灰庭 太郎

ぼちぼちと短編を書いております。よければ見てやってください。 情報はこちらから。画像は…

灰庭 太郎

ぼちぼちと短編を書いております。よければ見てやってください。 情報はこちらから。画像はMidjourney製 https://twitter.com/hainiwa_taro

最近の記事

私の歩み

私の歩みは 他の人と比べると 悲しいくらい 恥ずかしいくらい ゆっくりとしているのですが それでも 私にはそれが精一杯なので せいぜい自分にできることは 他の人と比べたりせず 自分の思い描いた道を ただそれだけを見つめて 歩いていくことぐらいです。

    • 12月24日

       それは、サイゼリヤに行った帰りのこと。  僕は道でとんでもなくTesticulousな人を見かけた。  分かりやすく日本語で言うならば、睾丸がでかい人、である。  その人のそれは、ズボンの上から見てわかるほどで、あまりじろじろ見るのも失礼だろうと思いつつ、がっつり見てしまった。あんなに大きかったら行為に及ぶとき相手はさぞ大変だろう。というか、そもそも入らないのでは。  そこまで考えて、ふと自分のものに思いを馳せる。自分は童貞だから使ったことはない。まぁ、サイズは別に普通く

      • 小さな偶然

         耳障りな音がした。  電話である。  男は一歩前に進めようとしていた足を止め、音が鳴り響く自分のポケットを見た。電話が鳴っている。ただそれだけのことに、男は驚いていた。  男は、ちょうど電車に飛び込むところであった。真冬のことである。ホームは雪に覆われ一面が白く輝いていた。ここに自分の真っ赤な血が広がったらきっと綺麗だろう。男はそんなことを考えていた。  なぜ男は死のうと思ったのだろうか。さぞかし劇的な事件があったのか。心をえぐられるような別れがあったのか。いや、そんな

        • かっちゃん

           僕は一人、暗い場所で膝を抱えて縮こまっていた。  そこでただ一人じっと息をひそめている。  そして、周囲に耳をそばだてていた。  がさっ。    近くで誰かが草をかき分ける音が聞こえる。  僕は息を止め、物音をたてないように口に手を当てた。    がさがさ。  コツコツ。  足音はこちらに近づいてくる。  自分の心臓が早鐘のように鳴る。  コツコツ  もう、見つかる...。  と思ったその時、足音が止む。  周囲に静寂が響く。  どれぐらい経っただろうか。  

          僕と彼女の夢

          「叶わない夢を追いかけてるのが一番楽しいよね。」  下校時間。  遠くの空に日が落ち始め、辺りがオレンジ色に包まれる頃、彼女は自転車を押しながらそう言った。  目に入るのは、一面の田んぼだけ。  他には何もない道である。 「なんだそれ。」  僕は首を傾げる。 「夢が叶わなかったら楽しくないんじゃない?」  それこそ夢のない話だ、と僕は心の中でつぶやく。 「夢は、叶わないから夢、なんでしょ。」  しかし、彼女はあくまで自説を曲げるつもりはないようだ。 「叶うから夢、

          僕と彼女の夢

          ルサンチマン

          恋だとか愛だとか そんな言葉がどうでもよくなるような 本当の愛が知りたい。 言葉じゃなくて 肌で感じるような。 しかし僕は臆病だ。 ほしいものは見えてみるのに それを求めようとはしない。 手を伸ばせば決して手の届かないものではないのに 自分が傷つくことを恐れて 今日もコートとヒートテックで身を固めている。 そうして、どこかで誰かが 世界を壊してくれるのを ずっと待っている。 そんな日は永遠に来ないと知っていながら。 それでも僕は待ち続ける。 こ

          ルサンチマン

          選択肢

           目が覚めると見知らぬ部屋にいた。    辺りを見回す。  自分の手元には、ボタンのついた台がある。  そして、自分の正面、少し離れたところに牢屋のような箱が見える。    その中には二人の人間がいた。    妻と子供である。  部屋に不自然な音声が響く。機械で加工されたような男の声だ。 「そこには2つのボタンがある。 「一つは、死のボタン。それを押した場合、君たちは死ぬ。どのように死ぬかは押してからのお楽しみだが、間違いなく残虐な死を迎えることは保障しよう。 「そ

           どこまでも続くように見える、底の見えない、深い大穴があった。    その中に何があるのか誰も知らない。  誰一人として帰ってこなかったから。    なぜこんな穴ができたのかまるで分からない。  誰かが生まれる前からそこにあったから。  いつの間にか穴はあり、きっと、これからもありつづけるのだろう。    私は、目の前のその穴を見つめていた。    私は自分の人生に絶望していた。  もうどうなっても構わないと、そんな自暴自棄になっていた。  そして気が付いたら、その穴の前に

          たぶん、ぱりぱりのやつ

           気が付くと、私は前歯についた青のりになっていた。    どうしてこうなったのか、全く見当もつかない。    まさか自分が誰かの前歯に張り付く事になるとは思ってもみなかったので、はじめはただただ呆然としていた。    だが、こうなってしまったからには仕方がない。立派に青のりとしての役目を果たさなくては。  私は自分の境遇を嘆くのをやめ、前向きに考えることにした。    しかし。しかしである。  これといって私にできることは何もなかった。そもそも指一本動かすこともできない。  

          たぶん、ぱりぱりのやつ

          あいのかたち

           女は幸せになりたかった。    だから、できるだけ周りの人に尽くしてきたし、求められれば断ることはしなかった。  そうしていれば、きっと世界は答えてくれるはずだ。  だって、愛は、優しさは、報われるものだから。  女はそう信じていた。    時折、心の中に穴が開いたように虚しくなるときがあった。  いくらを尽くしたところで報われない。自分のことが幸せだと感じられない。    でもそれは、自分の心が未熟なせいなだと言い聞かせた。  自分の心がまだ弱いから、誰かに愛を与えたとき

          あいのかたち

          過去の人

           あの日。  沈んでいく夕日の中に、僕は君の姿を見た。  夕日に照らされながら、君は笑っていた。  逆光で君の笑顔は見えないはずなのに、確かに君は笑っていた。   そして、それが僕には悲しかった。  君は泣いているはずだったから。どうして君は笑っているのだろう。それが僕には分からなかった。  だから、せめて君の代わりに僕が泣こうと思った。誰かの代わりに泣くなんて、傲慢だと思われるかもしれない。  でも、僕にはそれぐらいしかできないと思った。  それぐらいしか、君にしてあげられ

          過去の人

          境目

          昨日まで見覚えのなかった街並みが急にいとおしくなった。 昨日まで嫌いだったはずのピーマンが食べられるようになった。 昨日まで憎んでいたあの人のことを少し許せるようになった。 昨日まで気になっていたあの人のことがどうでもよくなった。 昨日まで友達だった人の悪いところが目につくようになった。 昨日まで愛していた人が他人のように思えてきた。 昨日までの私。今日からの私。 その境目はどこにあるのだろう。 寝て起きるまでの間?朝日が顔を出してから世界を照らすまでの間?それとも朝

          つぐない

           子供が生まれるという知らせが私に届いたのは、ちょうど出張先で会議をしているときである。  予定していたよりも、1日早い出産であった。  私は実のところ、心の奥底でまいったな、と思った。  今日出張から戻り明日出産に立ち会う。そういう予定を立てていたのだが、そう何事も予定通りには行かないらしい。  一応、事前に周りにはそろそろだということは伝えてあったから、事情を説明し何とか途中で会議を抜けだすことができた。  大慌てで新幹線に乗り込み東京の病院へと向かう。私はひたすらス

          旅のいく先

           そうだ、京都へいこう。  そんな思い付きに身を任せて旅に出ることにした。  京都にいく。それ以外は特に予定も目的もなかった。ただの突発的な思いつきである。    せめてゴールは決めておこう。  私は少し考えた。頭に「伏見寺」という単語が浮かんだ。  よし、それでいこう。  私はなんの下調べもせず電車へと飛び乗った。  ここから京都までどれくらいかかるのか、そもそもこの電車で京都にたどり着けるのか。それすら分からない。京都は西にある。だからとりあえず西に行けばいいのであろ

          旅のいく先

          えもの

           誰もいない、廃墟となった街の交差点に一人の少女が歩いていた。  彼女は白いきれいなワンピースを着て  もう明かりを灯さない信号の中  もう車の通ることのない交差点の上を  鼻歌を歌いながら歩いていた。    少女は楽しそうに歌っている。 「フンフフン♪」  誰もいない交差点をただ歩いている。  はだしで、軽快なステップを踏んでいる。     その少女のもとに、遠くから一匹のけものが近づいてくる。  そいつは息をひそめて少女を狙っていた。    もう二歩少女が進んだら、  け

          N回目

           家に着き、私は充電の切れた機械のように布団に倒れこんだ。今日は一日中歩き通しだった。足が痛い。体中汗と汚れだらけだ。できればざっと熱い湯を浴びて一息ついた後、冷えたビールを飲んで一日の終わりを飾りたいところである。しかしもうそんな気力はない。体が言うことを聞かない。今日はもうこのまま寝てしまおう。そう思った瞬間、私は布団の上で汚れた服のまま意識を失った。  朝、気が付くと目の前に死体があった。  死体はまだそこまで日がたっていないように見える。  まるで、ついさっきまで生