演実績も多く、また、そのカテゴリーではないミュージカル作品にも数多く出演している。出演者の中でも知名度が高い俳優だろう。
彼の芝居は、他の役者に比べてキャラクターに寄せすぎていないように感じた。役作りができていないという意味ではなく、“自分にしかできないクロロ=ルシルフル”を意識しているように思ったし、役者としての本人の貫禄が役柄と融合して唯一無二の存在感を醸し出しており、実際に“彼であるからこそのクロロ=ルシルフル”になっていたと思う。


逆に、どこまでもキャラクターそのものだったのが、マチを演じた秋野祐香氏。
雰囲気もスタイルも発声も所作もマチそのもので、魅せ方をわかっているなと感じた。


また、ネオン役の櫻井佑音氏の歌声が素晴らしかった。
とても澄んでいて伸びやか且つブレのない力強い歌声で、いつまでも聴いていたくなる。
齢16歳(2024年5月現在)、公演時は15歳という若さだが、堂々としており迷いのないパフォーマンスで、作品をより深く見応えのあるものにしていた。

HUNTER×HUNTERの主役であるゴン役を務める大友至恩氏は、16歳(2024年5月現在)だ。正直なところ台詞回しはまだ粗いのだが、本作ではスキル以上に、“周囲に愛され、応援したくなるゴン”であることが大切だと思う。彼はまさしくそんなゴンだった。
これからの成長や活躍も楽しみである。

役者陣同士が刺激し合ってより芝居がよくなる相乗効果が生まれているのだろうなという空気も、全体から感じられた。



はじめての2.5次元舞台観劇は、とても満足度が高い経験だった。
原作が2次元作品であると演出がかなり重要になると思うが、本作はその面も優れていたことも大きいと感じる。世界観を表現するための特殊効果やストーリー構成がよくできており、飽きさせることなく終始観客を楽しませてくれる舞台作品であった。原作への敬意と情熱が作り手にあってこそだと感じる。

「2.5次元舞台だから面白い・面白くない」ということはなく、ひと作品ひと作品ごとに評価は変わるものだと思うが、“ハンステ”はとても面白かったし、活力に満ち溢れた舞台作品でありエンターテインメントであった。原作漫画を愛する人も満足できる出来なのではないかと思う。

第三弾があるのならば<G.I. 編>だが、是非ともまた観たい。
またゴンたちに会える日が、とても楽しみだ。


■■ Information ■■


【東京公演】
■公演日程
2024年3月16日(土) ~ 2024年3月31日(日)

■会場
天王洲 銀河劇場

■料金 (全席指定・税込)
11,000円
立見券 7,800円

■上演時間
約3時間30分 (休憩15分含む)


【大阪公演】
■公演日程
2024年4月6日(土)~4月14日(日)

■会場
梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ

■料金 (全席指定・税込)
S席:12,000円、A席:9,800円


■主催
『HUNTER×HUNTER』THE STAGE 2製作委員会


【原作】
冨樫義博(集英社「週刊少年ジャンプ」より)

【脚本・演出】
山崎 彬

【出演】
ゴン:大友至恩
キルア:阿久津仁愛
クラピカ:小越勇輝
レオリオ:近藤頌利

ノブナガ:村田 充
フェイタン:平松來馬
マチ:秋野祐香
フィンクス:田鶴翔吾
シャルナーク:織部典成
シズク:佐當友莉亜
パクノダ:鳳翔 大
ウボォーギン:伊勢大貴

シルバ:北村圭吾
ゼノ:椎名鯛造

センリツ:岩田弘子
ネオン:櫻井佑音
ライト:和泉宗兵

ヒソカ:丘山晴己

クロロ:太田基裕

イルミ:上田堪大(声の出演)


【公式HP】
https://hunter-stage.jp

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