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【店づくり相談室 vol.16】穴掘りが大好きだった


<バイオフィリア>という概念

夏になると海に行きたくなります。でも、海もいいけど、山もいいな。そんなことを考える人も多いと思います。でも、なぜ人は海や山に行きたくなるのでしょうか。その答えが<バイオフィリア>。これは1984年にアメリカの生物学者<エドワード・ウィルソン>によって提唱された『人間には“自然とつながりたい”という本能的な欲求がある』という概念です。「人間は、ビルが立ち並ぶ人工的な空間よりも、緑あふれる自然環境を好む性質がある」ことが近年さまざまな研究からわかってきました。この<バイオフィリア>の概念を反映した空間デザインが<バイオフィリックデザイン>です。「人と自然の調和を図ることで健康や幸福度が増す」という世界的に注目を集めている手法です。ストレスを軽減し、購買を促すという研究結果から、街づくりや建築、内装のデザインにも多く取り入れられています。ビジネス心理学を研究するアメリカのロバートソン・クーパー社が、世界16カ国(イギリス、フランス、ドイツ、UAE、中国、インドなど)7,600名を対象とした調査結果でも、<バイオフィリックデザイン>を取り入れたオフィスでは創造性が15%アップしたと報告されています。この要因は自然光と観葉植物だということです。

「子供は土遊びが好き」なのはバイオフィリア?


“自然とつながりたい“という欲求からかどうかは分かりませんが、私は子供のころから土いじりが好きでした。海に行くと必ず砂浜に大きな穴を掘っていましたし、庭が広い親戚の家に遊びに行くと、挨拶もせずにすぐに裸足になり、庭に飛び出して穴掘りを楽しみました。土いじりをしているとなぜか心が落ち着き無心になれたのでした。しかし、ある時期から、穴を掘るとよくゴミを見つけるようになりました。環境問題など考えも及ばない子供のころの話ですが、なぜここからゴミが出てくるんだろうかと不思議に感じたことは覚えています。

2022年度の1年間で発生した食品ロスは472万㌧


2024年6月に発表された推定値です。このうち約半分は私たちの家庭から出ていて、1人当たりに換算すると、年間20㎏近くになります。家庭から出る食品ロスの理由は、大きく2つあります。1つは、調理しないまま捨ててしまう手つかずの食品。そしてもう1つは食べ残しです。誰もが思い当たることがありそうです。仙台市が2019年に市民605世帯に食品ロスを5週間記録してもらったデータによると、手つかずの食品のうち半数を占めたのが野菜と果物でした。その後に、豆腐、納豆、牛乳、乳製品と続くのですが、野菜と果物が最も多いのです。(朝日新聞)

食品ロスを土から考える


食品ロスと土。この二つはどのような関係があるのでしょうか。私たちは毎日食べ物を食べますが、そもそも「この食べ物が吸った栄養はどこから来るのか」というと、土からです。ということは、見かたを変えると私たちは毎日3食、土からの栄養のスープを飲んでいるということになります。私たちは、栄養のことは色々と学んでいますが、土のことをどれくらい知っているのかというと、それはほとんど知らないのではないでしょうか。

そもそも土は、地球の表面のどのくらいの深さがあるのでしょうか。地球の半径は6,400キロくらいあるといわれています。日本は南北に約3,000キロなので、日本が縦に2つ入るくらいの深さが地球の深さだとイメージできます。では、土の深さはどのくらいかというと、世界平均でみるとだいたい2m位だそうです。そうすると土の深さは、地球の深さの320万分の1程度ということになります。割合からするとものすごく少ないので、土壌生成学などの専門家から言うと、「土壌は地球の垢」だとか「皮膚」だという表現をされるくらい薄い層なのです。地球規模で考えると、このとても薄い層の上で、私たちのほとんどの食べ物が作られています。人類がそれで支えられていると考えると、とても儚いものです。この土が1㎝の厚さになるまでにどのくらいの時間がかかるのでしょうか。実は、1㎝の土ができるのに平均500年かかるといわれています。1,000年という予測もあるのですが、様々なデータを比較していくと1㎝500年というのが定説になっているようです。

葉物の野菜などを栽培するためには、最低でも10㎝の土壌が必要です。そうすると5,000年の年月が必要だということになります。大根だと30㎝程の深さが必要ですから、15,000年必要だということになります。私たちは、それ程の時間がかかってつくられた土壌の上で栽培された野菜を食べているのです。その土の厚さはわずか2mしかない。「水は資源だ」という感覚が私たちにはあります。しかし、土壌に関しては、はなかなか資源だという認識が薄いのではないでしょうか。しかし、こう考えると「土壌は間違いなく資源」であり、大自然が与えてくれた偉大なGIFTなのです。普段なかなか考えないのですが、土壌という資源を大切に維持しながら、作物を作って食べているという意識が必要です。土の上で作られた野菜や米など、様々な事情がありながらロスになっているのだと思いますが、長年かけてつくられた土のことを考えると、食品ロスの問題は、ほんとに切なくなります。野菜は劣化が早いうえに、洗ったり、皮をむいたりと調理に手間がかかるので、冷蔵庫にあっても使うハードルは高くなります。その結果、冷蔵庫に残り、腐ってしまって、食品ロスにつながることが多くなるのです。野菜を新鮮に保つためには、適切な温度と湿度を保ち、縦置きにして冷蔵庫に入れるなどの工夫が必要です。また、週に1回、スープの日やカレーの日をつくって、残り野菜の使い切りを意識するのも良いでしょう。家庭で食品ロスをなくす工夫はまだまだ見つけられそうです。企業でも様々な工夫をしています。例えば、スターバックス。現在、日本には1900店舗以上あり、多くの食品廃棄物を出しています。そのうちの7〜8割がコーヒーの豆かすで、1店舗あたり1日約12kg排出するそうです。そこで10年前から店舗ごとに豆かすのリサイクルを実施。農家とタッグを組み土と混ぜて野菜を栽培したり、肥料化して牧場へ提供したりと、廃棄量を減らす取り組みを推進しています。店舗では、豆かすを使った壁材やトレーを使用したり、お手洗いの脱臭剤として使ったりしているそうです。

一方で、山形大学が世界初の3Dフードプリンターを開発したというニュースが報道されました。このニュースに気持ちを高揚させた農業従事者の方は多いと思います。この3Dフードプリンターは、出荷されずに廃棄される野菜を粉末にして、食品として再生させるもので、フードロスの課題にも大きな役割を果たしそうです。開発者は将来的に宇宙食にも進出したいという夢を語っています。

私たちの食生活はCO2排出の上に成り立っている


農作物を作る際には土を耕しますが、実は、土を耕しただけでCO2が排出されています。それは、こういうことです。土の中にはたくさんの有機物があります。地面は空気に触れているので酸素濃度が高く、空気に触れていない土の下の方は酸素濃度が低くなっています。これをひっくり返すのが耕すという作業です。耕すことで酸素濃度が低い土の酸素濃度が急激に高くなり、酸素が好きな微生物が一斉に有機物を食べることになります。その時にたくさんの二酸化炭素が排出されます。つまり、農業機械などを使わなくても、土を耕すだけで二酸化炭素は排出されるのです。土を耕すときに、肥料を入れるなどして土を肥やします。化学肥料を作る際にもたくさんの温室効果ガスを排出しています。さらに、農作物が作られて家に届くまでの流通過程を捉えると、世界の温室効果ガスの34%位はフードシステムから出ているといわれています。従って、食べ物に関連することが最も多くの温室効果ガスを排出しているといっても良いのかもしれません。つまり、環境に大きな負荷を与えながら私たちの食べ物はできていると言えます。食品ロス(まだ食べられるモノ)と食品廃棄物(ほんとに食べられないもの)の量を合わせたものが全生産量の3分の1だということも分かっています。

土を中心に考えてみると、私たちは、土という地球上の貴重な資源を使って、農作物をつくっています。その一方で、土から出るものをはじめとしたCO2排出の上に、私たちの食生活が成立していると言えるのです。そうしてつくり出されたものを食べているとしたら、これはほんとに無駄にできないです。食品ロスについて考える機会も多いと思ますが、視点を変えてみると考え方も大きく変わるのではないでしょうか。

理想的な未来像は描けているか

画像出典:BUNGA NET

近年は、都市開発や都市化の名のもとにコンクリート化が進み、土を見かけなくなってきました。また、温暖化による気候変動で大雨や洪水が頻発し、山が削られ土砂が流され甚大な被害も起きています。地球の大切な資源である土が、凶器となり人々の生活を脅かしています。1㎝積み重なるのに500年もかかる土が、一瞬にして凶器に変わる。街には、ビルを建てるために土を掘り起こし地中深くに基礎杭を打ち込み凶器をつくり出しています。

地域の発展を目指すのであれば、土を掘り起こし、コンクリートを使った都市化計画に傾倒するのではなく、地域の持つ自然・歴史・芸術といった文化を掘り起こすなど、ソフト面での価値を高めることが必要です。地域独自の「楽しさ」「豊かさ」「美しさ」を追求することは、観光業や小売業など多様な産業の発展につながります。幼いころから穴を掘ることが好きだった私ですが、穴を掘り、水脈を見つけただけでは商品にはなりません。水源まで到達する穴を掘り、効率よく水を汲み上げ、商品としての「水」の価値を上げるために様々な工夫をして、より多く販売するためにブランディングする。それを事業として成り立たせるためには、物流、管理に至るまでの仕組みづくりも必要です。多くの人々とのつながりや協業によってこそ地域のブランディングは確立できるのです。

街や店づくりを今のやり方の延長戦上で進めていくことが日本の未来を持続的に豊かにしていけるのでしょうか。どのような状態になっている未来像が理想的な状態なのか、そのビジョンと戦略を組み立てておく必要があります。

店づくり相談室は、エシカルな側面から未来を見据えた店づくりのヒントを提供します。


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