「Quality of Life 戦略」:SaaS業界で競争を生き残るための新たな鉄則
AI系SaaSでプロダクトデザイナー及びエンジニアを担当しているグンタです。@gunta85
イントロダクション: Arcとは?
最近、Arcという新しいブラウザが話題になっています。
資金調達額は$18M(26億円)超え。UXがかなり優秀で、全体のユーザ体験に磨きがかかっていて、Chromeから乗り換えている人が毎日増加しています。
Arc以外に、
Cron(カレンダーアプリ)は$3.5M(5億円)を調達した後、去年Notion社に買収されました。Product Huntで2年連続でベストアプリ賞を獲得しています。
Linear(タスク管理)も$17M(25億円)を調達し、最近JiraやAsanaから乗り換えているチームも多いです。 この路線で成功した製品も全く同じ戦略を持っています。これを「Quality of Life 戦略」と名付けます。
製品の独自性とは
一般的に、製品の成功には強力な独自の特徴が必要とされています。
しかし、ArcやLinear、Cronの魅力的な特徴は何か? これ!っといったものを一つに絞るのは難しい。
新しい戦略の誕生
私たちが日常的に使うプロダクトには、使っているうちに気になる部分や不満が生じてきます。例えば、ブラウザのタブ管理の面倒さや、JiraのUIの遅さ、Salesforce、Confluence、Chatwork、Cybozuの使い勝手の悪さなど。
これらの不満点を改善するための製品が現れるのは、その製品カテゴリが一定の成熟度に達したときです。
現行製品の課題点「愛憎」
多くのプロダクトは機能で溢れて、新しい機能の追加が困難になってきます。ユーザーはこのような製品と「愛憎」の関係を持つようになり、ワークフローの改善を強く求めるようになります。
シンプル・イズ・ベスト
「シンプルさ」を命かけて守るという鬼強い軸がない限り、プロダクトが化け物になるというのは、プロダクトマネジメント界で有名な話です。
プロダクトはコンセンサス式だと必ず破綻する
「船頭多くして船山に上る」の諺がある通り、委員会によるデザインの民主主義的な意思決定が使いにくい妥協製品を生み出してしまいます。
古いネタですが、もしiPhoneはコンセンサスをとっていくスタイルで開発が進んでいたら…
Evernoteの教訓:ユーザーの声だけを追う危険性
実際、近年Evernoteがその典型的な失敗例として挙げられます。彼らは「お客様の声を常に聴き、その要望をすぐに取り入れる」という原則のみに基づいて製品開発を進めていました。その結果、既存の有料ユーザーは満足したものの、新規ユーザーにとっては直感的でなく、機能が過剰となりました。そのため、新規ユーザー向けに製品を再構築する必要が出てきました。
ユーザーの「もっと速い馬が欲しい」は信用するな
ユーザーは常に自分たちの本当に求めているものを知っているわけではありません。開発者としては、彼らの代わりに一歩踏み込んで考える必要があります。その要求は、本当に必要なものなのか、もっとシンプルな方法で対応できるのか、あるいは一つの新しいデザインで複数の問題を解決できるのか。正しい原則は、「ユーザーの声を聴きながら、彼らのために深く考え、実際に求められている潜在的なものを提供する」ということです。
新しい戦略の課題
この新しいプレイブックに沿った製品を作成するには、多くの課題が伴います。
直接的な競合が増える
ユーザーの期待が高まる
既存の市場への参入がかなり難しくなる
しかし、Arc、Linear、Cronの背後にいるチームはその課題を乗り越える力があります。彼らは、市場をリードしている企業を超えるための高いハードルを最初から設定と投資をしています。
AI SaaS市場の現状:高いチャーンレートと激しい競争
特にAI SaaS市場は、高いチャーンレート(解約率)を記録しています。それは、市場上の製品があまりにも多く、ChatGPTがリリースされてから競争が非常に激しくなったためです。多数の新規プレイヤーが登場し、似たような機能や価値を持つ製品が続々とリリースされています。これにより、ユーザーは新しい製品やサービスを試すことが容易となり、古いものから新しいものへの移行もスムーズに行われています。このような状況では、企業は独自の価値をしっかりと打ち出し、ユーザーにとっての利点や違いを明確に伝えることが求められます。
まとめ: 製品の真価とは何か
Gmailを開発したポール・ブックハイト氏の「製品がGREATなら、逆にGOODである必要ない」と述べました。つまり、1〜3の機能に焦点を当てて10倍の価値を提供すれば、ユーザーは他の平均的な機能を許容するでしょう。
この新しい「Quality of Life プロダクト事業戦略」は、SaaS産業に新たな風をもたらしていることは間違いありません。製品の独自性とは、ただ新しい機能を追加することではなく、ユーザーの日常の不満点を解決することにあるのかもしれません。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?