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保育士ママがこうもりの絵本を作る話(3)

前回のお話

物語のテーマと進め方


絵本作りは、お互いの仕事や生活に支障をきたさないよう、
月に一回、zoom会議を中心に進める事にした。

これからKが物語を描き、私はそこに並走して必要な作業を担っていく。

前出の設定案を出した後「あぁ、本当にはじまった…」という余韻の中、私は資料集めに勤しんでいた。

こうもりの生態から絵本の作り方まで、近所の図書館とインターネット検索で、比較的容易に知ることができた。

その一方で物語のテーマについては、じっくりKとの対話の中から見つけようとしていた。

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12月


初回のzoomでは、コウモリの話題や参考になった書籍、そして関わりのあった子供たちへの思いを共有していった。

私たちは漠然と児童養護施設の子供たちに届けたいという思いを抱いていたが、お互いの制作の動機を書き出したら、違いも見えてきた。

私:孤独を感じている子どもが、将来の夢を描ける手段を増やすため。
K:子どもたちをはじめとして、苦難のなかにある人たちの力になるため。

まだ輪郭はぼんやりとしているが、何となく物語のテーマになりそうな思いが現れ始めていた。

背中を押すのか、優しく癒すのか。
ここから打ち合わせの密度が上がっていった。

「ところでKさん、この絵本ができたとして実際に施設の子に見てもらえるものでしょうか?」

「うーん、僕のいた所でも絵本はありましたけど、そこに置かれる本の基準とかは分からないですね。あと施設にあって読み聞かせるにしても、職員たちに余裕がないと難しいかもしれません。」

「確かに付きっきりになりますしね。絵本の寄付とか読み聞かせボランティアとかも聞いたことありますが。」

「それも施設によりますね...。」

「そうなると、やっぱりあげたい人に手渡しですかね。施設へ届けるなら本の寄付を受け付けている所を探しましょうか。」


1月


私はKが経験してきた施設の日常を、少しでも理解できればと「誰でも参加OK」という近隣施設の説明会に参加していた。

そこでは、児童福祉施設の子供たちと関わるボランティアは、継続的な参加が必須であり、単発NGな所が多い。

つまり、一度や二度来てもう会えなくなる大人と接することは、子供たちに心理的な悪影響を及ぼすということのようだ。

仕事や家族の状況で生活拠点を変えてきた(そしてこれからもするはずの)私にとっては、正社員への応募よりもむしろボランティア参加の方がハードルが高く思えた。


百聞は一見に如かずと参加したが、地域に根ざした児童福祉施設に対する認識を見直して、絵本のテーマをKの目指す癒しにしようと考えるきっかけにもなった。

Kとは、変わらず物語アイデアに関して毎回長文でメールでを送り合っていたため、
その甲斐あって、こうもり以外の登場人物や舞台設定、アイテム案や参考書籍等を共有しながら、物語の軸を煮詰めていった。

***

1月のある日のLINE。

お疲れさまです。保育士試験、全国・神奈川県とも合格できました。(K)
合格おめでとうございます~!私も両方受かってました!(私)

無事に保育士の道が開いた年の始まりとなった。


2〜3月

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「僕はやっぱり、あの子たちに読んでもらって、寝る前の少しだけでもホッとしてもらいたいんです。」

「前にいた施設の子たちですね。」

「はい、もうその子たちが施設を出ていても良いんです、大人になってからでも、どこかで読んでもらえたら・・・。」と、Kは続けた。

福祉施設には、それぞれに運営方針や経営層の考え方があり、結果的にKは前職の児童擁護施設から離れる事になった。

しかし施設を離れた後も、Kは子供たちに対する心残りがあるように見えた。現場で責任感を持ってやり遂げたかった事があったのだろう。

作りたいのは「あの子たち」がホッと癒されるような物語。
12月には漠然としていた、読者の輪郭がクッキリと描かれた。

3月、ついにKが原稿を書き始めた。

(続く)