見出し画像

サッカーを教えてもらえない選手たち

『主体性』や『自主性』そう言えば響きはいいが、悪く言えば『放置』である。

年末年始を利用して日本に一時帰国しているので、3日ほどサッカーの試合を観ることができた。そこで私は育成年代が抱えている問題を見たような気がする。

せっかく日本に帰ってきたので私が小学生〜高校生にかけてお世話になったクラブを訪ねた。ある日は小学生の時にお世話になった少年サッカーのチームが大会を主催していたので審判をしながらお手伝いをした。

その大会はU-12の大会で様々な地域からチームが集まってきていた。約8チームほどその日だけで見る機会があったが、サッカーを教えてもらえないチームがあった。あるチームはコーチが常に精神論を語り、「何やってるんだ」「ちゃんとやれ」「頑張らないとダメだ」など選手たちに叫んでいた。

私もよくプレーしたグラウンド

試合を見てみるとスペースを使うことや相手との駆け引きは皆無で、「相手が2、3人いるところにドリブルで突っ込んでいってしまう」、「密集の中をひたすらパスを回すことに集中してピッチを広げてスペースを作ることや、密集から抜け出すような工夫は全くない」場面が散見した。

とは言え、U-12の大会で成長途中の選手たちだ。「相手が3バックだから2トップでピン止めして2列目から背後に出ていく」といった戦術的なパフォーマンスを彼らから見たい訳ではない。だけど、ピッチを広く使う、スペースを見つけて良いポジションを取る、角度を作ってボールを動かすというような試みはあってもいいのかなと思う。更には相手が前からプレスにきてるからロングボールで背後を取る、マンツーマンディフェンスに対してワンツーでマークを剥がすというような相手との駆け引きがあると尚更良いし、サッカーの肝を教えられるのではないだろうか。

U-12は年代的にも戦術的な要素よりも技術やメンタリティの方が重要かもしれない。で、精神論に持っていってしまいがちなコーチは技術的なことも選手たちに教えられていない。多くのケースが選手のミスばかり指摘して、どうやって選手のスキルを上達させるかを教えていない。

例えば、パスミスした選手に対して「何でパスをズラすんだよ!」と言うコーチ。それを言われて選手は上達するのだろうか。そんなコーチに問いたいのは「何故そのミスが起こったかを理解しているか?」ということだ。「ファーストタッチが大きくなり、バランスを崩した状態でボールを蹴ったためにインサイドにボールがミートせずにパスがズレてしまった」ことを理解していたのだろうか。それがわかっていないと集中してないからミスしたというような精神論に落ち着いてしまう。

また違う日にはユース(U-18)の試合をアシスタントコーチとして指導する機会があった。そこで対戦した高校の監督さんが強烈な方だった。

素晴らしいピッチでの試合

対戦相手の高校は2トップのプレスに対して、4-4-2のLSBを高い位置に押し上げて3バックに可変することを行ってきた。そして、LCBが左のワイドでボールを持つと背後のスペースに向かってボカ蹴り。何のための可変なのか分からない。

守備では4-4-2のミドルブロックを作ってきたが、2トップがボランチを消してないのでブロック内に侵入することができる上に、コンパクトに3ラインを保てていないのでライン間の選手にボールが入ると簡単に前を向くことができた。

なんて表現すれば良いのか分からないが、プレミアリーグに所属するチームの形だけ真似して、やってるサッカーに文脈が感じられない薄っぺらいサッカーに感じられた。

終いには「何でボールを失うんだよ」「自分達で声を掛け合わないから上手くいかないんだ」「何しに来てるんだ、もっとちゃんとやれ」と精神論に。散々、その監督さんから選手たちは怒られていたがパフォーマンスは変わらず、むしろモチベーションが低下していっているようにも見えた。こちらも多くの決定機を外したために試合は3-0で終了したが、内容的には5-0、6-0が妥当なゲームだった。

時に怒ることもコーチングには必要なのだが、怒る時には解決策や選手のパフォーマンスが改善されるようなコーチングが伴わなければいけない。「何故そのプレーがダメなのか」や「どうやって改善すれば良いのか」といった具体的な指導がなければ、ただ選手は叱られているだけになってしまい、そのプレーから学ぶことができなくなる。

具体性のないコーチングは結局選手自身が自身のプレーを分析して改善策を見出すしかなくなる。よく「どうすれば良いか自分で考えろ」と言う指導者がいるが、責任放棄もいいとこだ。それが、意図的に質問を投げかけて選手たちに考えさせて成長を図るのであれば良いのだが、多くの場合、指導者がどうやって修正、改善、向上したらいいか分からないから質問を投げ捨てて逃げているのではないだろうか。

もしそういった質問を投げかけるのであれば、少なくともその質問を答えるだけの判断材料は選手に与えてあげたいところだ。日々の練習で「自分の目の前に2、3人相手がいる場合にはバックパスでやり直してサイドを変える」ということを予め教えていれば、試合中にドリブルで密集地帯へ突っ込んで行ってボールを失ってしまった選手に対して「どうしたらボールを失わなかった?」と聞けば、その選手は自主的に解決策を考えるだろう。

先程の高校のケースで言えば、3バックに可変した時にLCB+LSB+LSHで三角形を作ってサイドを攻略する形を落とし込んでいれば選手もボカ蹴りすることはなかっただろう。もし仮にボカ蹴りしてしまったとしても、チームに対して「どうすれば良かったのか話し合え」と問題提議することでチームのパフォーマンスは向上するかもしれない。

問題解決の判断材料やヒントも与えずに『主体性』や『自主性』と謳い、「自分で考えろ」と問題解決を放棄することはコーチングではない。側から見ていて選手たちがサッカーを教えてもらえていないのが可哀想である。

今回。私が見たチームをシーズンを通して見ている訳ではなく、1試合だけを見たのでたまたまそういったパフォーマンスだっただけなのかもしれない。また、日々の練習を見ているわけではないので、私は表面だけしか見えていないことは確かである。ただ、私が見た限りは指導者からサッカーを教えてもらえていないように見受けられた。私自身への自戒も込めて、この記事で「サッカーを教えるということはどういうことなのか」今一度考え直す必要があるだろう。

この記事が参加している募集

もし宜しければサポートをよろしくお願いします! サポートしていただいたお金はサッカーの知識の向上及び、今後の指導者活動を行うために使わせていただきます。