「斜めと歪み」・・・本当に怖いのはどっち？

2021年6月9日 05:18

『斜めと歪み』　　作　夢乃玉堂

「又斜めになってるわよ！ちゃんと見てるの？　　　　　　　　　　　　　よそ見してると落ちるわよ」

脚立の上でバランスを取りながらポスターを貼っている翔太に、私は叫んだ。

「細かすぎるよユガミンは。
少し斜めになってるくらいの方が、カッコ良くないか。
斜めの危うさこそが人を惹きつけるって、
それがピサの斜塔の魅力だってこの前言ったろう」

「ピサはピサ、あなたはあなた、生徒会は生徒会。
生徒会のポスターは真っ直ぐじゃないとマズいでしょ！」

「は～い。分かりました湯上生徒会長殿・・・」

それからひとしきり茶化してから、
翔太は『授業中はスマホ禁止！』と書かれたポスターを貼り直し始めた。

中身は純粋なくらい素直なのに、他人にはワルっぽく見られたがる。
そんな「昭和な」翔太だから、告白も斜に構えていた。

「ピサの斜塔の魅力は、繊細で調和に満ちたドゥオーモ広場が
隣にあるから際立つんだ。
調和の中に少し危うさがあるから魅力的に見えるんだよ。
だから俺の横にはいつもお前みたいな人にいて欲しい」

『なんだ引き立て役かよ！』とちょっと腹が立ったのが、
まあ、運の尽きってやつかな。
そんな間抜けな告白をしてくるのは、進学校の男子では珍しいかったのもあって少し面白いと思ったのは確かだ。

だけどその時、ピサの観光客が手で斜塔を支える恰好をして
写真を撮りたがる気持ちが分かったような気がした。

みんなが一斉に斜めに傾いたら、ただの危険だけでつまらない。
危うさを支えあうがゆえに、人生は魅力的になるのだ。

翔太は、私にも何かを感じ取ったのかもしれない。
そんな事を思い出しながら、私はう一度指示を出した。

「左が下がり過ぎ。左を上げて！」

「よし、これで良いでしょ」

「ダメよ。今度は少し右が下がってるわよ。あなた真っ直ぐが嫌いなの？」

「ええ？　ちゃんとなってると思うけどな・・・」

もう少し、もう少しだけ・・・上を見ていて。
脚立に昇る時、落とすと危ないからと言って預かったあなたのスマホから、
女子の電話番号をもうすぐ全部消してしまえるから。

ねえ。それが分かったら、さすがにあなたも気づくでしょう。
ユガミっていう私の呼び名が、名前から来ているだけじゃないことを。

それでもあなたは同じことを言えるかしら・・・
調和の中に危うさがあるのが魅力だって。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　おわり

ピサの斜塔は、イタリアのピサ市にある聖堂の鐘楼で世界的に有名な観光スポット。
高さは地上55.86m。傾斜した原因は、南側の地面がやわらかく、年月を経るうちに傾いて
しまったものと言われています。

ルールが嫌いで良く調べないのも、
ルールを信じ込んで他人を不謹慎だ、と糾弾するのも
実際の行動と影響を考えずに行うのは危険を伴います。
もしかしたらその問題、良く調べてみれば、行動の仕方で何とかなるのかもしれませんね。

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