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読書雑感

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『ある男』

『ある男』

平野啓一郎の『ある男』を読了。
この本でも、作家のベースにあるのは「分人主義」だと思った。
自分の境遇や過去が嫌で、もう一度人生をやり直したいと思ったとき、過去を捨てて、別人として愛のある暮らしを営むことができたらいいのにと思うひとは多いのではないか。
幸せに生きたいと思っても、出自や家庭環境、過去に犯した罪が足かせになって偏見や差別を受けたら、将来に希望を抱くことは難しい。ひっそりと、目立たない

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「コハク」と「ピエロ」

「コハク」と「ピエロ」

小川洋子の『琥珀のまばたき』(2015年刊)を読了。昨夜はゴダールの『気狂いピエロ』(1965年作)を観た。
同列に並べることはできないけれど、どちらも異色の「超日常」を描いているという点では共通している。

『琥珀〜』は、温泉地の別荘の敷地内から出ることを母親に禁じられた三姉弟が、社会から切り離された雑音のない静かな世界で、優しく愛をはぐくみながら成長する物語。
三姉弟は本当の名前を捨て、鉱物の

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『僕はベーコン 』

『僕はベーコン 』

息子が置いていった『僕はベーコン 芸術家たちの素顔』を読んでいる。
フランシス・ベーコンに興味があったわけではない。本のイラストと装丁がよかったから。

白状すれば、フランシス・ベーコンについてほとんど知らなかった。哲学者で絵描きなのかと思っていたくらい(哲学者・ベーコンは芸術家・ベーコンの先祖に当たるらしい)。

醜くデフォルメされた、もしくは内面の苦悩を隠喩した、はっきり言うと気味の悪い彼の

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