記事一覧

赤尾兜子の数句 三

ゆめ二つ全く違ふ蕗のたう ゆめのひらがな表記が気になりました 夜に見る夢だとすると、「二つ」が「全く違う」ということから、記憶も鮮やかな夢とも思えるのですが、そ…

さちよ
2週間前
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赤尾兜子の数句 二

雲の上に雲流れゐむ残り菊 眼前にあるものは、空に雲、地に菊です 「ゐ」は動作の継続、状態・結果の存続を表します 雲は自らの意志で流れているものではないので、動作や…

さちよ
2週間前
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赤尾兜子の数句

以前から読んでみたいと思っていた赤尾兜子 「鑑賞赤尾兜子百句」(渦俳句会編)を読んでみました とても難しい 句もですが、鑑賞を理解することから難しくてできませんで…

さちよ
3週間前
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篠原梵の一句

千野千佳さんのnoteで紹介されていた『篠原梵の百句』を読みました 岡田一実さんのお名前に、以前セクト・ポクリットに寄稿されていた方ではないかな?と思ったことも読み…

さちよ
1か月前
2

波多野爽波の一句

セクト・ポクリットのこの記事を読んで、「波多野爽波の百句」(山口昭男著)を読みました 解説には豊かなエピソードと、波多野爽波自身の言葉、句会・吟行を共にした方々…

さちよ
1か月前
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山田耕司句集「不純」の鑑賞

俳句同人誌「円錐」編集人、山田耕司さんの第二句集「不純」を読みました 私は詩心がなく、幻想的な、飛躍の大きな句はよくわからないのです 詠めないし、読めません 山田…

さちよ
2か月前
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山田耕司句集「不純」

俳句同人誌「円錐」編集人、山田耕司さんの第二句集「不純」を読みました まず、目次に倣って気になる句を挙げていきたいと思います 一 ボタンA 煩悩やあやとりは蝶そし…

さちよ
2か月前
2

「カササギ殺人事件」(アンソニー・ホロヴィッツ著)のネタバレ感想(ずっと前の) 3

ネタバレしています 本著「カササギ殺人事件」内小説「カササギ殺人事件」は、1955年を舞台にしながら現代の倫理観を持つ人物を配することで、アガサ・クリスティの時代の…

さちよ
3か月前
1

「カササギ殺人事件」(アンソニー・ホロヴィッツ著)のネタバレ感想(ずっと前の) 2

ネタバレしています 1で書いたアガサ・クリスティの時代の差別と偏見が「カササギ殺人事件」内小説である「カササギ殺人事件」では現代の倫理観を持ってクリアされている…

さちよ
3か月前
3

「カササギ殺人事件」(アンソニー・ホロヴィッツ著)のネタバレ感想(ずっと前の) 1

感想なのでネタバレしています 小説内小説である「カササギ殺人事件」は、面白かったです どっぷりアガサ・クリスティを読んでいる気持ちで読める上に、クリスティを読む…

さちよ
3か月前
1

お散歩吟行

まず、工場直営パン屋さんに向かう いつもは水筒に飲み物を用意して行くのを、今日はコーヒーを買いにコンビニに寄ったため、土手ではなく遊歩道を歩く かつての工場用水路…

さちよ
3か月前
4

関谷恭子句集「落人」感想 4

人日(2022〜2023) 花は葉に橋くぐるとき舟しづか 中七下五の措辞そのものが静謐です 橋をくぐる時の舟に橋の影が落ちるひととき、その少しの時間の静寂を見逃さない感…

さちよ
4か月前
4

関谷恭子句集「落人」感想 3

初雪(2020〜2021) 落し文だいじに燐寸箱の中 だいじにという言葉がいいです 俳句は具体的な描写で「大事にしていること」を伝えるというのがセオリーですが、この句で…

さちよ
4か月前
3

関谷恭子句集「落人」感想 2

驟雨(2014〜2017) 春雨や身ほとりのものみな無音 身ほとりという言葉のゆかしさに惹かれました 春雨は音のないものですが、無音ということで春雨の気配が際立ちます そ…

さちよ
5か月前
2

関谷恭子句集「落人」の感想

関谷恭子さんの初句集「落人」を読みました 好きな句を挙げさせていただき、感想は書かなかったのですが、やはり好きな句のことは話したくなるものです ちょこっとだけ書…

さちよ
5か月前
6

関谷恭子句集「落人」

関谷恭子さんとは蒼海で句座をご一緒させていただきました 柔らかな言葉遣いで確かな描写をされる、端正でどこか遥かな句を詠まれる方です 恭子さんの句をとれば誇らしく、…

さちよ
5か月前
4
赤尾兜子の数句 三

赤尾兜子の数句 三

ゆめ二つ全く違ふ蕗のたう

ゆめのひらがな表記が気になりました
夜に見る夢だとすると、「二つ」が「全く違う」ということから、記憶も鮮やかな夢とも思えるのですが、それならば漢字で夢と書くでしょう
細部は薄れても、夢の中で生きた実感が心と体を離れない、そういうゆめではないかと思いました
目覚めて尚、時折立ち上がる体にまとわりつくような余韻を感じます

胸に抱く夢だとすると、その夢がまだ不確かなものと思

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赤尾兜子の数句 二

赤尾兜子の数句 二

雲の上に雲流れゐむ残り菊

眼前にあるものは、空に雲、地に菊です
「ゐ」は動作の継続、状態・結果の存続を表します
雲は自らの意志で流れているものではないので、動作や結果ではなく、状態の存続だと思いますが、それ以上にこの雲の流れには状態の存続、永遠性を感じます
「む」は推量です
流れむではなく、流れゐむであることから、推量は「ゐ」に対して使われているのだと考えられます
流れ続けるのだろうと、その永遠

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赤尾兜子の数句

赤尾兜子の数句

以前から読んでみたいと思っていた赤尾兜子
「鑑賞赤尾兜子百句」(渦俳句会編)を読んでみました
とても難しい
句もですが、鑑賞を理解することから難しくてできませんでした
「赤尾兜子の百句」(藤原龍一郎著)、「赤尾兜子の世界」(和田悟朗編著)と読み進め、三冊を繰り返し読んでみて、やはり難しいとは思ったのですが、その中でも心に残った句を書き留めておこうと思います

会うほどしずかに一匹の魚いる秋

破調

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篠原梵の一句

篠原梵の一句

千野千佳さんのnoteで紹介されていた『篠原梵の百句』を読みました
岡田一実さんのお名前に、以前セクト・ポクリットに寄稿されていた方ではないかな?と思ったことも読みたいという動機の一つです
こちらの特別寄稿ですが、とても面白かったのです

作品はどれも、この景を確かに私は見たと思える写生句であり、さらにその記憶を視覚以上の身体感覚で呼び戻す、読み手の内側に入ってくるような、句に肉体の見えるような句

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波多野爽波の一句

波多野爽波の一句

セクト・ポクリットのこの記事を読んで、「波多野爽波の百句」(山口昭男著)を読みました
解説には豊かなエピソードと、波多野爽波自身の言葉、句会・吟行を共にした方々の言葉が多く引いてあり、臨場感をもってその教えを知ることができます
百句の中から、特に惹かれた句を読んでみようと思います

向うから来る人ばかり息白く

「ばかり」で切るか、切らないかで読み方が変わります

切らないとすると、向こうから来る

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山田耕司句集「不純」の鑑賞

山田耕司句集「不純」の鑑賞

俳句同人誌「円錐」編集人、山田耕司さんの第二句集「不純」を読みました
私は詩心がなく、幻想的な、飛躍の大きな句はよくわからないのです
詠めないし、読めません
山田さんの代表作の一つ

焚き火より手が出てをりぬ火に戻す

も、これまでよくわかりませんでした
けれど、この句集の句はなぜかどれも面白く、そうして目にしたこの句はどうしてだかとてもよく伝わってきたのです
それは、句に実景が見えたからだと思い

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山田耕司句集「不純」

山田耕司句集「不純」

俳句同人誌「円錐」編集人、山田耕司さんの第二句集「不純」を読みました
まず、目次に倣って気になる句を挙げていきたいと思います

一 ボタンA

煩悩やあやとりは蝶そして塔

跳び箱よ虹は橋ではなかつたよ

濡らさるるこの奥ゆきをところてん

肩に乗るだれかの顎や豊の秋

エビフライずれてをるなり紅葉山

梳くや髪小春日の人かたむけて

鱈子焼くどちらの岸も隅田川

古池や押すに茶の出るボタンA

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「カササギ殺人事件」(アンソニー・ホロヴィッツ著)のネタバレ感想(ずっと前の) 3

「カササギ殺人事件」(アンソニー・ホロヴィッツ著)のネタバレ感想(ずっと前の) 3

ネタバレしています

本著「カササギ殺人事件」内小説「カササギ殺人事件」は、1955年を舞台にしながら現代の倫理観を持つ人物を配することで、アガサ・クリスティの時代の差別と偏見を否定してみせました
その一方で、当時の差別の残滓、形を変えた現代の偏見を顕にしました
「それは差別・偏見だと知っている」ということに安住することが、また別の偏見を生むことも描かれていました

最終章では、さらにもう一つ問題

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「カササギ殺人事件」(アンソニー・ホロヴィッツ著)のネタバレ感想(ずっと前の) 2

「カササギ殺人事件」(アンソニー・ホロヴィッツ著)のネタバレ感想(ずっと前の) 2

ネタバレしています

1で書いたアガサ・クリスティの時代の差別と偏見が「カササギ殺人事件」内小説である「カササギ殺人事件」では現代の倫理観を持ってクリアされているという話です
では、現代の倫理観は差別と偏見を完全にクリアできているのか?というと、できていないということを「カササギ殺人事件」内小説である「カササギ殺人事件」が語っています

メアリの日記を発見したチャブ警部補は、ジョイにダウン症の弟が

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「カササギ殺人事件」(アンソニー・ホロヴィッツ著)のネタバレ感想(ずっと前の) 1

「カササギ殺人事件」(アンソニー・ホロヴィッツ著)のネタバレ感想(ずっと前の) 1

感想なのでネタバレしています

小説内小説である「カササギ殺人事件」は、面白かったです
どっぷりアガサ・クリスティを読んでいる気持ちで読める上に、クリスティを読む時に感じる苦痛がなく、その時代の景色、人間像、ストーリーを十分に楽しめました

クリスティ作品には現代とかけ離れた階級意識による倫理観が見えます
例えば、貴族によって虐げられた下層階級の犯罪者が悲惨な末路を辿るとき、クリスティは彼らの動機

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お散歩吟行

お散歩吟行

まず、工場直営パン屋さんに向かう
いつもは水筒に飲み物を用意して行くのを、今日はコーヒーを買いにコンビニに寄ったため、土手ではなく遊歩道を歩く
かつての工場用水路が暗渠になり整備された遊歩道なので、工場の機械や部品をモチーフにしたオブジェとそれに実用性を持たせたもの、ベンチやテーブル、遊具が道なりに並んでいる
野放図に茂った植栽と雑草、空き缶や吸い殻と相まって、ポップでサイバーパンクな終末感がある

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関谷恭子句集「落人」感想 4

関谷恭子句集「落人」感想 4

人日(2022〜2023)

花は葉に橋くぐるとき舟しづか

中七下五の措辞そのものが静謐です
橋をくぐる時の舟に橋の影が落ちるひととき、その少しの時間の静寂を見逃さない感覚の冴えと、それをこれほどシンプルに詠む技量、季語の斡旋が見事です
時間は移ろうもの、そして豊かなもの、その両方を伝えてくれる句です

ががんぼの沈みがちなるひとつがひ

沈むという表現がいいです
ががんぼの動きだけでなく、その

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関谷恭子句集「落人」感想 3

関谷恭子句集「落人」感想 3

初雪(2020〜2021)

落し文だいじに燐寸箱の中

だいじにという言葉がいいです
俳句は具体的な描写で「大事にしていること」を伝えるというのがセオリーですが、この句では「だいじに」がそのまま心に届くように感じます
燐寸箱の中という描写が漢字表記と相まって、だいじにを生かしているのだと思います

古池ふつと八月の息を吐く

八月の季語が生きている句だと思います
お盆があり、終戦の日(敗戦の日)

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関谷恭子句集「落人」感想 2

関谷恭子句集「落人」感想 2

驟雨(2014〜2017)

春雨や身ほとりのものみな無音

身ほとりという言葉のゆかしさに惹かれました
春雨は音のないものですが、無音ということで春雨の気配が際立ちます
その気配に耳を澄ませているように感じました

幕間の騒めきの中豆の飯

騒めきと豆の飯を「の中」の描写で繋いでいます
そこに「いただく」の省略があります
取り合わせにしないことで、観劇の幕間も楽しむ人の姿が見えます

根のものを

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関谷恭子句集「落人」の感想

関谷恭子句集「落人」の感想

関谷恭子さんの初句集「落人」を読みました

好きな句を挙げさせていただき、感想は書かなかったのですが、やはり好きな句のことは話したくなるものです
ちょこっとだけ書いていこうと思います

草朧(2010〜2014)より

湖沿ひの家に灯ともり草朧

湖沿いの言葉に湿り気を帯びた空気が感じられました
海とは違う湿度です
草朧の湿度を実感のあるものにしています
家の灯という描写に、草朧の草がしっかり見え

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関谷恭子句集「落人」

関谷恭子句集「落人」

関谷恭子さんとは蒼海で句座をご一緒させていただきました
柔らかな言葉遣いで確かな描写をされる、端正でどこか遥かな句を詠まれる方です
恭子さんの句をとれば誇らしく、とっていただければ嬉しい、そのように過ごした四年間でした
あとがきによれば「武者修行」であったとのこと
さらには、ご自身落人の末裔でいらっしゃるとのこと
ああ、恭子さんって、恭子さんって、武者で落人、武者で?落人?
腑に落ちるような落ちな

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