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タイの地での成果、課題、代償【ACLグループステージ第6節】山東泰山vs浦和レッズ

前節のセーラーズ戦で快勝しACLグループステージ突破を決めたレッズのグループステージ最後の相手は山東泰山。セーラーズvs大邱の結果によってはまだ1位通過の可能性も残っていたため勝ちがほしい一戦でした。レッズはこの試合では大きくメンバーを入れ替えて試合に臨みました。

マッチレポート

スタメン

浦和: 4-2-3-1
山東: 5-4-1


試合内容

30日、浦和レッズはブリーラムシティスタジアムで、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)2022 グループステージ MD6 山東泰山(中国)戦に臨んだ。

レッズは、前半に安居海渡、知念哲矢、松尾佑介がゴールを決めて3点をリードすると、後半にも松尾、知念がそれぞれこの試合2ゴール目を決め、5-0で勝利した。

グループステージ MD5の結果により、ノックアウトステージ進出を決めていたレッズは、27日のライオン・シティ・セーラーズ戦から先発メンバーを9人変更。工藤孝太が2種登録だった昨年4月21日の横浜FC戦以来、プロ契約選手として初めて公式戦に出場。また、牲川歩見、木原 励がレッズ加入後初めてメンバー入りをした。

立ち上がりから相手を敵陣に押し込んだ形で試合を進めていくレッズの選手たち。フィールドプレーヤー全員が敵陣に入って攻撃を展開する場面も多かった中、13分に先制点を決めた。

高い位置でのパス回しからボールを奪われたが、相手が前を向いた瞬間に安居が猛然とプレッシャーを掛けてボールを奪取し、そのまま左足でミドルシュート。前回の山東泰山戦では右足でのミドルシュートでプロ初ゴールを決めていたボランチが、見事な守備とシュートでゴール左隅に決めた。

その後もボールを支配し続けると34分、CKのセカンドボールを回収してパスをつなぎ、江坂 任が右サイドからクロス。これを相手の裏を取ってゴール前でフリーになった知念が左足で的確に合わせる。知念の加入後初ゴールが決まり、リードを広げた。

さらに前半アディショナルタイムには、右サイドに流れてボールを受けた江坂が岩尾 憲に預けて裏へ走り込むと、岩尾はキープしてから江坂の進行方向へパス。江坂が胸トラップして抜け出し、ゴール前にパスを送ると、ニアサイドに走り込んだ松尾が右足のヒールで進行方向とは逆方向へシュート。相手の守備を崩しきった攻撃と巧みなシュートで3点目が決まった。

後半も主導権を握って試合を進めながら、セットプレーでゴール前にボールを入れられる場面もあったものの、レッズの選手たちは集中を切らさずに危なげなく対応した。

62分には西川周作、大久保智明に代わって、牲川歩見、木原 励が出場。両者ともにレッズの選手として初めて、木原はプロとしても初めて公式戦のピッチに立った。

その直後、東南アジアらしいスコールに見舞われたが、68分には岩尾からのパスを江坂がワンタッチでゴール前に送ると、木原がゴール前に飛び出してトラップ。GKに詰められてゴールは決められなかったが、木原が初出場で持ち味を発揮した。

69分にはゴール前に飛び出した松崎 快はシュートを打てなかったものの、相手GKのクリアが小さくなると、こぼれ球が反応した松尾がペナルティーエリアの外からワンタッチでシュート。これに反応できる相手はおらず、ボールはゴール右へ。松尾はこの直後、明本考浩とともに馬渡和彰、関根貴大と交代となったが、2試合連続2ゴール、通算5ゴールでこのグループステージを終えた。

その後も大雨が降り続く難しい状況だったが、レッズの選手たちは大量リードでも攻める姿勢を崩さない。敵陣でのプレーを続ける中、85分には途中出場の馬渡和彰のCKから知念が競ったこぼれ球を拾った岩尾が右足でシュート。これは左ポストに当たって跳ね返ったものの、知念が詰めてこの試合2ゴール目を決めた。

レッズはそのまま5-0で快勝。6-0で勝利したライオン・シティ・セーラーズ戦に続く大量ゴールで3年ぶりのACL グループステージを締めた。

次戦は、5月8日(日)16時から三協フロンテア柏スタジアムで行われる、明治安田生命J1リーグ 第12節 柏レイソル戦となる。

※同グループのライオン・シティ・セーラーズ vs 大邱FCは荒天の影響で中断したが、2-1で大邱FCが勝利。レッズはグループFの2位となり、東地区5組の2位上位3チームに入ってノックアウトステージ進出を決めた。
浦和レッズオフィシャルサイト: ACL グループステージ MD6 vs 山東泰山「2試合連続大量ゴール! 4勝1分1敗でグループステージ突破」


試合結果

AFCチャンピオンズリーグ2022 グループステージ MD6
2022年4月30日(土)18:00(日本時間20:00)・ブリーラムシティスタジアム
山東泰山 0-5(前半0-3) 浦和レッズ
得点者 13分 安居海渡、34分 知念哲矢、45+1分 松尾佑介、69分 松尾佑介、85分 知念哲矢
入場者数 393人

グループステージ6試合の結果、グループF 2位となり、ノックアウトステージ進出決定。
※東地区5組の2位上位3チームに入ることが確定したため

・試合スタッツ


マッチレビュー

へっぴり腰

山東は前回対戦時と同様に5-4-1のローブロックでレッズの攻撃に対応してきました。しかし、時間が進むに連れて徐々に山東のラインが上がらなくなり、終いには宮本の上がりに対応するために左SHの11番がDFラインに吸収される形が増えました。

24:08では左サイドから右に展開したところからチャンスを作りました。下の図のようにボールを受けた知念の前には11番がDFラインに吸収されていたので大きなスペースがありました。知念がドリブルでボールを運び、背後を取った松崎へスルーパスを送りました。残念ながら左サイドCBの4番にカバーされましたが、ゴール方向に矢印が向いた良い攻撃でした。

24:08のレッズの攻撃

11番がDFラインに吸収された際に空いたスペースを埋めるのが10番の役割だったと思いますが、カバーできるほどの運動量があった訳ではなかったのでレッズとしては10番の脇から攻めることが多くなりました。

36:20では先程と似たような形で左から右へ展開して松崎がミドルシュートを放ちました。

36:20のレッズの攻撃

45+1分の松尾の得点シーンでも右サイドで宮本が高い位置を取って、江坂を経由してインサイドにいた岩尾にボールが渡りました。この時に岩尾への寄せが遅れたのも中盤の人数不足から引き起こされているように見えます。

山東はある程度押し込まれることを想定して6バックに可変するプランをしていたのかもしれませんが、山東が6バックにしたことで宮本が高い位置を取りやすくなったことや、中盤に大きなスペースが生まれて攻めやすくなったのでレッズとしては山東のへっぴり腰なゲームプランと相性が良かったです。


美味しいところは誰が食べる?

レッズは前節のセーラーズ戦での松尾のトップ起用をこの試合でも採用しました。松尾は瞬間的に背後に抜け出すことが上手く、更に連続してアクションを起こせるので山東のようなローブロックの攻略には有効でした。

しかし、相手も当然松尾の抜け出しには警戒してきますし、あまりスペースがない中でローブロックを攻略することは容易ではありません。ですが、松尾が背後に動き出すことで相手のDFラインは下り、DFラインの前のスペースは空いてきます。松尾自身は直接プレイに関われなくても、間接的にプレイに関わりスペースを作る役割として機能させることができます。

しかし、レッズの課題として誰かが作ったスペース(この試合で言えば松尾が作ったスペース)を使う選手がいないことが多いです。この試合だけに限らず、より効果的な攻撃を仕掛け、相手を攻略してゴールを奪うためには「美味しいところ(スペース)を誰が食べるのか?」を考える必要があると感じました。

・美味しいところに受け手がいない
17:19では江坂がボールを持った時に松尾が斜めの動きでDFラインの背後を取ろうとしました。その結果、山東の4番もケアするために松尾に付いて行き、中央付近にスペースが生まれました。しかし、残念ながら空いたスペースを使う選手がいませんでした。

17:19の松尾の動きとスペース

この場面では江坂も岩尾に対して「このスペースに入ってきて」というような指示を送っていました。3列目からの飛び出しは相手も対応が難しいのでボランチがリスクをかけて前に出ていっても良かったシーンに思えます。

・美味しいところにパスが出ない
50:55の場面では右サイドで背後に抜け出した宮本が岩尾のスルーパスを受けて、松尾へグラウンダーのクロスを入れました。この時に松尾の動き出しによってDFラインの前にスペースが生まれました。松尾へのクロスの選択も悪くなかったと思いますが、空いたスペースに松崎がいたのでマイナスの折り返しにしていれば得点に繋がったかもしれない場面でした。

50:55の右サイドからの攻撃

パスを出す選手も美味しいところ(空いているスペース)を認識しているのアタッキングサードの攻略が上手になってくると思いました。

・美味しいところを食べた明本
木原の投入で松尾は左SHにコンバートしました。松尾がトップから左サイドに移ったことで少しゴールから遠くなり、松尾の抜け出しの恐さが減少しましたが、それでも何回か良い動きを見せていました。

63:37では中央で細かいパスを繋ぎ、岩尾にボールが渡った時に松尾がゴール方向への斜めのランニングで大外にスペースを作りました。岩尾からフリーになった明本へパスが渡り、カットインからシュートまで持っていくことができました。

63:37の連動した攻撃

この場面は中央で岩尾が3人目の動きパスを受けたところから始まり、松尾が背後への動き出しでスペースを作り、明本が作り出されたスペースを使い、岩尾がそのスペースに入ってきた明本を認識してパスを出しました。こういった連動した攻撃がもっと増えてくるとレッズは自由自在に「スペースを作る、使う」ができるようになるので得点が増えてくると思います。

レッズがもう一歩高いレベルの攻撃を仕掛けるには出し手と受け手の関係ではなく、出し手と受け手と間接的にアシストする選手の3人の関係で攻撃することが重要だと思います。間接的にアシストすることができる松尾は今後のキーパーソンになってくるかもしれません。


タイのお土産

16日間で6試合とタフな日程をこなしたレッズは2位ながらもグループステージ突破を決めてタイから帰国しました。今回のACLグループステージを振り返ってみると、タイのお土産として日本でも有益な成果があったのではないかなと思います。

①松尾のトップ適正
先程も説明しましたが松尾の動き出しの質の高さを発見することができました。そして、松尾の動き出しの能力を1番効果的に使えるのはFWのような気がします。ただ、彼はドリブルも持ち味でありサイドアタッカーとしても魅力的な選手です。今後は必要に応じてFWとSHを使い分けていければ良いのかなと思います。

②即戦力の大卒ルーキー
今大会では多くの選手たちを試す良い機会でした。ほとんどの選手がアピールの機会を得た中で、安居と宮本の大卒ルーキーは今後のスタメンに名を連ねてもおかしくない活躍を見せました。

安居に関しては十分な実力を持ちながらもボランチという激戦区だったために、これまであまり十分な出場機会を得られませんでした。しかし、ACLでは多くの出場機会を貰い、中盤でのサポートの質の高さを発揮していましたし、ネガティブトランジションでのフィルター役としても機能していました。

宮本は右SBを主戦場にしているため、酒井と馬渡がいる激戦区で先発の機会が少なかった選手でした。ですが、ACLでは運動量豊富に右サイドでアップダウンを繰り返し、時には背後へのスプリントでチャンスを作りましたし、守備では粘り強い対応で安定していました。試合の中でインサイドのレーンに入ってのプレイも多くあり、プレイの幅を拡げた印象を受けました。酒井が骨折の怪我で戦線離脱したこともあり、今後の出場機会が増える選手の1人だと思います。

③キャンプ
6試合で多くの選手、様々なコンビネーションを試すことができたのは長いシーズンを戦う上でプラスだと思います。特にリーグ戦に戻る前に選手を試す期間を設けられたことで、今後スカッドを組んでいく中で大きな判断材料になると思います。どうしてもリーグ戦では選手を試すことが難しいですし、今のレッズの状況なら尚更です。ですので、今回のACLは日程は厳しかったですが、ある意味"キャンプ"のように利用することができたことは有意義な成果だと言えると思います。

・代償も…
グループステージ突破という大きな結果といくつかの成果を上げることができた一方で、代償があったことも事実でした。ACL前に大怪我をしてしまった犬飼に加えて新たに大畑、酒井、ユンカーが怪我をしてしまいました。ユンカーは手の指の骨折ということですぐに復帰できると思いますが、大畑と酒井は最低でも1ヶ月はかかりそうなのでレッズとしては痛手であることは間違いないです。


最後に

タイトなスケジュールと厳しい気候の中でグループステージ突破という結果を残して日本に帰ってきたレッズは素晴らしいと思います。特にレッズのグループは「引いて守ってカウンター」というプレイスタイルのチームとの対戦だったにも関わらず、最多得点チームとなり、失点も2点のみと上々のできでした。一方で大邱には最後まで得点を奪えず、最終的に2位通過となり短期決戦の恐さを教わる形となりました。

決勝トーナメントの相手は川崎や蔚山を抑えて勝ち上がってきたジョホール(マレーシア)に決まりました。ジョホールと対戦する時までにはチームの成熟や怪我人の回復を進めて、最高の状態で迎え撃ちたいところです。

ひとまずACLはしばらく中断となり、再びリーグ戦が再開します。幸運にもレッズがACLに行ってる期間に他のチームはリーグ戦がありましたが、引き分けが多かったこともあり、上位とそこまで大きくポイント離されませんでした。とは言え、暫定で15位とスタートダッシュに失敗した影響が出ていることも確かです。次節の柏戦では一戦必勝であることは間違いないので、ACLでの疲労をなるべく回復してACLでの勢いをリーグ戦にぶつけましょう。

ここまで読んでいただきありがとうございました。



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