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【読書感想文】『太陽のパスタ、豆のスープ』─ドリフターズ・リストを考える

宮下奈都さんの『太陽のパスタ、豆のスープ』を読みました。宮下さんといえば、本屋大賞を受賞した『羊と鋼の森』。新人調律師の外村くんが、真摯に「音」と向き合い成長していく姿を描いています。こちらもおすすめです!

『太陽のパスタ、豆のスープ』は昨年のナツイチで、カバーイラストに惹かれて購入しました。スパゲッティとスープのイラストが可愛らしくて、美味しそうで。一見グルメ本とも思われそうなタイトルですが、今に生きるOLの小説です。

主人公の明日羽は27歳。ベビー服メーカーの事務職です。結婚式を2ヶ月後に控えたある日、2年交際した婚約者に振られてしまいます。落ち込む彼女に、叔母のロッカは「ドリフターズ・リスト」を作るよう提案します。それは、やりたいこと、楽しそうなこと、ほしいものを挙げるリスト。一人暮らしを始めたり、エステに行ってみたり、リストを元に新しいことを始める明日羽。家族や幼馴染の京、同僚の郁ちゃんと関わる中で、少しずつ自分と向き合っていきます。

明日羽は婚約者に振られたことをきっかけに、自分を見つめ直します。その感情の動きがとってもリアル。

やりたいこともやりたかったこともなんにも浮かばなかった。
毎日やること。私の芯になるようなこと。ほんとうに、ない、と思う。
もうずっと自分に自信を持てないでいる。
なんで、みんながんばるの。なんか、すごく焦るよ。私だけ一歩も動けないで、どんどん取り残されて。

ロッカさんの提案でドリフターズ・リストを作るも、本当にやりたいことなのか、これで正しいのか、明日羽は試行錯誤します。

はじめから泥舟だったんじゃないか。

ドリフターズ・リストは不可能リストだったんじゃないか。明日羽は悩みます。それでも仕事に行き、家事をして、毎日を生きます。そうしているうちに幼馴染や同僚、家族との関係を振り返り、その大切さに目を向けられるようになります。
少しずつ軌道に乗ってきたころ、明日羽は気付きます。

結局のところ、問題なのはリストではなくて自分自身なのだと思う。
こうありたいと願うことこそが私をつくっていく。
私にとっての豆は何だったのだろう。きっと「毎日」に関わることだと思う。でも、まだ、見きわめられないでいる。いろんな心当たりに水をやり、日に当てていれば、いつかは芽を出すだろうか。

ドリフターズ・リストについて、ロッカさんは『一切れのパン』の寓話を持ち出します。戦時下、逃げようとする捕虜に、僧侶がハンカチに包んだパンを渡しました。「できるだけ長く持っていなさい」と言って。捕虜は誘惑に駆られながらも最後までパンを食べず、長い逃亡を終え家族の元に帰ります。そこでハンカチを開けると、出てきたのは木片だった、という話です。

悩みがあるんならリストを書いてみるといいよ。人には話しづらいことでも、いつまでもつきあってくれるから。

ドリフターズ・リストは、自分にとっての「こうすれば必ずうまくいく、正解の目標」を定めるものではありません。不可能に思えても目標を持っていること、信じようとすることが大事なのだなぁ、と思います。リストを持っていることで、無意識に「なりたい自分になろうとする」行動を取るのかもしれません。

そこで私もドリフターズ・リストを作ってみました。本当はチラシの裏に手書きで書かなきゃいけないみたい。まあいいや!

・コンスタントに運動する
・資格試験の勉強をする
・料理のレパートリーを増やす
・本を読んで心に触れる文章を見つける
・たくさん文章を書く
・会議で発言できるようになる
・人前で話す恐怖心を克服する
・自分のことを好きになる

うーん、どれもできそうでできないことばかり。うまくいかないこともあるかも。でも持っていることが大事。
私もポケットに入れている気分で、やってみようと思います。

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