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(53)いかなる時代環境でも利益を出す仕組み

【ビジネスチャンス優先の経営】

集中戦略は目先の効率は高めますが、外部環境の変化には弱い。
環境変化を自社の成長に取り組むためには、目先の効率をあえて下げ、資本を分散させる戦略も必要です。「稼働率7割」はその一つです。

【1章 製品開発力】


「透明タンクが売れない」と言った問屋

ユーザのニーズを素直に捉えれば、ヒット商品を開発できますが、流通企業がその壁になることがあります。1980年代の作業に使う薬液噴霧器のタンクの色は黄色が当たり前でした。
しかしこれでは農薬がどれぐらい入っているか見ただけではわかりませんでした。透明なタンクなら残りが見えて便利なのではと私は考えました。
なぜ黄色ばかりだったかと言うと、農器具業界では「タンクを黄色にしておけば、直射日光に当たっても中の薬が変質しない」というのが定説だったからです。
小売店は「タンクが黄色でないと売れない」とまで断言していました。でもよく調べるとおかしい。農薬は水で薄めて使うのですが、使用説明書を見るとその日のうちに使ってくださいと書いてある。水で薄めた農薬は何日も持たないからです。
どのみち2日3日と使わず、1日で使い切るなら、直射日光の影響ほぼないはずそこで半透明タンクの噴霧器の販売に踏み切りました。一応小売店の意見もくんで黄色いものと半透明のものと二本立てで売りました。すると売れるのは半透明のものばかり。黄色いタンクは見かけなくなりました。  

【積み上げ式の値決めからの脱却】

どの企業も、もともとは何かしらの事業を顧客に提供したくて組織を作ったはず。
組織を存続するために事業を開始した会社は1つもない。しかし長く経営を続けていると、組織が事業をするための手段ではなくなり組織を維持することが目的で、事業がその手段になるという逆転現象が起きやすくなります。それは結果的に組織を蝕んでいくのです。
企業が創造する価値を提供する相手はユーザです。そのユーザには「原価がいくらかかったからこの値段にしました」という作り手の言い訳は全く通用しません。
この価値ならいくら払うかそれだけで購買の決断を下します。

【LED電球でトップシェアを取れた理由】

どのようにして売価5000円が当たり前の製品を2000円で作ったか。
最初の時点では具体論が描けなくても何とかなるものです。松下幸之助氏も言っていました。
1割2割を値下げするのは難しいけれど、半値にしろと言われたら知恵が出る、と。
高い位置にターゲットが定まれば別方向から新しいヒントが出てくるのです。イノベーションとは不可能なことを可能にすることであり、それを可能にするのが「ユーザのために、この不可能を実現しなければ」というユーザインの執念です。

【新製品比率の50%に設定】

アイリスでは中長期の計画を立てません。今期の1年間は、これくらいの数字を目標にしようと言う方針は出しますが、中長期の計画は立てない。根拠の薄い計画を立てることに意味がないからです。その代わりに売上高全体に占める新製品の売上高比率を数値目標に掲げます。新製品は「販売して3年以内の製品」と定義し、「新製品比率の目標は、50%以上」です。

【ユーザを妨げる大企業病】

重要なのは、会社の新陳代謝を最も良く表す指標をKPIに捉えると言う視点です。
「大企業病」という言葉を聞いたことがあるでしょう。組織が大きくなると、管理主義、縦割り主義などの弊害が起きやすい。
大企業病にかかると組織の維持を優先し、顧客の期待を後回しにするため、いずれ利益率が落ちてきます。それを防ぐにはイノベーションを高める資料をKPIに設定することです。
アイリスの場合は、それが新製品比率と計上利益率です。
単に規模拡大を目的にしたKPIでは、新陳代謝が十分にできているかどうか分かりません。顧客に常に新しい価値を提供できてこそ、外的環境の変化に耐える力が蓄えられるのです。ヒット商品やロングセラーに寄りかかる事は会社の活力を奪います。あなたの会社がいかなる時代環境でも利益を出すには、どんな指標をKPIに設定するか。そこをまずロジカルに考えて、そして社内のコンセンサスを得るようにします。

【情報と決裁を「見えるか」】

情報共有さえしっかりしていれば、企業戦略の根幹に関わる買収等の案件でない限り、誰がジャッジしても結論はさほど変わらないと思っています。
会議では皆で同じ情報を共有します。だから事前の根回しを一切禁止。「来週、こんな提案をしますのでよろしくお願いします。」といった以前交渉に一切応じない。
プレゼン会議の特徴を改めて整理します。
① 社長が決めるから速い
②その場で問題解決するから速い
③社長の考えが全員に伝わるから速い
④毎週実施するから速い


【2章 市場創造力】

「業界の中の蛙」にならない

業界の常識に凝り固まってユーザ目線で考えられないことが日本企業の弱点です。
製造業を経営している読者の皆さん「日経MJ」を読んでいますか。「日経産業新聞」や業界誌ばかり読んで、業界事情に詳しくなってどうするのですか。ユーザ品の開発をしようと思えば、製造業の経営者こそ、小売店の考え方を知る必要があります。
BTOB商品を作る会社も同じです。消費者の動きを知ろうとせず、技術や価格の競争ばかりをしていると、市場変化でたちまち仕事を失う。
多くの社長がしていることを逆なんです。
同じ理屈で流通業の経営者は日経産業新聞を読んだほうがいい。

【4章 組織活性力】


「社員の立場で想像する」

社員が安心して働けるように、給与体系や福利厚生制度を整えることも大切ですが、会社が小さなうちはトップの人間的魅力で社員を求めるしかない。そのために社長は人の2倍気遣いができないと務まりません。

【新入社員に必要なのは「価値観の転換」】

多くの社長が「良い人材が社内にいない」と不平を口にします。
ただ人材も資金も技術も十分にあるなら、社長は昼寝しながら経営できる。
中小企業も大企業も限られた資産で何をするか考えるのが経営です。ものねだりをしすぎです。どうしても人が足りないなら、製品開発や営業活動により採用を最優先にすべきでしょう。
けれど「人が採れない」という会社ほど募集にお金をかけていない。
棚ぼたで人は採れないのにあまり努力も工夫もあまりしていません。社員教育もそうです。ほったらかしでは若手社員は育たないのに現場に教育を任せきりにしている社長が多い。
それではいつまでたっても人が足りないと言う状態から抜け出せません。
新入社員の価値観を変えようとすれば、1年から2年はかかります。具体的には何をすればいいか私は2つの教育をしてきました。
1つは挨拶です。挨拶の重要性を皆軽視しがちですが、挨拶はコミュニケーションの基本です。挨拶の仕方が悪ければお客様に気に入ってもらえない。
お客様とのコミュニケーションが取れていないと、いくら自社製品の特徴を覚え訴えたところで、相手に伝わりません。

【新入社員につける5つのリボン】

アイリスでは、新入社員研修初日全員に5つのリボンを服に付けてもらいます。それは次の5項目を表します。
1「基本マナー」
受講態度や挨拶、体操
2「基本理念」
企業理念、経営方針、行動指針を正確に理解し、大きな声で暗唱できる
3「報告訓練」
自分の考えをわかりやすく、堂々と相手に伝えられる
4「研修参加報告書」
短時間で報告書をまとめ、納期を守って提出できる
5「私の抱負」
1年後の自分に対する決意を皆の前でコミットする

【会社を下支えした「幹部研修会」】

幹部研修会の効果はてきめんでした。幹部の目線が上がり先を見据えた判断ができるようになりました。この体験を通して1つの確信を持ちます。「幹部が育たない」と多くの社長が嘆きますが、それは単に情報量の差によるものだと言うことです。
一般営業部門の幹部は、営業の情報、生産部門の幹部は生産の情報に詳しいと言う偏りがあるため
個別最適で動きがちです。
しかし社内の全情報を与えれば、その幹部たちも全体最適で判断します。
社長の目線が高いの社内の情報を独占しているからに過ぎないのです。幹部を育てるには情報を共有し、社長と幹部が共にレベルアップしていくことが大事です。アイリスにとって、その場が幹部研修会でした。

【日報にして、日報にあらず】

アイリスで最大な情報共有ツールと言えば「ICジャーナル」です。従来、外部にほとんど話してこなかったのは、このシステムがアイリスの「頭脳」だからです。
一般的な日報は、上司による部下の行動管理が主目的で、1日の経過を部下が書き、上司がそれをチェックします。
一方、情報共有を目的とするICジャーナルの場合、事実の列挙は厳禁。日々の仕事の情報をもとに、各社員が自らの「意思」を伝えるように書く。新聞雑誌記者と同じです。
知りえた情報をもとに何を考えたか。そこにどのような意味があるか。それを経営者や全社員に向けて報道をしてもらうのです。だから日報ではなくジャーナルと呼びます。
どんな相手と会っているか、そこで得た情報をもとに、自分が何をすべきか提案までする。
ここまで主体的に社員が考えて入力するから、集まった情報が生きるのです。ICジャーナルの内容は、顧客ニーズの変化や新しいトレンドの兆し競合の動向など幅広い。

【主体性がないと評価されない】

企業は特定の仕事に精通している「ヌシ」を作りがちです。
ヌシがいるとそこに情報が吹き溜まりのように集まり組織のためにはなりません。またヌシのような専門家がいれば、仕事の能率が上がるようにも見えますが、マンネリ作業は効率を下げます。
ヌシ化を防ぐにはローテーション人事をして部外者の目で見つめ直します。
一人ひとりの業務を日々情報共有するといった仕組みも必要です。
「人の意見を素直に聞いて、あなたの仕事の進め方を改善しなさい」と言っても、ヌシは絶対に聞き入れません。
ヌシとして仕事を独り占めした方が、自分の存在価値を保ち続けることができるからです。しかし、それは全体最適では無いのです。

【5章 利益管理力】


「予算がない会社」

アイリスでは予算と言う概念がありません。開発部門などのコストセンター(経費は使うが、収益を計上しない部門)についても、年間でこれくらいの経費を使います、という予算がない。
予算をぶんどるとか、そういうやりとりではなく、必要なものがあれば勢いな時に買えばいいと言うスタンスです。
会社の都合で予算の総額や部門の割り当てを決めると言うのは、それはユーザにとってはどうでも良い話です。ユーザのために作りたい製品があり、そのために必要な経費で、しかも損益を細かくシミュレーションした上での金額ならば、それは使うべきお金です。

【効率をどの次元で見るか】

「選択と集中」は、ニューノーマル時代には合わないことが理解できたでしょうか。
選択と集中はリストラを正当化するなど、経営陣には都合の良いものでしたが、あくまで短期的な利益を出す経営にはすぎず、ひとたび環境が変化すると脆弱でした。
本書を通して私が最も言いたいことは、ニューノーマル時代の経営ではそのことがますます避けては通れない「大命題」として俎上にあがるでしょう。

【起業家精神の核をなす「構想力」】

起業家精神には4つの資質が必要だと考えています。
1つ目は「構想力」。端的に言えばどんな会社をつくるか。何を目的に、どのような事業で世の中に貢献するのかを考える力。
2つ目は「説得力」。事業の構想を社員と共有し、巻き込むために必要な力。話し方が上手いか下手かは関係ありません。トップとして一生懸命に走り、範を示せば周囲はついてきてくれます。
3つ目は「実践力」。考えるだけなら学者でもできる。起業家に必要なのは実践です。口で言うだけでは経営はできません。
4つ目は「結果責任」。事業を始めたら、会社のあらゆる物事はトップの責任になる。責任を取り切る覚悟があるかどうか。

【構想と空想の違いは、使命感の有無】

構想は空想とも違います。
本を読んだり、人の話を聞いたりして「こんな事業が儲かりそうだ」と考えるのは空想。
一方の構想は、生活や仕事などの人生経験を通じ「こんな会社をつくらなければ」と起業家の体内から湧き出るものです。
大人になってからの体験はもちろん、子供の頃の出来事が関係することもあります。
実体験に基づかない空想は「こんな会社ができればいいな」という机上の空論にすぎないので、事業にかけるエネルギーも弱い。
これに対し自身の生き様と結びついた構想は「こんな会社をつくらなければいけない」という使命感に帯びるのです。そのエネルギーの強さが、仲間を集める説得力にも繋がります。
経営は山あり谷ありの連続ですから、「絶対に生き延びて見せる」と踏みとどまることができない起業家は無理です。

【できるかできないかの勝負】

他人の目や過去の常識はあまり気にしない方がいいと思います。
業界の慣習を守ることは必要ですか。
今いる市場にこだわりすぎていませんか。
納入先の顔色ばかりをうかがい、その先の消費者から目を背けていませんか。
誰のために何をしていくのか今一度考えてみてはどうでしょうか。

この世の物事はすべて未完成です。完成したと思った時点で衰退に向かうのです。売上高や利益がどんなに増えても、それはプロセスにすぎません。

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