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「・・・愛しています」  思い続けた言葉を伝える瞬間・・・

体調が悪く、色々ありますが、
ちょっとこんな話です。


長く切ない、秘めた恋心が、今まさに弾けようとしている。その恋に未来はあるのか?


『・・・愛しています』 by 夢乃玉堂


「私はあなたを愛しています」
「私はあなたを愛しています」
「私はあなたを愛しています」

私は、2年間伝えられなかった言葉を何度も何度も口の中で反芻した。

2年前の入学試験の日。
大学への道が分からずに迷っていた私を
初対面にもかかわらず、バイクの後部座席に乗せて
試験会場まで連れて来てくれた先輩。

授業中、教科書が真っ黒になるほど書き込みをする先輩。
学園祭でフレディマーキュリーばりの美声を聞かせた先輩。
学食ではいつもBランチだった先輩。
休講になると必ず屋上で昼寝している先輩。

先輩が誰それと付き合っていると聞けば落ち込み。
別れたと聞けば、天に届かんばかりに舞い上がる。

そのどの瞬間も私の心を震わせてくれた。

なのに、一度も会話を交わすこともなく、
2年間を無駄に過ごしてしまった・・・
私は本当に意気地なしだ。

今も、先輩のアパートの前で、
インターホンのボタンを押すか押さないか、
もう1時間も迷っている。

「押さなければ・・・。行ってしまう・・・
今日先輩は田舎に帰ってしまうのよ。分かってるんの!」

私は、自分を必死で鼓舞した。

卒業を迎えた大好きな先輩が
あと数時間でこの町からいなくなってしまう。

私の勇気よ。この先一度も顔を見せなくても良いから
今この瞬間だけ、出て来ておくれ!

私は又、呪文のように口の中で反芻した。

「私はあなたを愛しています」
「私はあなたを愛しています」
「私はあなたを愛しています」

そして、意を決した私は
目をつぶってインターホンのボタンを押した。

ピンポーン。

冷たく聞こえる機会の呼び出し音に続いて、
優しそうな男性の声が聴こえた。

「はーい」

ガチャリと、ドアが開く音がする。

恥ずかしさで頭を上げられない私は、出てきた先輩の顔も見ずに、

「私はあなたを愛しています」

と、言うつもりだった・・・そのはずだったのだ。

ところが、私の口から出たのは、

「あなたは私を愛しています」

だった。


違う! そうじゃない。

一気に血管が膨張し、
頭から湯気が出ているんじゃないかと思う程
体温が急上昇した。

やばい! ダメだ! 逃げ出したい、でも、体が動かない。
頭を下げたまま小刻みに体を震わせている私に、
優しく穏やかな声が掛けられた。

「う~ん。初対面だからな、
それはちょっと分からないが、
あなたが勇気を振り絞って、わしのところまで来たことは、
とても良く分かりましたよ」

『わし?』

言葉に違和感を感じて、
私は頭を上げた。

目の前には白髪の品の良い老人が、にっこり笑って立っていた。

『この人は誰? 先輩に似てるけど。まさか私がタイムスリップしたの?』

と混乱の極みにある私の眼に
老人の肩越しに声を掛けてくる先輩の姿が見えた。

「引っ越し屋さんが来たの? 父さん?」


おわり

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