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魔と鬼と、木洩れ陽と

oki doki..

 昔々のこと、「子供の世界」というところに二人の鬼が住んでいました。二人はとても仲が良く、毎日一緒に遊んでいました。

 かくれんぼをしたり鬼ごっこをしたり、とても楽しい時間でした…


 やがて月日は流れ、一方の鬼が「大人」になりました。

 「悪意くん、ぼく大人になったから『大人の世界』に行くよ」
 「うんわかった。いつかえってくるん?」
 「それは、分からない」
 「そうかー、またかえってきたらあそぼうや」
 「うん、じゃあ行ってくるね!」
 「きをつけてや〜、じゃき(邪気)くーん!またあそぼうやー!」

 そして「邪気くん」は「大人の世界」へ行き、一人残された「悪意くん」は、一人で遊び始めました。

 「わーい、かくれんぼやー!かくれろー!」
 「つぎはおにごっこやー!にげろー!」…

 悪意くんはずっと一人で遊びながら、邪気くんの帰りを待っていました。ところが待てど暮らせど邪気くんは帰ってきません。

 「じゃきくん、かえってこんな〜…つまらん。『大人のせかい』ってどんなとこなんやろ。…じゃきくんさがしにいってみよーかな…よっしゃ!いってみよー!」

 なんと、悪意くんは「子供のまま」で「大人の世界」に行ってしまったのです!!…


 「ここが『大人のせかい』か。なんやだれもおれのことみえてへんな。まぁええわ。すんませーん!大人さん、じゃきくんどこにおるかしってますかー!?」

 いろんな「大人」に聞いて回りました。ところが大人は全く相手にしてくれません。姿が見えないだけでなく、悪意くんの声も聞こえていないようでした。
 途方にくれた悪意くんは、樹の下でしゃがみこんでしまいました。

 「じゃきくん、どこにおるんや…どうしたらええんや…」

 そこへ、一人の子供が声をかけてきたのです。

 「ねーねー、どうしてそんなところで座ってるの?」
 「ん? なんやおまえ。おれがみえるんかいな?」
 「見えるよー、どうしたの?」
 「じゃきくんをさがしとるんや。でもみつからんのや。大人ははなしもきいてくれんし、どうしたらええかわからんのや」
 「そっかー、じゃぁ私もいっしょに探してあげる」
 「ほんまか!? よっしゃ、ふたりでさがせばみつかるやろ!」
 「うん、じゃあいっしょに探すよ!」

 悪意くんとその子は一緒に、邪気くんを探し始めました。

 ここで不思議な事が起こります。悪意くんの声は大人には聞こえていないのに、その子の声は聞こえているようなのです。

 「なー、なんでおまえのこえは大人にきこえとるんや?」
 「なんでだろうね。私も分からないけど、なんでか聞こえるみたい」
 「ほーかー…ならおれがゆうよりおまえがゆうたほうがええな」
 「うん、代わりに言ってあげる」

 そしてその子は、悪意くんの代わりに大人に声を届け続けました。ところが、一向に邪気くんは見つかりません。どこにいるのか全く分かりませんでした。

 「なんでやー?なんでみつからんのやー!」
 「なんでだろうねー、ちゃんと伝えてるのに…」
 「…いや、つたえてないんや!おまえがつたえてないのがわるいんや!」
 「え…? 私はちゃんと伝えてるよ?」
 「いやつたえてないんや、おまえのせーや!じゃきくんがみつからんのはおまえのせーや!」
 「…ごめんね」
 「そーや!おれのせーやない!おまえのせーや!!おれはわるくないんや!!」
 「うん、ごめんね…」
 「もっとや!もっと『大人のせかい』につたえんとあかん!じゃきくんはここにおるはずや!」
 「…うん、分かったよ」

 その子は悪意くんの声を伝え続けました。

 「これはこうするんやー!」
 「うん、分かった」
 「こうせんとあかんのや!」
 「うん、分かったよ…」

 邪気くんの居場所を知るために、悪意くんは大人を「観察」し始めました。

 「大人はこれがええんやからこうしたらええんや!」
 「…うん、そうだね」
 「おれのゆうたとおりにしたらええんや!」
 「…うん、分かったよ…」

 悪意くんの我儘をきいていくその子はまるで、悪意くんの「優しいお母さん」のようでした。

 「じゃきくんどこにおるんやー!またあそびたいんや!いっしょにあそぼうや!…あそぼうや…」
 「…うん、遊びたい…ね…」
 「…大人がかくしたんや。じゃきくんをかくしたんや」
 「…?…そんな事、大人はしないょ…」
 「うるさい!うるさい!じゃきくんをみつけるにはもっとひろめなあかん!おれのこえをひろめろ! おまえがやるんや!」
 「……うん…分かった…よ…」

 そしてその子の力を使って、悪意くんの声はどんどん「大人の世界」に広まっていったのです。

(…じゃきくん….またあそびたいんや……どこにおるんや。またいっしょにあそびたいんや。こんどはふたりやのーてさんにんであそぶんや。あたらしいこがきたん……あれ?…なまえは……?)

 「なーなー」
 「…ん?…なに?…」
 「おまえ、なまえなんてゆうんや?おれはあくいやけど」
 「…悪意くんかー…やっと名前おしえてくれたね……悪意くんね…」
 「せや、おれはあくいや。んでおまえのなまえは?」

 「…私の…名前は…『純粋』……だよ…」

 「じゅんすい…か。わかった。じゃきくんみつけたらいっしょにあそぼうな」
 「…うん…遊べたら……いいね………」
 「そやな!さんにんであそぶんや!」

 「じゃきくん、どこにおるんや〜。ここ(大人のせかい)におるはずや〜。さんにんであそぼうやー」

.....

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Narration

 「悪意くん」は「邪気くん」を探しに子供のまま大人の世界へ行き、「純粋ちゃん」と出会いました。そして、邪気くんを見つけることを、純粋ちゃんに手伝ってもらっています。
 悪意が広まれば邪気くんが見つかって、また一緒に遊べると思っているのです。悪意くんと邪気くんは「似た者同士」です。だから仲良しです。でも邪気くんは大人になりました。

 悪意くんは、純粋ちゃんを苦しめていることに気づいていないのです。悪意くんを止めるには、邪気くんの力が必要です。このままだと純粋ちゃんは、悪意に染まって消えてしまいます。

 悪意くんの「3人で遊ぶ」という望みは叶わなくなってしまいます。

 純粋ちゃんでは、悪意くんを止められません。悪意くんを止められるのは、悪意くんと同じ性質の邪気くんにしか出来ないのです。

 もしまだ、あなたの中に「邪気」が残っているなら、悪意くんを止めるために「邪気」を呼んでください。悪意くんの望みを叶えるために、そして純粋ちゃんを助けるために「邪気」の目を覚ましてください。

 あなたの中にまだ、残っているなら…


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End roll

 砂に満ちる湖の、水面に浮かぶ葉を照らす、過去から届いた無数の灯。そよぐ風が奏でる音色に、優しく咲う稀眩月。明るすぎる街の光に、かき消された屑星は、それでも物語を紡ぎ続ける。

 いつしか人々は、「湖上に聞こえる歌」のことを「ぬくもり」と呼ぶようになりました。


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あとがき

『闇夜に烏、雪に鷺』

 悪意くん、邪気くん、純粋ちゃんは1つの「同じもの」なんだよ。同じものを「別の角度から見た」だけ。同じものだけど、違うもの。違うものだけど、同じもの。見分けが難しいんだよね。

 所謂「子供の遊び心」かな〜。「純粋」だから遊ぶ。遊ぶのは「子供」。そして、遊ぶから「大人」になる。

 悪意くんを止められるのは邪気くんだけど、一緒に遊ぶこともできるんだよね。同じ性質であるがゆえに、悪意くんの考えていることがだいたい分かるから。ただ、大人になった邪気はもう「遊び」はしないんや。

 しっかり大人になった人の中には「邪気」は残っていないと思う。だから、悪意くんの声が聞こえないんだよ。そんな中、少なからず「まだある」大人たちが必要なんよな。邪気が残っている大人は悪意くんの声が聞こえる。つまり、「悪意に気づける」からな。

 純粋ちゃんは、悪意くんを一人ぼっちにしないためにずっと傍にいた。そして、そのせいでどんどん悪意に染まってしまっている。純粋ちゃんと悪意くんを「分離して捉える」ことができるのは、大人になった「邪気」だけなんや。

 悪意くん、邪気、そして純粋ちゃん。あなたの中には、誰がいる..?





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