地獄のようなゲーム業界でベンチャーがどうやって戦うのか
平素よりお世話になっております。
ゲームクリエイター兼代表取締役社長、魔剣機関魔術局長、およびハイパードラゴニックエグゼクティブプロデューサーの神谷です。
長い肩書ですが、現役で現場でゲームをつくる人とゲーム会社を経営する人をやっています。
エンジニア出身ということで、エンジニア向けのアドベントカレンダーではありますがシメ担当として参上つかまつります。
お鍋でいうとご飯の役回りです。残りのスープにご飯ひたひた、塩コショウを少々と刻みネギですこし煮立てて完成です。
というわけで、当社のアドベントカレンダー2021のシメのお話も煮込まれすぎて大変なことになっているゲーム業界のお話です。
たのしい地獄へようこそ!
ゲーム業界といっても非電源からアーケード、コンシューマ、スマホまで本当に規模が大きいので、今回はスマホゲーム市場についてお話します。
率直に言うと、地獄の様相を呈しております!
今からこの事業に参入しようと思っている方はなかなかに蛮勇でありますし、逆に言えば地獄の王者として新たな閻魔になれる可能性も秘めた、まさに戦国時代であると言えます。
それは、ある角度から見れば地獄に、また別の角度から見れば最高のクリエイター天国に見えるということです。
この記事では、なぜスマホゲーム業界が地獄に見えるのか、グリモアという小さなゲーム系ベンチャーがどうやって地獄で生き抜いていくのかを、ゲーム業界の外の人でもわかるようにお話しようと思います。
"もうスマホゲーム事業の優劣は決まった!" "戦国時代はFGOの登場でおわった!" という意見も耳にしますが、全然そんなことないけどなあ?というのが現場の最前線でクリエイター&経営者をやっている僕の感想です。
転換期はいつでも天国と地獄
転換期というのは天国であり地獄でもあります。
10代を思い返せば、学校の進級や進学、クラス替えどころか席替えひとつで天国と地獄が入れ替わるような日々であったかと思います。
スマホゲーム業界の現在地でいいますと、まさに転換期です。
サイレントに息を殺して静かに密やかに転換期がはじまっています。気付いている人、気付いて無視する人、何も気付いていない人など十人十色ですが、変化が訪れている事実は避けようもありません。
スマホゲーム業界で起きている変化
スマホゲーム業界では大雑把に以下のような変化が起きています
グローバルハイクオリティ(黒船来航:令和維新が起こるかも!)
web3(分散化インターネット:ウェブスリーと読むのが通らしい!)
DeFi(中央不在の分散型金融:デファイだって!ワイファイみたい!)
DAO(分散型自律組織:意識高い人はもうダオダオ言ってるね!)
5G(ストリーミング:"ゲーム機" という垣根が消失するかも!)
メタバース(バーチャル世界:オンゲがキャズムを超えるぞ!)
すごく大雑把に言うと、グローバルハイクオリティは制作するゲーム内容、web3 と 5G、メタバース はゲームを遊ぶ環境、DeFi はゲーム事業のマネタイズ、DAO はゲームを開発する組織に関する変革です。
ゲーム事業を取り巻くあらゆる物事が変化の中にいることがわかりますね!
それぞれを説明するのはなかなか骨が折れますし10本くらいの記事になってしまうので、本日は一番上の『グローバルハイクオリティ』についてお話しようと思います!
スマホゲーム業界の基礎知識
『グローバルハイクオリティ』についてお話する前に、スマホゲーム業界の基礎知識を簡単に説明いたします。
ソシャゲはサ終する
サ終とはサービス終了のことです。
スマホゲーム業界のメインストリームであるソーシャルゲームは突き詰めればオンラインゲームですから、いずれ寿命がきてサービスを閉じざるを得ません。
人気タイトルの場合はオフライン版が残ることもありますが、大抵は何もなかったかのように公式サイトからSNSアカウントまで綺麗サッパリなくなることも少なくないです。
ゲーム業界ニュースサイト「gamebiz」さんの "サービス終了" カテゴリを参考に換算すると、2021年にサ終が発表されたタイトル数は単純計算でも200タイトル以上あります。
スマホゲームの生存率をきちんと計算したことはありませんが、体感としては2年持たずに終了していくタイトルが大半であります。
飲食店の生存率は(時と場合によりますが)2年で50%が定説であると聞きますから、なかなかに厳しい業界であるということがお分かりいただけると思います。
なぜソシャゲはサ終するのか
全てのタイトルに共通する理由があるわけではないですが、大抵の場合は『利益にならない』からです。
一般的に黒字であるかどうかが分水嶺と言われますが、これも一概にそうは言えません。
黒字化していても、もっと大きな黒字化を目標に人員異動でサ終することもあります。逆に赤字でも未来に希望があり、会社がそこに投資していく覚悟があればサ終しないこともあります。
魂を込めて作られたタイトルが『利益にならない』状態になる最大の理由は顧客が想定通りに集まらない・継続しないからです。
なぜ集まらないかと言えば、もっとおもしろくて継続したくなるゲームが他にあるからです。
例えば、グローバルに配信される超絶クオリティなタイトルとか……。
グローバルハイクオリティ
チームラボの猪子さんが2014年に使われた言葉に『グローバルハイクオリティ』というものがあります。
インターネットの進化によりコンテンツは世界中に配信されやすくなり多くのユーザを獲得できるようになりました。
グローバルに展開するような巨大資本をもつ企業はクオリティアップに巨額の投資を続けることができ、同時にその回収もしやすくなります。
結果的に、グローバルに展開する企業に資本が集中し、クオリティが上がり続けるサイクルがまわります。
これがグローバルハイクオリティです。
原神インパクト
このようなサイクルはゲーム業界でもずっと起きていて、ついにスマホゲーム業界に登場したぞ!と世界を驚かせたのが、まさにグローバル同時公開であった miHoYo社の『原神』です。
今や説明するまでもないほどに有名になった原神は、制作にかかった費用が約110億円を超えると言われており、その回収も済んでいるといいます。
正直なところ、二桁億円使えたらすごいぞ!というスマホゲーム業界において、これはなかなかインパクトのある話題です。
2019年リリースの Studio MGCM社のマジカミが「製作費12億円」をキーワードにして大々的に広告を打っていたことからも、ゲームタイトルに二桁億円を使うことはそれだけでインパクトになるという前提が業界やユーザ認知にあったことがわかるかと思います。
原神は見事に成功し、さらなるクオリティ投資が行われるでしょう。
miHoYo社の新作『崩壊スターレイル』もきっとグローバル(少なくとも日中韓米)に展開されるようなので、資本集中とクオリティアップのサイクルは止まらないと思われます。
グローバルハイクオリティとの戦い
もし、日本のスマホゲーム開発会社が『クオリティ』で miHoYo社と勝負するとなると、どこからか100億円を調達して研究開発し、原神以上のタイトルを制作する必要があります。
まずぶつかるのが、100億円の調達です。
数億円なら未回収の事例もありましょうが、100億円の損失を「このくらいいいよ!返さなくても!」と言ってくれる投資家はそうはいません。(いるなら僕に紹介してほしいですが、ちょっと怖いです!)
仮に用意できたとしても、日本のスマホゲーム開発会社は、数億円のゲーム開発に最適化されている背景もあって、100億円を使い切ることがそもそも難しいです。
例えば、平均年収500万円のメンバー20人が1年間開発すると単純計算でも1億円ですから、この人員構成だと100年かかります。人員を10倍にして200人で開発しても10年です。年収を倍にして1000万円にしましょう!それでも5年かかります。
しかしながら、ゲーム開発分野で年収1000万の人員を200人集めることができるでしょうか?年収1000万円超のクリエイターとなると既にスケジュールが埋まっているでしょう。そんな200人をきっちり5年間あけておいて!ということがいかに難しいかは言うまでもありません。
「100億円の投資をうけること」「100億円を使い切れること」の2点が、いかに尋常ならざることでありましょうか!
このような背景もあり、日本のスマホゲーム開発会社各位は二桁億円超規模のタイトル開発を完遂できる体制構築に頭を悩ませていることと思います(あるいは、諦めているか)。
ゲーム会社の社長あるあるだと思いますが、「原神みたいなゲーム作らないの?」という優しいアドバイスに奥歯を割れるほど噛み締めながら愛想笑いをする経営者は僕だけではないと思います。
2017年 アズールレーンという "黒船"
Yostar社が『アズールレーン』を日本市場に出したときが、おそらく日本のスマホゲーム市場がグローバルハイクオリティのサイクルに巻き込まれた瞬間であったと僕は考えています。
Yostar社はアズールレーンをはじめ、中国のハイパーグリフ社の『アークナイツ』や韓国のNAT Games社の『ブルーアーカイブ』、米国に本社を置く韓国のKong Studios社の『ガーディアンテイルズ』など、高品質でハイクオリティなローカライズプロモーションを日本で成功させています。
上記のタイトルは全てグローバルに展開しており、原神同様に資本の集中とクオリティアップのサイクルが起きています。
"原神の登場により今後の日本市場は――" という論を展開する方もいらっしゃいますが、アズレンの登場時点で既に日本のスマホゲーム市場はグローバルハイクオリティの波に飲まれています。
"これから起きるのではなく、もう起きている"
この事実はなかなかにショックな事実であると思います。
仮に黒船来航により令和維新が起こるとすれば、もうそろそろかもしれません。
※ ※ ※
グリモアの戦い方
当社グリモアはゲーム業界でみれば吹けば飛ぶような弱小ベンチャー企業です。上述のようなグローバルハイクオリティとの戦いや、今後起きるだろう web3 や 5G 普及などなどの変化の中をどのようおに生き抜くのでしょう。
悪の組織らしく!
(HappyElements グループの傘下企業ではありますが)当社の銀行口座には100億円もありません。miHoYo社や Yostar社と同じ戦い方はできません。
逆に言えば、グローバルハイクオリティ勢ができないことをやるのが我々の役割です!
当社は、アドベントカレンダー1日目のとおり『悪の組織』を目指しています。憧れの魔王軍になりたい組織です。
人類が勇者やら伝説の武器やらハイクオリティで世界を支配するならば、新興勢力の魔王軍は魔族の結束を高め、地元(魔界)に根づいたコミュニティを広げていくやり方を選びます。
ローカルロークオリティに挑戦だ!
再びチームラボの猪子さんの言葉を借りますと、『ローカルロークオリティ』という考え方があります。
ロークオリティというと語弊がありますが、低品質を指すわけではなく、グローバル向けの超絶ハイクオリティには勝てないかも……、という比較の話です。最低限以上の品質はあってこそ、と読み替えてくださいね!
例えば、品質でいうとごく普通のカレーが目の前にあったとします。
グローバルハイクオリティなカレーと比較すると、このカレーはロークオリティです。ミシュラン★★★のような人生を変えるような感動はないけれど、ふつうに美味しい。
しかし、このカレーが『小学生の息子が母の日にご飯炊きから全部を1人でやって母にプレゼントしたカレー』だとしたらどうでしょう!
絶対値でみたカレーの「おいしさ値」はミシュラン★★★に勝てませんが、これを作った少年の家族や親族という "ローカル" において、その価値は計り知れないものになりますよね!
品質ではない部分にも価値は生まれます。
この考えがローカルロークオリティです。
資本の集中とクオリティアップのサイクルが生み出す圧倒的な価値に対抗する1つの方法が、品質以外で価値を生み出すローカルロークオリティなのです。
中二病を救う
当社のビジョンは『中二病を救う』です。
誰より中二病に寄り添い、中二病を理解し、中二病の可能性を信じています。ゲームやアニメ、マンガなどのコンテンツに救われた中二病が、もっと素敵なものを世に生み出していく未来を心から期待しています。
そんな我々だからこそできる悪ふざけなコンテンツがあります。
そんな我々だからこそできる挑戦があります。
そんな我々にしか生み出せないドラマがあります。
そして、そんなドラマを愛してくれるファンの方々がいます。ファンの方々が、中二病が中二病のままでいてよいコミュニティを生み出します。
それが、魔王軍になりたい当社が大切にしている『魔界』です。
単純な品質勝負では原神に負けてしまうかもしれません。
それでも、『魔界』でないと体験できないドラマや感動という価値を生み出すことでグローバルハイクオリティに立ち向かうぞ!というのが当社の戦い方です。
「グリモアらしい」「これだからあの会社は」「ブレ×ブレくんどうかしてる」(すべて褒め言葉)と感じてもらえる価値を生み出せるよう、日夜さまざまな挑戦を続けております。
(結果論ではありますが、本当に本当にありがたいことに、
今もこうやって経営を続けることができております…!!!)
地獄は遊園地だ!楽しもうぜ!
スマホゲーム業界は転換期に入りました。
3年後、「スマホゲーム」という名前自体が古い言葉になっているかもしれません。メタバゲーとか言われてるかもですね!
これから数年、新しい技術がたくさん生まれます。
新しい挑戦をたくさんして、新しいたーーーーくさんの失敗をします。
僕は新しい失敗が大好きです!
新しい失敗なしに新しい成功はありえませんからね!!
それに、グローバルハイクオリティと正面から戦わないとはいえ、彼らの技術を身に付けなくてよい、なんて判断はしません。なぜなら、1-2年後にはそのハイクオリティは業界水準になっているでしょうから!
まさに、毎日が挑戦です。
常にインプットして、3倍アウトプットして、たくさん失敗して、技能水準を上げて、また挑戦して――
まるで五輪で金メダルを目指すアスリートのような毎日でしょう。
そんな日々を、誰かは地獄と呼びますし、誰かは天国だと言います。
当社は、こんな世界を「楽しむ」と決めています。
なぜなら、挑戦者は楽しそうでないと!
ツラそうだったり、イヤイヤやっているチャレンジャーを応援したくはなりません!当社は、みんなから "もう一度挑戦してほしい" と思われる組織になりたいのです。
最後に
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!
心のどこかで少しだけ『一緒に楽しみたいかも』と思いましたか?
その想い、その感情、ぜひとも大切にしていただきたい…!
――おっと!こんなところに採用サイトへのリンクが!
偶然って何度もあるものですね!
ということで、
グリモアは一緒に【中二病を救う】側になってくれる仲間を
大大大募集中です!
少しでも当社に興味を持って頂けましたら、
是非とも下記の採用サイトを御覧ください!
おまけ
「いつかグローバルハイクオリティに勝負しないのか」……ですか?
ええ、もちろん、しますとも。
そのためのチャンスも伺っています。ただ、今ではない、というだけで。
当社は負け戦を楽しめるギャンブラーではありませんが、
勝てる戦いを逃すような臆病者でもありませんよ。
株式会社グリモアは挑戦者です!
読んでくださりありがとうございま――…… え?さぽーと…?いやいやいや!そんな恐れ多いですよ!でも、サポートいただけると、ゲーム開発が少しだけ楽になるかも…… あ!ごめんなさい、独り言ですっ!えへへへ……