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【店づくり相談室 vol.2】これからの店づくりのキーワードは“ゆらぎのある空間”


都会的なウェルネスを追求した商業施設

香港のネルソンストリートにある『THE FOREST』。“都会的なウェルネスの追求”をテーマに緑豊かでサステナブルな環境を育むアウトドアライフの拠点として、暮らし、学び、分かち合いを提案しています。『THE FOREST』は、New World Development CompanyとUrban Renewal Authorityが共同で開発した、スポーツとサステナビリティに焦点を当てたリテールハブです。スニーカーストリート(Fa Yuen Street)の中心に位置し、<アディダス(adidas)>や<アンダーアーマー(UNDERARMOUR)><プーマ(PUMA)>など国際的なスポーツブランドの他、カフェや飲食店など、店舗コンセプトに則った31のショップがラインナップ。スポーツ愛好家に特別なショッピング体験を提供しています。

環境に配慮した現代的な建築デザインと、フランス窓からの自然光と風通しの良さが特徴で、ショッピングの途中で旺角の賑やかな通りから離れて、息抜きが楽しめるスポットです。店舗内のどこにいても、花や緑などの植物が視界に入るように設計されており、「ゆらぎ」が感じられる商業施設です。私自身、5年ほど前に初めて訪れた際、これからのムーブメントになるであろうと予測していた“自然との共生”をコンセプトにした店舗を目の当たりにして、その徹底ぶりに驚きと共に、とてもリラックスした気分になったのを覚えています。

心地よい空間

人が心地よいと感じるのは、落ち着きがあり安心できる空間です。そのエレメントは、視覚的な「ゆらぎ」と「適度な音」「香り」「緩やかな風」そして「清潔さ」です。近年、生理学的観点から自律神経の「ゆらぎ」が欠如していることが指摘されていますが、本来、人は遠くを見ると緊張し、近くを見るとリラックスします。これは、遠くを見る時には、交感神経が働き、近くを見る時には、副交感神経が働くからです。
狩猟生活をしていた古代から、人は遠くにいる獲物を探す時に緊張し、近くの家族を見るときはリラックスしていました。どちらがいいというわけではなく、どちらも大切で、交互に体験するのが良いとされています。しかし、現代のネット社会において交感神経の働きが強くなるのは、仕事でパソコンやスマートフォンなど近くの画面を見ている時です。この時働いている交感神経は、本来は遠くを見るために目の焦点を合わせるはずなのですが、実際は、副交感神経を働かせて緊張しながら近くを見ているという矛盾した状態に陥るため、脳の混乱が生じ、自律神経をコントロールできなくなります。この状態が長く続くことで、自律神経の中枢が疲弊し、正常な働きが出来なくなります。

人が快適だと思える空間には「ゆらぎ」が必要ですが、人工空間には「ゆらぎ」が感じられないところがほとんどです。良い環境には、「ゆらぎ」が感じられます。例えば、自然界の森や公園。時間と共に変化する太陽の光、水面に映える雲や木々の影、ゆったりとした川の流れなどの視覚的な「ゆらぎ」に加え、朝は鳥が鳴き、昼は木々や植物が風にそよぎ、夜はひっそりと静まり返る。耳や皮膚で感じる空気に自然の営みを感じることができます。それが人の自律神経を整え、五感に「ゆらぎ」を与えます。このような「ゆらぎ」が店舗空間やオフィスにも必要だという認識が広がり、近年では植物を取り入れた空間が増えています。

心地よい空間を創り出す植物や自然

「海が見たくなる。」「山に行きたくなる。」「道端の花に心が豊かになる。」あるいは、「花を1輪もらって癒される。」このように何故、人は自然を欲するのでしょうか。人は経済に対する関心が高いのに、なぜ自然を求めるのでしょうか。これは決して合理的な話ではありません。「なぜ人は海や山に行きたくなるのか」その答えが、『Biophilia(バイオフィリア)』。これは、1984年にアメリカの生物学者 <Edward Osborne Wilson(エドワード・オズボーン・ウィルソン)>によって提唱された「人間には“自然と繋がりたい”という本能的な欲求がある」という概念です。「人間は、ビルが立ち並ぶ人工的な環境よりも、緑あふれる自然環境を好む性質がある」ということが近年さまざまな研究で解明されてきました。自然のない人工的な景色の画像より、自然の景色の画像を見る方が人間の脳の視覚野に強力なドーパミン反応(快楽欲求指標)を引き起こすことが示されています。「人は、見ただけで命あるものか、命のないものかを見分けることができます。そして、命のあるものを好みます。」

この『バイオフィリア』の概念を取り入れた空間デザインが『バイフィリックデザイン』です。これは、「人と自然の調和を図ることで、健康や幸福度が増す」という世界的に注目を集めている手法で、街づくりや建築・内装のデザインにも取り入れられています。ビジネス心理学を専門としているアメリカの<ロバートソン・クーパー社>は、『バイオフィリックデザイン』を導入することで、導入前と比較して従業員の幸福度15%、生産性6%、創造性15%の上昇が認められたという調査報告を発表しています。近年の商業施設やオフィスには、「植物」や「自然光」「水」「自然の色」などの要素を取り入れる工夫が多用されています。これは、今まであいまいであった植物の効果が、エビデンス化されたことに他なりません。

約46億年前に地球が誕生し、この地球上に生命が生まれたのは約5億年前。哺乳類が誕生したのは2億3000万年前。人間に近い大きな脳を持ち、2足歩行する霊長類が現れたのが約500~600万年前。人類が誕生したのは約20万年前。産業革命がおこり文化的な生活をするようになったのは約200年前。インターネットが発明されてわずか50年。DNAレベルで、人類の進化の過程を見てみると、99.9999%は森の中で生活していました。だから、当然そのDNAは残っていると考えられます。生き物のDNAは万年単位で変化します。象の鼻やキリンの首が長いとか、ラクダの背中のコブが大きいとかも一朝一夕に変化したのではありません。人の体も自然に適応するようにできています。人が休暇に海や山に行きたくなるのも、ストレスを逃れるために本能的に脳が求めているものかもしれません。

ここ20年くらい、リアルな世界よりもテクノロジーが重視される時代が続きました。そして、今、そのぶり返しが起こっています。テクノロジー重視の流れがテーゼだとすると、今の時代の自然回帰はアンチテーゼです。そして近い将来、ジンテーゼという時代が来るでしょう。それは、テクノロジーと自然とが融合したバイオフィリアの概念を取り入れた新しいワクワクする未来です。

阪急梅田本店での新たな挑戦

2023年4月、阪急うめだ本店8階に、『グリーンエイジ(GREEN AGE)』という新しいゾーンがオープンしました。“人と自然の共生”をコンセプトに、ファッションやビューティ、食や雑貨など商品カテゴリーの枠組みを超えて約40ショップが集積しています。
ラグジュアリーとアウトドアが共通環境の下で、シームレスに共存し、自由に回遊できる空間です。約2300㎡の空間には、緑を感じる植栽やモニュメントが随所に配置され、統一感のある作りになっています。装飾には環境負荷が少ない建材が用いられており、天井には地産の檜の間伐材を使った櫓をあしらい、床や柱には抗菌・吸湿性に優れた石灰石を主原料とした漆喰が使用されています。
こうした共通環境の下で、消費者はブランドの垣根を意識することなく回遊し、ショッピングを楽しむことができます。<パタゴニア(PATAGONIA)><ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)>といったアウトドアブランドと<プラダ(PRADA)><ミュウミュウ(MIU MIU)><クロエ(CHLOE)>といったラグジュアリーブランドのショップがカテゴリーの枠を超えて、並列に配置されています。
また、体験・イベントスペースの「コミュニティパーク」は催事を数時間ごとに入れ替え自然との共生を広く発信する挑戦的な売場です。たとえば、開店直後は惣菜マルシェ、昼過ぎにはヨガ講座、昼下がりから夕方にかけてはワークショップや映画上映といった編成です。少なくとも年間500以上の催事が組まれる“自然共生型ライフスタイル”を地域のコミュニティと一緒に作り上げていく場の位置づけです。


「心の満足」を目的とした店舗設計

私たちは、この3年間の社会の大きな変化の中で、「人の本能や本質は変わらないけれども、行動や常識、習慣はいとも簡単に変わってしまう」ということを知りました。コロナ禍を期に、EC化とSNSマーケティングが急速に進み、人々はリアルでの体験の機会を失いました。世の中は少しずつ平穏を取り戻し、小売業では、オンラインからオフラインへの揺り戻しが確実に起こっていて、米の小売業の多くは、オーバーテクノロジーへの懸念を抱き、テクノロジーと人を絡めたサービスの開発を進めています。消費者の購買行動も経済合理性を求める「価格」から、関係性を求め「自分に寄り添ってくれる」とか「感動がある」といった「感情消費」へと移っています。
アパレルにおいては、従来“糸→生地→カット→縫製→服→販売”までがビジネスとして捉えられてきました。しかし、これからは「どのように循環させられる服を作るか」というサーキュラーエコノミーを意識した“ものづくり”が欠かせません。消費者の価値観の変化に伴い、購買行動や贈り物を選ぶ基準も変わるとすれば、モノ作りも「ライフステージ」や「ライフスタイル」をベースにした“マスに受け入れられるモノ”から、消費者心理に寄り添った「社会的動機」や「心の満足」を軸とした『新たな顧客分類』に基づく新しい切り口が必要になってくるのではないでしょうか。

同様に、店づくりや店舗での顧客体験の創造も、一時的な演出や訴求に留まることなく、システムをアップデートしながら、サステナブルな素材や手法を取り入れ、ゼロウェイストの思考で地球環境への配慮が欠かせなくなっています。内装デザインや什器、マネキン、ボディ、プロップスなどはもちろん、装飾物においても同様の意識が必要です。今後、環境保全への関心が高いといわれるZ世代の顧客獲得も視野に、「バイオフィリアの概念を取り入れた自然との共生」「地産材を使った内装設計」「地域との共生」をコンセプトにした「心の満足」を充たすことを目的としたリアル店舗が増えていくことでしょう。


ギフト研究所事務局からのお知らせ

イベント予定

6月16日(金)16時〜 GRIメンバーズ設立記念セミナー&交流会

今後の活動予定

・ギフト研究
・ギフトを絡めた地域創生
・ギフト開発
・諸活動の広報&PR


GRIメンバーズ

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