「足音の群れ」・・・超ショート怪談。肝試しに連れてこられた女の運命は。
大学の女友達である真理愛に誘われ、Y県にある廃線跡のトンネルを訪ねた。
「このトンネル、出るって有名なんだ。地元の人が何度も見ているらしいわよ」
「やだ~。早く帰ろうよ」
私は全く怖いのが苦手、真理愛はそれを知ってて、心霊スポット巡りに誘って来る。
それなら行かなければ良いじゃないかとよく言われるのだが、
真理愛には上手い事言いくるめられてしまう。
「大丈夫だよ~。トンネルの向こうに美味しいパフェのお店があるから。行こう」
まあ、私が食いしん坊なのがいけないのだけど、
真理愛は美味しいお店を餌に、私を心霊スポットに連れ出すのだ。
そして私は毎回、怖がりながら付いて行く。
「早くおいで~」
真理愛の呼びかけに速足で通り抜けようとしたら、
私の後ろから、ペタペタペタ、と裸足で走っているような音が聞こえてきた。
「あ!ヤバイ!」
と思った時には、もうその音は私を追い越して行った。
一度だけではない、ペタペタという音は後ろから前に向かって
何度も走り抜けていく。
「そんなとこにいると~、後ろから幽霊が追いかけてくるゾ~」
50メートル程先のトンネルの中で、真理愛は笑顔で手招きしている。
その動きに導かれるように、たくさんのペタペタ音は私を追い越し、
真理愛の方に流れて行った。
その時私は気付いてしまった。
ペタペタという音は、裸足の音では無かったのだ。
それは手首から先だけの白い手が、ヤモリが壁に貼りつくように、トンネルの天井にすがりついて、前に進んでいる。
しかも、その手の群れは真理愛の立っている辺りの天井に集まっていた。
天井で蠢いている白い手に全く気付かず、
真理愛は、手招きを続けている。
「きゃああ~!」
私は耐え切れなくなって声を上げ、その場にしゃがみ込んで気を失った。
その後、私は一人で、最寄り駅の小さな駅にいた。
ホームのベンチに座っているところを駅員さんに声を掛けられ、
目を覚ましたのだ。
間も無く終電だと言われ、連れは見かけなかったかと聞き返したが、
真理愛どころか、他の人の姿も見なかったという。
その後ずっと、彼女とは会えなかった。やがて、人知れず大学を辞めたという噂を聞いたが確かめてはいない。
おわり
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