描いている絵は同じものか?【ACLグループステージ第1節&第5節】浦和レッズvsライオン・シティ・セーラーズ
日本よりも暑いタイの地で約二週間の間に6試合と過密日程で行われるACLグループステージ。レッズがこれまで取り組んできたサッカーや選手一人ひとりの実力がアジアの舞台でどれだけ通用するのか楽しみな大会です。
保証のなかった圧倒的な勝利【第1節】ライオン・シティ・セーラーズvs浦和レッズ
ACL初戦の相手はシンガポール王者のライオン・シティ・セーラーズ。初めての対戦となり未知の実力ですが、勝利して短期決戦で良いスタートを切りたいところです。
マッチレポート
スタメン
試合内容
試合結果
AFCチャンピオンズリーグ2022 グループステージ MD1
2022年4月15日(金)21:00(日本時間23:00)・ブリーラムスタジアム
ライオン・シティ・セーラーズ 1-4(前半1-3) 浦和レッズ
得点者 8分 キャスパー ユンカー、15分 江坂 任、42分 ダヴィドモーベルグ、43分 オウンゴール(セーラーズ)、47分 松尾佑介
入場者数 394人
・試合スタッツ
オーガナイズされたアタッキングサード
レッズは左サイドを中心にセーラーズのゴールに迫りました。セーラーズは4-4-2のブロックを作っていましたが大畑、松尾、江坂の3人をSBとSHの2人で対応していたので左サイドでは常に数的優位な状況でした。下の図のように江坂が相手のSBをピン止めできる立ち位置を取っていたことで松尾はフリーでボールを受けることが多かったです。セーラーズもSHがかなり飛び出して大畑までプレスに行こうとしていたので、松尾が仕掛けるスペースと時間を確保することは簡単でした。
レッズがアタッキングサードに侵入すると5:48や1点目のゴールシーンとなった7:16では下の図のように江坂が松尾にボールが渡った時にSBの背後を取るような動きを見せました。
2点目も左サイドで松尾がフリーの状態からえぐって折り返したところを江坂がシュートを決めました。大畑、松尾、江坂の関係性が非常に良く、サイドで幅を取っている松尾にボールが入った時には江坂が動き出していたのでチームとしてオーガナイズした攻撃だったと思います。そして、このSBの背後を取る動きは江坂だけでなく13:18では伊藤と大畑が飛び出していきました。ボランチやSBがここまで飛び出していけると前線に厚みが出ますし、江坂やモーベルグが下りてきた時には後ろの選手が深さを出せるとバランスよく攻撃ができると思います。
今シーズンのレッズはペナルティエリア内のポケットを取る動きが多く前節のFC東京戦でも小泉や明本がポケットでボールを受けるシーンがありましたし、昨シーズンはあまり見られなかったアタッキングサードでのオーガナイズされた攻撃が徐々に表現されています。この試合ではセーラーズの守備も連動していなかったこともあって、オーガナイズされた攻撃から得点を取ることができました。
右サイドの停滞感
レッズなかなか右サイドからチャンスを作ることができませんでした。右サイドではモーベルグがインサイドで酒井が幅を取ることが多かったですが、下の図のように酒井の立ち位置が低くモーベルグが孤立するような状況が多かったです。モーベルグはプレイに関わろうと下りてきてボールを受けようとしますが、そうすると右サイドでは人がいなくなり攻撃の起点を作ることができなくなってしまいました、
また左サイドではSHの松尾とSBの大畑に加えて江坂や伊藤がプレイに絡みにいい距離間でサポートしていましたが、右サイドでは酒井とモーベルグの2人だけの関係性になっていて下の図のように2対2の局面になってしまっていました。
これは岩尾がバランサー役としてあまり高い位置を取ることができないことと、江坂が左サイドを主仙波としていて右サイドまで関わりに来ることが難しく、ユンカーも中央で構えていたことで数的優位を作って相手を崩すことが困難でした。モーベルグが得点した場面も酒井からパスを受けた際には近くにはユンカーしかいない状態で個人技で奪った得点でした。
垣間見えた”違い”【第5節】浦和レッズvsライオン・シティ・セーラーズ
前節大邱との対戦でスコアレスドローに終わり予選通過のために勝利が必須となったレッズはセーラーズとの2回目の対戦でした。
マッチレポート
スタメン
試合内容
試合結果
AFCチャンピオンズリーグ2022 グループステージ MD5
2022年4月27日(水)18:00(日本時間20:00)・ブリーラムシティスタジアム
浦和レッズ 6-0(前半2-0) ライオン・シティ・セーラーズ
得点者 14分 馬渡和彰、39分 アレックス シャルク、48分 ダヴィド モーベルグ、52分 小泉佳穂、62分 松尾佑介、90分 松尾佑介
入場者数 313人
・試合スタッツ
戦うマエストロ
この試合のMVPと言えるほどの輝きを見せたのが平野でした。もちろん相手との間に力の差はありましたが、平野はこれまでレッズが抱えていた「ボールを保持している時になかなか前進できない」問題の解決策のようなものを見せてくれたような気がします。
平野がこの試合で行ったタスクは極めてシンプルで「相手のCFと2列目の間にポジション取りをして、ボールを配球していく」というものでした。ただ、このシンプルなタスクはレッズのボランチが1番苦手としている分野であり、なるべくプレッシャーを受けたくないがために最終ラインに吸収されるような立ち位置だったり、相手の2列目から遠すぎるところに立ち位置を取ることがこれまで良く見られました。
この試合の平野を見てみると下の図の10:56のように相手のCFと2列目の間に立ち位置を取ることでボランチを引き出した背後にポジショニングしている小泉へ縦パスを入れることができました。
また、34:28では平野がギャップにポジショニングすることで30番のラミルが平野へ喰いつき中央へ寄せられます。その結果、ショルツがドリブルで運び上がるスペースが生まれました。
後半開始直後の46:59は平野がまるで指揮者のようにショルツとのパス交換からライン間にいる小泉へ縦パスを入れて決定機を生み出しました。この場面では岩波からパスを受けた平野に10番のディエゴロペスが喰いつき、ショルツへ展開した時に30番のF.ラミルが喰いつきます。セーラーズの2人が引き出されたことで小泉が使いたいスペースと小泉へのパスコースが生まれました。
惜しくもゴールにはなりませんでしたが、このシーンの平野はまさにオーケストラのマエストロのような働きでした。
・”違い”を見せた平野
ボランチの働きという点でタイプが似ている岩尾と比較すると"違い"が明白で、岩尾のボールを受ける時の立ち位置は平野に比べてややレッズのCBに近い(後ろ気味に立つ)ことが多いです。岩尾の立ち位置がCBに近いと相手のCFにプレスを受けることが多くなり、相手の中盤が飛び出す必要がなくなります。その結果、レッズが使いたいライン間のスペースが生まれにくく、縦パスを入れづらかったりブロックの外回りでのボール保持になってしまいがちです。岩尾には「ボールを持った時に遠くの選手まで見えている」などの岩尾の良さがあるので、一概に優劣を付けることはできませんが、平野が入ったことでレッズの攻撃が活性化したことは事実だと思います。
また平野は守備時でもボールハントに精を出していました。特に前半は柴戸と平野がセカンドボールやネガティヴトランジションで圧倒していたのでハーフコートゲームになっていました。柴戸はボールハントが特長の選手ですが、平野も18:42や44:10などではフィルター役としても機能していました。レッズとしては『戦うマエストロ』が復帰したことは大きな変化になりそうです。
縁の下の力持ち
この試合で影の立役者と言えるのは馬渡だったと思います。特に前半は馬渡の攻撃参加が目立ったのではないでしょうか。この試合では基本的に馬渡がインサイドのレーンに入り、モーベルグが幅を取る役割でした。インサイドのレーンを使う選手は360度からプレッシャーがかかるので高い技術や周囲の認知力が必要となります。
まず取り上げたいのは13:38のレッズの1点目のシーンです。モーベルグが外から内側へ動きながら平野からのパスをワンタッチで馬渡へ出しました。この時に12番のI.リフキはモーベルグに喰いつくのでその背後にスペースが生まれます。そのスペースに馬渡が走り込んで、モーベルグからのパスをダイレクトシュートしてゴールに繋げました。
狭いスペースの中でスペースを作り出したモーベルグの動き出しからのスルーパスと、それに呼応するように空いたスペースに走り込んだ馬渡のコンビネーションから生まれたゴールでした。このシーンだけでなく10:56でも背後を取る場面がありましたし、SBながら相手の危険な存在になっていたと思います。
また、オフザボールの馬渡の動きも秀逸でした。16:54では下の図のように馬渡がインサイドから外側に流れて抜けたことでライン間(あるいはハーフスペース)にスペースが生まれました。そしてショルツがその空いたスペースにポジショニングしている小泉へ縦パスを入れることができました。
39:20ではモーベルグがボールを持っている時に馬渡が大外を勢いよくオーバーラップしてきたことで相手の目線が馬渡に向きました。その瞬間にPAのポケットにモーベルグがスルーパスを出しましたが、残念ながら小泉が感じることができずに上手くいきませんでした。しかし、馬渡の動きによって相手が惑わされたことは事実でもし、小泉にボールが渡っていればビッグチャンスになるような場面でした。
37:02の馬渡の高精度のクロスなど高い技術も見せつつもオフザボールでも味方にアドバンテージを与えられる馬渡は『縁の下の力持ち』だと感じました。
試された適応力
後半の途中からレッズは松尾、松崎、大久保、岩尾、宮本を投入しました。特に途中から入ってきたアタッカーの選手たちは適応力が試される試合だったと思います。
・松尾が見せた可能性
松尾はシャルクに交代して入り、そのままFWのポジションでプレイしました。松尾の中央から外側へ斜めに抜ける背後へのランニングはセーラーズDFが捕まえづらく効果的だったと思います。
61:02の得点シーンでも関根がハーフスペースに下りてパスをもらい、セーラーズの右CBを引き出すことに成功。その瞬間に松尾が右CBの背後へ走り込み関根からのスルーパスを受けてゴールを決めました。
松尾のFW起用がどれほど実用的かはもう少し長い時間プレイを見てみないとわかりませんが、背後への動きができる松尾はウインガーだけでなく今後のFW起用の可能性を感じさせる働きでプレイの幅を広げたのではないかなと思いました。
・大久保と松崎の適応力
一方で大久保や松崎のウインガーはまだ序列的には下がってしまうと感じました。右WGはモーベルグが加入したことも影響して競争の激しいポジションとなっています。松崎がその競争に勝つにはモーベルグ以上の個の質を見せるか、ボール保持時にインサイド(ハーフスペース)でも問題なくプレイできるかの2択になると思います。今のところモーベルグはインサイドでプレイすることに苦戦しているように見受けられるので、インサイドで機能することが大きなポイントだと思います。
大久保に関しては細かなタッチと俊敏性がありますが、周りとのリズムといまいち合っていないのでミスになる場面が多々あります。大久保がボールを持った時に捉えられる視野をもう少し広げることができると、プレイ選択も変わってきて周りと噛み合うようになるのかなと感じました。この試合でも左WGで投入されましたがあまり相手の脅威になることができずにFWにコンバートすることになりました。大久保のような高い技術を持ち合わせているアタッカーはどこのポジションで起用されても確実に機能するようになれば相手の脅威になれると思うので前目のポジションならどこでもこなせる適応力が必要かなと思います。
最後に
グループステージ最終節を残してノックアウトステージ進出を決めました。このグループステージを通じて見えてきたのはレッズのパフォーマンスが良い時はチーム全体が同じイメージを共有できている時であり、逆にパフォーマンスが良くない時は全員が同じイメージを持てていない場合だと言うことです。例えば、ボールを受けようとサポートする選手の立ち位置が微妙に出し手からするとパスを出しづらい位置だったり、自分が使いたいスペースくを既に他の選手が埋めてしまっていて詰まってしまうことでチームのリズムがどんどん狂って行ってしまう時があります。去年に比べてレッズの選手は一人ひとりにそれぞれ武器があり特長がありますが、その特長とチームの機能性を上手くバランスを取らないと少しずつズレが生じてしまいます。選手一人ひとりがそれぞれ自分の色を出しながらもチームとして1つの絵を描かないと、魅力的な絵にはなりません。今のレッズはチームとして1つの絵を描き始めることができればとても魅力的なチームになるはずです。実際に選手達が噛み合った際には多くのチャンスを作ってきました。ですので、チーム全体が1つの絵を描くイメージを共有することが大切だと思います。
またシュートやクロス、ラストパスの質はもう少し拘らなければいけないと思います。この試合でも「ラストパスがバウンドしていないでゴロで出せていれば…」、「シュートを打ちやすい場所にボールをコントロールできていれば…」、「ボールにミートしてしっかりシュートを打てていれば…」という場面が再三見受けられました。こればっかりは反復練習で個々の技術を高めていくしかないので、日々の練習で取り組んでいくしかないと思います。徐々にですが崩しの再現性が出てきただけにアタッキングサードでの質を上げていきたいところです。
厳しい日程ながらも選手をローテーションさせて上手くやりくりしていました。ショルツと岩波のコンディションが心配ですが多くの選手がプレイする機会を得たことはチームとしてもポジティブだと思います。良くも悪くも”違い”を感じることができましたし、全体の底上げという意味では有意義な大会になっていると思います。
ラスト1戦、山東に勝利して良いイメージを日本に持ちこむことができれば最高だと思います。コンディション的に厳しいと思いますが、勝って日本に帰りましょう。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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