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保育士ママがこうもりの絵本を作る話(4)

前回のお話

3月

月イチでの打ち合わせは、毎回2時間程度対話をする事で進んでいた。

たくさんのアイデアをまとめる為、絵本に込めるメッセージをどれにするか絞っていくことにした。

その頃、厚労省が児童養護施設で暮らす子どもや若者について、原則18歳までとしている自立支援の年齢制限を撤廃する方針を決めたというニュースが注目されていた。

私たちの対話でも、施設にいる間の子供たちの心理的安全性についての話に広がった。

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子供の声を、聞ける人と聞けない人がいるんですよね。」
とKが切り出した。

「一般的な話なのですが、親から離れた子供は早く親元に戻りたいし、
もし離れなければならない状況を理解しいる子なら、その間は時が過ぎるのをじっと耐えていたりもします。

あとは、親の代わりに世話をしてくれる別の大人にストレスも感じるでしょうし・・・そんな中で、声色や態度から子供の本音に寄り添えるかどうか、それが施設の職員には重要なことだと思っています。」

子育て中の身としては(自分には、できているかな・・・)と、ドキッとしたと同時に、誰にでも理解しやすいメッセージだから、これを核にしていけたら形になりそうだと思った。

「なるほど。そのメッセージ、Kさんの感じていることがすごく伝わってきます。この物語の中でどういう風にしていくか考えましょう。」

***

先日の会議の後、ふと思いついたことがあったので取り急ぎご連絡いたします。本当にただの思い付き程度なので、ご了承ください。また、思い付きを伝えやすいと思って、めちゃくちゃ下手ですがイラストにしてみました。

参考程度に、とKからメールが来たのは、打ち合わせの1週間後。
PDFで全部で32ページ分(=絵本の標準的なページ数)の下書きが届いた。

初期

絵心があるなぁ、羨ましい。さすが保育士試験の「造形」実技を通過しただけある。

早速印刷して、簡易的な本にしてから物語を読んでいった。

こうもりの子供が、様々な経験をしながら、気付きを得る。
第三者視点で語られ流れを理解しやすく、シンプルで読んだ子供の内面世界を広げられる、いい本だなと思った。


絵本の難しさ


この下書きをベースに、物語をブラッシュアップし始めるのだが、
最終版の物語になるまでは、実際は5ヶ月ほど要した。

絵本は子供向けであるけれど、それを手に取ってくれる大人に向けたでもある。だからその大人に必要とされる話にしよう。これは、ビジネスにおいては基本的な考え方だ。

けれど、絵本のストーリーを考える時は、そういった大人視点で描いてはいけない。

これは我が子に、年間100冊を読み聞かせて実感したことだが、
大人がよかれと思って読む「説教じみた話」に、小さな子供たちはとても敏感で、すぐに飽きる。
それはどんなに絵が美しくても、人気の本でも、意外性のある話でも同じだ。

ほら、主人公が大変そうでしょ?」
ほら、面白いでしょ?」
ほら、これからはこうしなさい」

こういった大人の気持ちが、子供には全部伝わっている。つまり

「なんか、主人公が大変そうだなぁ」
「ここ、面白いなぁ!」
「こんどから、こうしてみよう」

そういう風に子供自身が感じるお話にする必要がある。

子供の想像できる余地を残さなければ、子供の心を動かせない。

私たちの絵本作りは、その答えを探すため長いトンネルに入っていった。

余談


もし今も「子供心・少年の心」があるという大人がいたら、ぜひ一度絵本を作ってみて欲しい。

書いていくうちに、子供たちに伝えたいことが山ほど出てくるだろう。
しかし、ふと思いつくその9割は説教じみた視点やセリフになってはいないだろうか。

それは絵本には向かないが、大切な事なのでぜひインターネット上で発信してほしい。
その内容を、近くの誰かと語り尽くす頃には、心の中の「お話の苗」が育っているから、あなたにもきっといい絵本が作れると思う。


続く

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