癖~拝啓 十六の君へ~
拝啓
この手紙を読んでいるあなたは、渋谷のカフェチェーン店にて、ある芸能事務所の所属をかけた面接を受けていることでしょう。
目の前には40代半ばに見える一人のスーツ姿の男性。その事務所の一番偉い人。
あなたは元子役。
あなたは初のオーディションで、口角をへの字に縫い付けられたスタッフ相手に全力でビヨンセの物真似をした女。
あなたは小学生にして正月特番のオーディションにて突然振られた写真大喜利でスタッフからIPPONとった女。
そんな過去の成功から、今回の面接も上手くいく、そう思っていることでしょう。
驚かないでください。
そんなあなたがこの面接の帰り道、沢山自分を責めて沢山泣きます。
相手からの質問に答えては否定されて、答えては否定され、遂には自分に自信がなくなり、あなたはその場で泣きだします。
自分の考えが浅はかだった。覚悟が足りなかった。
そうして家に帰ってから、所属の断りの連絡を入れることになるのです。
それから数年経た今、19歳の私は、16歳のあなたにどうしても伝えたいことがあります。
それは
世の中には"若い女を論破することが性癖の男がいる"ということです。
なんだあの絵に描いたような圧迫面接。
あなたが今体験しているのは誘導尋問と圧迫面接のコンボです。まじで最悪。あなたは何も悪くありません。
目の前の男は自分が支離滅裂なことを言っているだけなのに、あたかも女を掌で転がしているような気分になっています。まっっじで最低。園子温の若手女優の扱いくらい最低。
あっ、でもだからといって語気を荒げないで。
こいつらは女の癇癪で悦に入るよ。一回落ち着こう。ヒーヒーフー。
あなたがやることはただ一つ。
その目の前にあるアツアツのココアを、机の下にある打製石器くらい長く尖った革靴にかけろ。
なるべく広範囲にな。
敬具
奨学金返済に充てます。