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「雨男の苦悩」・・・めぐり合わせ、偶然、そんな言葉では言い表せない。



『雨男の苦悩』


旅行が好きな麻田君は、学生時代からバイトでお金を貯めては
海外旅行に出かけていました。

好きな地域を何度も訪ねていると、
現地のガイドや旅行会社の添乗員さんと仲良くなることも多くあります。

「君、そんなに旅が好きだったら、卒業したらウチの会社に来れば?」

と何度か誘われ、

「それも良いかな」

と一時は考えたのですが、結局、麻田君は旅行会社に行くことを諦めました。

なぜかって?

そう決断せざるを得ない出来事が、続いたからです。

場所は、イタリア屈指の景勝地、青の洞窟。
ここでの経験が一番大きかったと、麻田君は今でも話しています。

青の洞窟は、ナポリのカプリ島にある海に面した洞窟で、
断崖の水面ギリギリの高さに、わずかに開いた入り口があり、
そこから中に入ると、入り口から入る光が深い青色の海水を照らし、
暗い洞窟内に青い光が満ち溢れるという、神秘的な場所です。


麻田君が最初に訪れたのは、大学1年の10月のやや肌寒い日でした。

イタリア周遊の団体旅行で、翌日にはベニスに移動する予定だったので、
洞窟に入れるのはその日のその時間しかなかったのですが、
あいにくの雨。洞窟ツアーの船は出航できませんでした。

「秋から冬にかけては天候も良くないから、夏に又お越しください」

と、現地ガイドに言われました。

そこで麻田君、
翌年の8月。夏休みに個人旅行で、再びカプリ島を訪れました。
今回はまるまる一日カプリ島で過ごすスケジュールを組んでいます。

到着した日は晴天でしたが、少し遅い時間の到着となったので
洞窟探検は翌日の朝にして、宿に入りました。

麻田君は期待で中々眠れなかったそうです。

それでも翌朝、たまたま前回お世話になった現地ガイドの方と出会い、

「去年の雪辱に来たの?凄いね」

と驚かれると、寝不足も何のその。天気も晴れて、意気揚々と
洞窟探検ツアーの船が出る桟橋まで行きました。

ところが、船は出ないというのです。

空は晴れているが、風が強く、波が高いので、
船は洞窟内に入れず、その日のツアーは全て中止になっていたのです。

「こんな事もたまにはあるさ。ベストシーズンは6月だから、
今度は6月にいらっしゃい」

とガイドさんに言われ、麻田君は三度目の挑戦を心に決めたのでした。

そのチャンスは早くも翌年に訪れました。

学校のゼミの先生が、都合で6月に一週間ほど休講をする事になり
麻田君は早速、チケットを取ってカプリ島に向かいました。

今回は余裕をもって島で3泊する予定です。

そこで、すっかり馴染みになった現地ガイドの人に、

「そんなに好きならウチの会社に就職しないか」

と誘われたのでした。

しかし麻田君は、答えを出しませんでした。
将来の事より、目の前の青の洞窟に集中したかったのです。

ベストシーズンの6月、晴天。
今度こそは、と期待に胸躍らせ、テルテル坊主も3体ほどバッグの中に忍ばせてきました。
しかし結果は・・・なんと3泊4日連続で荒天。
海も荒れて全く洞窟には近寄れません。

帰国の時になって、現地ガイドに冗談交じりで言われたのでした。

「頼むから、もう来ないでくれよ~」

ところが、麻田君はこの冗談を真に受け、言葉通りに受け止めてしまい、
現地ガイドは勿論、旅行会社に就職する道も諦めてしまったのです。


ちなみに、麻田君は、
アフリカ、サハラ砂漠を訪れた時、
なんと数十年ぶりに、砂漠に雨を降らせたこともありました。

もしかすると、旅行会社や現地ガイドに就職しなくて良かったのかもしれません。


おわり

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