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突きつけられた現実【カタールW杯: Bグループ】イングランドvsイラン

6-2。アジアの国の中で最もFIFAランクの高いイランがイングランドを相手に粉砕された。スコア以上にインパクトの強い内容だった。もちろんイングランドは強豪国ではあるのだが、それ以上に「イランの歯が立たなかった」という方がこの試合を形容するのにしっくりくる内容だった。

マッチレビュー

イランは5-4-1の布陣でただ後ろにブロック作るだけでなく、ハイプレスをかけて奪おうという姿勢を見せた。しかし、このハイプレスはイングランドのビルドアップにあまり影響を与えずにむしろ中盤以降にスペースを与えてしまった。

イングランドは基本的に4バックと3バックを使い分けてビルドアップ。下の図のように基本的にボールサイドのSBが最終ラインに入り、逆サイドのSBがやや高い位置を取ることが多かったので3バック+ライスの3-1でボール保持がメインとなった。この時にイランはボールサイドのSHを積極的に前に出して圧力をかけようとした。しかし、イランがハイプレスで人に付いていても、イングランドのテンポの速いボール回しについていけない場面やボールが取れそうな局面で1vs1に勝てず、ことごとく後退をせざるを得なかった。

イングランドのビルドアップとイランのハイプレス

イランはタレミとハジサフィはかなりタイトな守備ができていたが、その以降の後ろの選手が2〜3歩遅れて連動したのでイングランドはほとんどプレッシャーを感じていなかったように思う。その結果、ライスやベリンガムにボールが入っても簡単に逆サイドへ展開を許したり、サカやスターリングにターンを許す局面は散見した。

イランは前進を許すと5-4-1のローブロックでイングランドの攻撃に対応。しかし、CB+SB+WGの3枚に対して、イランはSH+WBとなるので後手を踏むことが多かった。そして、イランが我慢し切れずにSHが飛び出してしまったことで空いたSHとボランチのギャップ(ハーフスペース)をイングランドはマウントやベリンガム、あるいは絞ってきた両WGに使われてしまった。

イングランドの1点目はまさにその現象が起こった。下の画像のようにイランのRSHがマグワイアまでプレスに出たことでギャップが生まれ、マウントへの縦パスが通った。そこからスターリング+ショーvsモハラミの2vs1の局面となり、ショーが余裕を持って精度の高いクロスを上げ、後ろから飛び込んだベリンガムのヘディングシュートが決まった。

イングランドの1点目

イランは自陣で奪ってからCFのタレミを起点にカウンターを仕掛けたかったがタレミはマグワイアとストーンズに監視されていたのでポストプレーはほとんどさせてもらえなかった。またイランがボールを奪ったとしても、ライスの中盤で攻撃の芽を摘むリスクマネジメントやベリンガムの高速プレスバックによって、イランが味方の攻め上がりを待てるような時間はほとんどなかった。前半だけで3-0とイングランドの3点リードだったが、内容と結果ともにイランが勝てる要素はほとんど無く、サンドバッグ状態だった。

後半から3点ビハインドのイランは3枚替えでフレッシュさを出して臨んだ。

イランは基本的なシステムは変わらないがSHをよりタイトにプレスをかけさせて、前半よりもRWBを前に出す意識を強めた。後半から入ったRSHのゴリザテが前に出て、それに連動する形でRWBのモハラミも前に出る形が増え、4-4-2の中盤がダイヤモンドのような形でプレスをかけた。しかし、下の図のようにベリンガムやマウントの緊急サポートで簡単にプレスを剥がされる場面や「マークに付いてはいるけれどプレッシャーにはなっていない」場面が後半も多々あった。

イングランドのビルドアップとイランのハイプレス

後半の16:10にイングランド4点目が入り、この試合が決定付けられた(前半だけで試合が決まった感はあったが)。イングランドの4点目にフォーカスしてみると、イランのGKのパントキックの質が低かったこともあってショーがドフリーで丁寧にスターリングにヘディングパス。スターリングはカナーニを背負いながらボールをコントロールしてドリブル開始、カナーニは振り切られそうになったところでスライディングでボール奪取を試みるも、スターリング簡単にかわされてサカへと展開。サカにボールが入った時にはスペースがあったのでイランDFは飛び込めずに、最終的にはタイミングを上手くズラしてサカが決めた。少しの差が大きな差となって結果に現れた場合だった。

イランはその後も5-3-2にシステムを変えるなど打てる手は全て打ったように見えたが、残念ながら惨敗に終わった。最後にPKで得点を取り意地は見せたもののイングランドとの差は歴然だった。

イングランドの不安要素

イングランドがめっちゃくちゃ良かったのかと言われるとそうでもない。と言うのも、かなり選手依存型のチームなので組織的且つ戦術的に戦ってくる強豪国に捻る潰される可能性は多いにあるだろう。

この試合に関して言えばネガティブトランジション時にライスが潰し役として機能していたが、そこが機能しないor1人では対処しきれない相手になった時に一気にシュートまで持っていかれる可能性がある。この試合でも何度かライスの潰しが効かずにイランがカウンターからシュートまで持っていった場面があった。

この試合ではあまり多くなかったがディフェンシブサードでの守備も統率が取れてない場面があり、イングランドの1失点目もDFラインがずさんでマグワイアとストーンズのギャップを使われて失点した。ユーロでは3バックだったがこの試合は4バックで挑んだこともあり、まだ4バックの守備は未完成に感じた。

また、ビルドアップもライスとベリンガムがボールの配球役だが、ここをしっかりと潰してくる相手と対戦した際の工夫はあまり無さそうだ。この試合もハメられた時にスターリング、マウント、サカの個の力で相手を剥がしたり、ロングボールでケインの高さと強さを使う場面もいくつか見られた。もちろん様々なキャラクターがいるイングランドなので、変化は加えることはできるかもしれないが「チームとしてのボールをどうやって前に運ぶか」や「フィニッシュまでの持って行き方」に工夫はあまり感じられなかった。

基本的なやり方は変わらないとは思うがこの辺の不安要素が改善されれば、個の質は揃っているので無敵艦隊となる可能性はある。


アジアと世界の差

この試合はアジアの国々が難しさが出た試合だったのではないだろうか。欧州各国が鎖国状態となり親善試合を行うことができなくなったことはアジアの国々にとっては厳しい現実だ。欧州各国を想定した『対○○』の準備ができないことやW杯まで欧州とどれだけの差があるのかという力試しができないことは大きく影響しているように思う。日本のグループにもスペインやドイツという欧州の2つの国がいるので、日本もこの懸念点は当てはまる可能性がある。

また、アジアのイランや日本、韓国、オーストラリアといった国々はアジアの中では強豪国とされる。それ故に対戦相手はドン引きのサッカーをしてボール保持率が60%や70%なんていう試合がザラにある。しかしながら、W杯で60%以上もアジアの国がボールを保持できる対戦相手などほぼいないので、そもそもの戦術やサッカーのスタイルを対W杯用に準備しなければいけない。この試合のイランのボール保持率はわずか21.9%。戦い方にもよるがアジアの国と戦う際にはまずありえない数字だ。

マッチスタッツ

イランも5バックでイングランド戦に臨んだが、WBとCBが連動できていなかったり、SHとWBが繋がってプレスをかけることができていなかった。この試合を見る限りでは"付け焼き刃"のようにも見受けられた。

アジアの国の中で日本にアドバンテージがあるとするならば、多くの選手が海外組で特に主力の多くは欧州でプレーしていることだ。普段から欧州の選手たちを相手に試合をしているので世界とのギャップは埋めやすいかもしれない。肝心なのはチームとしてこのギャップを埋められるかどうかだろう。ロシアW杯で感じた『世界との差』が拡がっているのか、縮まっているのか初戦のドイツ戦で知ることになるだろう。日本が世界を驚かせるようなパフォーマンスに期待している。

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