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「自転車置き場の対決」前編・・・ラジオ用に修正し、書き下ろしました。


昨日、ラヂオつくばで放送された作品はたくさんの方にお聞きいただき
感謝に耐えません。さて、毎回ラジオ朗読用台本は、こちらに一部修正し書き下ろしているのですが、日を改めて修正版を公開いたします。

その前に、以前ラヂオつくばで朗読された作品を修正、再録いたします。

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『自転車置き場の対決 前編』


放課後、職員室に呼び出されて遅くなり、
麻田等は、ひとり教室で帰り支度をしていた

「ああ。ちょうど良かった。麻田。一緒に帰ろうぜ」

声を掛けてきたのは、同じC組の畑中徹だった。

畑中は野球部のピッチャーで、体育会系のモテる奴。
よく笑い、明るくて話好きで、試合中でもずっとヤジと声援を飛ばすため、
「喋りすぎるエース」とライバル校からあだ名を付けられている。

色々なクラブを短期間で渡り歩き、
結局帰宅部になってしまった麻田とは違い、
健全な高校生を絵にかいたような奴だった。

そんな真逆のポジションにいる学園のヒーローが
たいして親しくもない麻田に声をかけてきたのだ。

『教室に一人で残っていたのを可哀そうに思ったのか?
いや、小学生じゃあるまいしそれはないだろう』

いまいち、畑中の本心が分からなかったが、
断る理由も無いので、言われるまま麻田は
そのまま鞄を持って一緒に教室を出た。

畑中は雄弁だった。
フォークの投げ方とか、巨人の新人選手の高校時代の成績とか
野球好き特有のコアな話題を隙間なく並べていく。

全く野球に興味のない麻田は、
どうリアクションして良いのか分からず、生返事を続けるだけだった。

日頃付き合いのない相手には
どれくらいの距離感でいればいいのか分かりにくい。

それでも構わず『喋りすぎるエース』は話し続けた。
それはまるで、黙ると死んでしまうような新しい生き物のようにも見える。
麻田はちょっとストレスを感じた。

「よく喋るなぁ。そんなに野球の事ばかり聞かされても、
俺半分も理解できないよ~」

怒って言ったつもりはなかったのだが、少しきつく聞こえたのだろう。
意外にも畑中は大人しくなった。

「ごめん・・・俺、自転車だからあっち回っていいかな」

「う、うん。別にいいよ」

正門から帰る麻田にとっては遠回りになるが、
言い過ぎた罪悪感もあって付き添うことにした。

校舎の裏にある自転車置き場には
下校時間を過ぎても、十台ほどが残っている。
律儀に校則を守る自転車のバックミラーが
傾きかけた夕日を反射して輝いていた。

畑中が手早く自転車のチェーン錠を外したところで、
通路の端に、女生徒のシルエットが現れた。

畑中と付き合っていると噂のB組の笠谷ひとみだった。

『チェッ。俺は待ち合わせのカモフラージュかよ。
二人が公認の仲なのは、みんな知ってるのに・・・』

麻田は心の中で舌打ちをしたが、
畑中からは恋人に会えた喜びは感じられなかった。

ゆっくりとひとみが近づいてくると、
畑中は、麻田の後ろに身を隠すように一歩下がった。

ひとみの目には、強い決意が浮かんでいた。

『なるほど、そっちか。俺はカモフラージュじゃなくて、
バリケードだったんだな』

状況を把握した麻田は、ひとみにこう言った。

「席を外そうか」

彼女は静かに頷いた。

傍を離れる時、麻田は畑中に言った。

「逃げない方が良い。辛いのは相手も同じだから」

俯き加減のひとみの横を通りながら
麻田はちょっと不謹慎な事を考えた。

『俺は、遺恨試合のプレイボールを宣言したのかもしれないな。
もしそうなら、アンパイアとして最後まで見届ける義務があるぞ
いや。好奇心ではなく、真面目にね』

麻田は、通路の端にある角から、自転車置き場の二人を見守ることにした。
知り合いの恋愛模様を覗き見るのは無粋だが
一応、どちらかが危険な行動を取るようなら、
すぐに仲裁に飛び出すつもりだった。

後編に続く。


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