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関谷恭子句集「落人」の感想

関谷恭子さんの初句集「落人」を読みました

好きな句を挙げさせていただき、感想は書かなかったのですが、やはり好きな句のことは話したくなるものです
ちょこっとだけ書いていこうと思います


草朧(2010〜2014)より

湖沿ひの家に灯ともり草朧

湖沿いの言葉に湿り気を帯びた空気が感じられました
海とは違う湿度です
草朧の湿度を実感のあるものにしています
家の灯という描写に、草朧の草がしっかり見えてきます
裏庭、或いは家の裏の草地に灯りが落ちているのでしょう
言葉の一つ一つに理由があり、句の世界を実感させてくれます


借景に有馬の灯り夏座敷

灯りを「ともり」と読みました
「ともり」と読むと、夏座敷のために有馬は自ずから灯っているように感じられます
灯りを動詞と読むことで時間が生まれます
その時間は夏座敷に流れる豊かな時間そのものです


今朝秋の市に荷を解く古物商

今朝の秋(立秋)なのか、今朝+秋の市なのか、迷いました
立秋の市だとすると、たまたま立秋と市が重なったのか、毎年立秋に立つ市なのかもしれません
私は、今朝+秋の市と読みたいです
朝の爽やかさと明るさ、秋の爽やかさと豊かさ、その両方が今朝という今に凝縮されるからです
上五中七の軽やかな調べに、古物商という少し素っ気ない言い方がぴったりです


狐火やしんじつ暗き塞の神

しんじつという言葉がいいです
塞の神は境界の神です
昔は村と村は接してはおらず、境の向こうは人界ではなく、異界であったと思います
しんじつという話し言葉(方言でしょうか)の生々しさが、本来の塞の神の姿を見せ、狐火のわずかな光がその向こうの闇の蠢きを見せてくれるようです

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