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からっぽ男の憂鬱・2022/03/01

戦時中、になっちまった。

今から20ン年前。
俺は桜美林大学の文学部総合文化学科の第1期生だった。
8月。
富山県利賀村での夏の合宿に参加した。

利賀村、といえば、演劇畑の人はわかるだろう。
演出家の鈴木忠志氏のお膝元、である。

そこへ、当時教授だった平田オリザさん引率の元、当時18・19の演劇志向の若者の集団が、演劇の夏を体感しに行った。
(大学では「先生」呼びも「教授」呼びもやめてくれ、と言われていた。舞台を作る以上、同じ板の上にいるのだから、ということだった)

細かい言い回しは忘れてしまったので、ここからはオッサンの回想として読んでほしい。

当時、総合文化学科の嘱託(で合ってるっけ?)として、劇作家の夏井孝裕さんがいて、利賀村での初日、夏井さんのワークショップがあった。
そのワークショップは「最低の演劇を作る」というもので、チーム分けして(確か4か5組)、短時間で15分くらいの「最低の芝居」をでっち上げた。

とにかく思いつく「最低」の内容を入れた。
もちろん「最低の演劇」という表現の中には、「悪意」はない。
(既存の団体のつるし上げ、みたいなことじゃない、って意味)
自分たちが「最低」だと思うことを詰め込んで、(今で言うところの)大喜利状態の発表を行った。

俺のいたチームは、俺の発案で、幕開けすぐに女の子が舞台に登場して「僕は猫のミケだニャン」とやった。
後の細かい内容はもう覚えていないが、その時みんなで出した「最低」で、爆笑を勝ち取った。

一番の爆笑を勝ち取ったチームは、細かい芝居内容もさることながら、芝居の要所要所で脈略なく、「せんそーはんたい! せんそーはんたい!」とシュプレヒコールを叫ぶ一団が舞台上を横断していった。

そう、戦争は茶化せたのだ。

その後の20年あまりでこの国は変わった。
テレビでは政治家の物真似は姿を消し、インターネット上には思想と呼ぶにはあまりに中途半端な言論が並び、インターネットを持たない世代は蚊帳の外へと追いやられ、金持ちと貧乏人しかいない国になった。

世界も変わった。
「世界一強い国を取り戻す」と叫んだ男がいた。
かと言えば、反対側で今、戦争を起こしている国がある。

俺はあんまり頭が良くはないので、大上段からものを言うことはしない。
ただ、2022年3月1日の今日、からっぽ男は憂鬱なのである。

♪僕らは薄着で笑っちゃう
RCサクセション「イマジン」より

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