NO.2の育て方 vol.67 ワンマンの限界/リーダーの違いがもたらす組織の勝敗
有能なトップが一人存在しさえすれば組織は発展するのか、ナンバー2必要論を説く立場としてずっと考え続けているテーマです。
一定の規模まではトップの才覚だけで成長することはできるかもしれませんが、トップ一人では手に余る組織規模になった時や環境の変化を迎えた時に停滞したり、ともすると衰退するのが結論だと私自身は考えています。
自分は優れた経営者であり、有能な部下などいなくても問題ないと思っているとしたら立ち止まって考えて頂きたいのが人材活用です。
■項羽と劉邦に見る組織の勝敗
組織の発展や勝敗を分けるものは何かを考える際に取り上げられる題材として項羽と劉邦の戦いがあります。
秦王朝の滅亡後、項羽と劉邦が覇権争いし、最終的に劉邦が勝利した楚漢戦争をご存じの方は多いでしょう。
当時20代後半だった項羽は中国史上まれにみる戦の天才と言われていました。
一方の劉邦は50歳過ぎで、人間的な魅力はあるものの、戦下手で項羽に負けては逃げ回るような有様でしたが、最終的に劉邦が項羽を打ち破り、天下を取り、漢王朝を開きます。
※詳しくはwikipediaを参照ください。
■負け続け、逃げ回っていた劉邦が戦の天才である項羽になぜ勝つことができたのか?
劉邦の有名なエピソードのひとつに、なぜ自分のような人間が戦の天才である項羽に勝つことができたのかを語るシーンがあります。
項羽は戦の天才ではあったものの、自分の判断力に絶対的な自信を持ち、軍師の范増の助言すら信用しませんでした。項羽は時に重要な情報や戦略的な助言も無視することがあり、結果として不利な状況に陥ることが度々ありました。
范増は有能な軍師で、再三適切な助言を項羽に与えており、その言葉に従っていれば項羽に敗北はなかっただろうと思います。
また、項羽は功績に対する報酬をケチる傾向があり、戦功に基づく報酬を不公平に分配し、部下や同盟者との信頼関係を損ない、組織の結束力を弱体化させる要因も作りました。
簡潔に言えば、自己に対する過度な自信によって部下の才能を活かすことができず、また、論功行賞においても部下の不満を募らせた結果が敗北に繋がったということです。
つまり、項羽はワンマンなのです。
戦の天才だから戦に勝つことはできる。けれども自軍の拡大に伴うマネジメントが機能していないために総合力では負けてしまった訳です。
過度な自信を持ちすぎるトップは大概同じ轍を踏んでいることは歴史を紐解くとよくわかります。
■現代経営におけるワンマンの弊害
現代に置き換えても、プロダクト作りや戦術に長けていて、業績を右肩上がりで続けている経営者は有能です。
ですが、どこかのタイミングから自分の会社なのに目が行き届かなくなり、人が増えるにつれ問題が増え続けるものの、業績が全てだと考えるので問題に目を瞑り、そのまま規模だけが拡大し、外部からは立派な会社に映っていても実は内部崩壊している会社は多いものです。
勢いはとても大事ですし、勢いを作ること自体凡人ではできないことだと思います。
一方で、問題を多く抱えた状態で規模だけが大きくなると弊害も生じます。
組織のメンバーの士気が下がり、有能な人材から去り、離職が増え、不安定な組織運営を強いられ、結果としてプロダクトも目新しさを失い、品質も低下し、顧客からの信頼も失ってしまい、いずれ業績が低迷することに繋がります。
上がれば下がるというのは道理です。この道理に抗うためには、ひとりの人間の能力に依存している状態から抜け出さないといけないことになります。
そのために必要なことは何かといえば、皆さんもわかりきっていることです。
人材活用です。
業務が増えたからそれに対応するために人を雇う。それだけでは人材活用ではないです。
人材活用は、組織に貢献してくれる良質な人材を確保し、育成し、活躍させることです。
そのためにまず採用です。待遇や諸条件だけではなく、本気で考えたメッセージを伝えないと自社にとって良い人材の応募がありません。
採用できたとしても、その人材の能力や適性をよく考えていかに成長してもらうかを考えないといけません。
次に、いかに活躍させるかを考えて、活躍の場を与えなければなりません。そして、活躍したのであれば公正にその働きを評価しなければなりません。
有能な人材を採用できた場合はなおさら考えないといけません。
その人材が最も能力を発揮できる役割はなにか、やる気を失わせず、いかに組織に貢献してもらうかを考え抜く必要があります。
■小さな会社ほど人材活用に取り組むべき理由
小さな会社である場合は、むしろ積極的に人材活用に取り組まないといけないと思います。
トップと組織の可能性を広げてくれるからです。
自分の限界をすでに感じているのであれば、社内に自分をサポートしてくれる存在を作らないと成長が止まったままになる可能性があります。
また、事業を大きくする、しないという判断は経営者の自由な判断ですが、仮に事業欲がなくても、雇用されている側には承認欲求やより良い待遇を欲しています。
そうした欲求を満たすことができなければ、非正規雇用でも定着しないでしょう。
雇用を考えた時にただ人手が欲しいということだけでは、永遠に場当たり的な人の補充を繰り返すだけで、本当に欲しい人材を手に入れることはできないと思います。今時はパート、アルバイトの確保も難しい時代なのでなおさらです。
あらゆる点で経営者自身に非凡な能力がなければ、事業は望んでも大きくなりません。
私自身も小さな会社でナンバー2をしていたこともありますが、社員3人から15人まで規模拡大に貢献しました。
会社を真剣に考える人間が一人増えるだけで、会社のポテンシャルは飛躍的に高まります。
なぜなら、経営者の苦手とすることを肩代わりし、適切な意見を率直に述べ、実行してくれるからです。
小さな会社だから自分以外の人間の能力など頼みにしない、業務、作業をやってくれればよいと考えていると限界がすぐに来て、潰れない程度に継続できればそれでいいと考えるようになりますし、自社の商品やサービスを利用してくれるお客様も増えないので、経営理念を実現することもできなくなるかもしれません。
こちらの過去記事も参照ください。
私自身、中国古典をはじめとする歴史に傾倒している理由は、時代がどれだけ変わっても歴史にヒントや答えがあると思っているからです。
記事の大半はそうした歴史を紐解いて得た学びを基盤に書いています。
劉邦になりたいか、項羽になりたいかは人それぞれでしょうし、時代が違うのだから違うアプローチがあるはずだと考えるかもしれません。
ただ、時代が変わっても人間の本質は大きく変わりませんから、歴史にはヒントがたくさん眠っています。
楚漢戦争のエピソードが気づきに繋がりましたら幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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