見出し画像

「シン・ニホン」安宅和人著 書評

<概要>

ICT分野やエリート教育の手法など、日本もアメリカの良いところを学べば、失われた30年もきっと克服し、再び成長できると提言した著作。

<コメント>

昨年(2021年)の読者が選ぶビジネス書のナンバーワンという著作で、昨年本屋に山積みされていたので、私も興味津々で遅ればせならが読んでみました。

コンサルタント出身の方らしく、分厚い書籍ではあるものの(私は電子書籍ですが)、内容が綺麗に整理されていてとてもわかりやすく、一気に読むことができました。

現実的かつ前向きな内容で、AIに関する知見も、どうやって利活用すべきか、実に的確にその具体策が展開されており「大量失業時代がやってくる」「ベーシックインカムが必要」「人間はAIに支配されてしまう」など、当時流行っていたネガティブかつ誤ったAIに関する知見を一掃させてくれるような爽快な記述です。したがって数あるAI関連の著作を読むよりも本書を読む方が、業務への活かし方や今後の経営の方向性含めて、よっぽど効率的に学べると思います。

さまざまな具体例を出して広範囲に提言しているのですが、本書の内容を一言で言えば、エリート教育を強化すべく、欧米、特にアメリカの良いところをちゃんとベンチマークして、その通りに国が予算配分し(年間2兆円ほど)、科学技術や高等教育をアメリカ風に転換していけば良い、という実にシンプルな解決策。全く同感です。

ただ、本質的には、社会学者の小熊英二が「日本社会のしくみ」で提言しているごとく、日本人エリートが集積する大企業や官公庁、教育機関の「メンバーシップ型雇用」を解体しないと、予算をつけて教育制度や研究機関の制度を変えたとしても具現化しないのではないかと思います。

具体的には、先日紹介した「絶望を希望に変える経済学」著者のバナジーの提言のように、デンマークが採用する「フレキシキュリティ」という考え方。

市場に任せられることは市場に任せるべきであり、そこで貧乏クジを引いてしまった人は助ければ良い、という考え方

簡潔にいうと「手厚い失業保険&職業訓練とセットで簡単に金銭解雇ができるよう法改正して、企業や国・教育機関が自由に人材を組み替えることができる」ようになることです。

基本的に、中小企業や外資系企業は解雇は日常化していて問題ないのですが、大企業や官僚、大学などの教育機関は正規雇用に関しては安易な解雇ができません。

ここを解き放って、特にエリートの雇用を流動化させないと、著者の素晴らしい提言は実現しません。そして著者いう通りアメリカ型のエリートを生む制度を日本の教育制度にも積極的に取り入れ、具現化すべき。

金銭解雇・中途入社・外国人・女性当たり前、大卒一括採用廃止、年功序列廃止、の徹底した実力主義など、これらを徹底すれば、著者が問題視している定年制も自然になくなるはずです。

定年制は、大企業経営者にとって本当は辞めさせたくても辞めさせられない中高年の従業員を「やっと」気持ちよく解雇できる、日本の大企業ならではの制度。なので自由に解雇できるようになれば、そのまま自然消滅するに違いありません。

以上、著者の提言は、アメリカエリートの枠組みを日本に導入しようとする、エリート従業員にとっては非常に厳しい内容ですが(逆に優秀なエリートにとっては生きやすい)、それぐらいしないと、日本は復活できませんよ、ということかもしれません。

■写真:さいたまスタジアム2002にて(2022年3月撮影)
完全実力主義でエリート教育も充実している日本サッカー界は、Jリーグ100年構想のごとく、地方活性化に寄与しつつ世界に伍していけるレベルまで到達するなど「失われた30年」における日本の数少ない成功事例かもしれません

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?