(書評) 腰痛沼からの生還---『腰痛探検家』
以前ブログに掲載した書評に加筆したものです。文学書が一番好きですが、興味の幅が広いので、ほぼ毎日、色んなジャンルの本を読んでいます。書評は旧刊を中心に紹介しています。
★「腰痛探検家」 高野秀行 (集英社文庫)
腰痛に悩んでいる人は多い。「口に出さないけど実は腰痛」の人は、性別年齢を問わず膨大な数だと思う。元々、人間が直立して歩く自体が不自然だとも言われている。私の周囲にも慢性腰痛持ち、腰痛で手術した人が何人もいるし、私もさんざん悩まされてきたのでよく分かる。
今も時々、腰痛に襲われるけれど激痛という程ではなく、日常生活で腰に負担をかけないよう注意している。立ち仕事の人も大変だが、長時間座り仕事をしている人も要注意のようだ。
実は腰痛の8割以上は、手術は不要だが原因不明なのだとか。
●腰痛の中では、ときに手術が必要で、原因を特定できる腰痛が全体の15%
腰椎圧迫骨折、脊柱管狭窄症、腰椎椎間板ヘルニア、坐骨神経痛など。
●手術が不要で、原因を特定しづらい腰痛が全体の85%
筋性腰痛、椎間板性腰痛、椎間関節性腰痛、仙腸関節性腰痛など (出典)
ぎっくり腰も辛いが、急性の腰痛は一定期間で収まる。でも慢性腰痛は、毎日痛みと不便が続き、「できないこと」が増えて生き方も消極的になっていくし、「一生この腰痛と付き合わないといけないのか…」と思うとメンタルにも響く。
この本の著者は、人が行かない世界の秘境を探検して、そういう本を書いている。ジャングルや危険地帯に何度も行っている冒険家だが、40歳の時にブラインドサッカーに体験参加した時、突然酷い腰痛に襲われ、その後ずっと腰痛に悩まされて仕事も生活もままならなくなる。
から始まり、そのブラインドサッカーをしている時にはこうなる(゚Д゚ノ)ノ
そして整形外科、整体、鍼、エクササイズから心療内科まで(腰痛の中には心因性もある)様々な療法を試す「腰痛難民」になる。この本は、その体験記だ。
どの療法も最初は効果がありそうに見えるが、効き目が続かない。多額のお金と時間をかけて必死にあちこちを試して回るが、その道のカリスマといわれる先生にも見放され、自分は難病なのではないかと思いつめ、精神的にもかなり追い詰められていく。後になれば笑い話かもしれないが、その渦中は笑うどころではなく、メンタル崩壊しそうな感じが伝わる。
壮絶な泥沼のような状態から、結局どうなったのかは本書を読んでほしいけど、私は心療内科の無愛想な先生の言葉が印象的だった。
「あなたは腰痛そのものに執着しているの。心因性腰痛の人は腰痛のことばかり考えているの。それがいけないの」
誤解のないように言うと著者の場合は心因性腰痛と断定されたわけではないし、腰痛の全てが心因性ではない。ただし「執着が症状を生む」のは本当のようだ。
ハーバードだかスタンフォードの研究で「その症状について考えれば考えるほど症状が悪化する」のが実証されているし、多くの患者を調べた結果、体の状態に一喜一憂しすぎる人は、強迫観念のようになり、かえって悪化するそうだ。それだけ人の意識は体に作用するということですね。
ただし、腰痛には別の病気が隠れていることもあるので注意が必要だ。
知人男性は腰痛が収まらず、病院で検査したら原因は腎臓だった。
遊走腎という、腎臓が正常な位置から下垂してしまう病気でも腰痛が起きるし、女性の場合、右側に腰痛がある時は子宮内膜症や卵巣関係の婦人科病が原因の場合もあるとか。
腰痛には整形外科的原因、内臓の原因、心因性の原因があるので厄介だ。
私の通っている整体の先生は、ギックリ腰も、元々腰に問題のある人に起きると言っている。「腰が全く悪くないのにギックリ腰になるケースはほとんどない。本人が自覚していないだけ」
この本は「こうすれば腰痛は良くなる」という実用書ではないし、この方法が効いたという紹介でもないが、腰痛持ちなら共感できる部分が多いんじゃないかと思う。
今腰痛じゃない人も、いつか腰痛に襲われたときの参考になるかも。
突然来るからね。
↓腰痛の危険度セルフチェック
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