見出し画像

シアター・グリーン・ブックを学ぼう勉強会  レポート

2022年9月29日、舞台関係者向けに、イギリスの舞台業界の環境ガイドラインである「シアター・グリーン・ブック」の勉強会を行いました。

シアター・グリーン・ブックとは?

イギリスで、2021年に発表された舞台業界の環境への対応をまとめたガイドブック

  1. 「持続可能なプロダクション製作」

  2. 「持続可能な劇場」

  3. 「持続可能な劇場運営」

の3つに分かれていて、
実際の現場での業務に直結した、具体的な実行案が書かれています。

英語でなく、ドイツ語、スペイン語、フランス語、イタリア語にも翻訳されており、日本語の「持続可能なプロダクション製作」のショートバージョンも公開予定です。

勉強会の概要

大島広子(舞台美術家)の個人的な呼びかけだったにも関わらず、32名の関係者にご参加いただき、またレクチャーの後日試聴希望も40名以上と反響の大きさに驚いております。参加者には舞台美術家、制作者、大道具制作会社所属、舞台監督、演出家、公共劇場関係者、環境の専門家と色々なセクションからお集まりいただきました。

レクチャーの後のグループディスカッションの様子

勉強会は二部構成となっており

一部:シアター・グリーン・ブックについてのオンラインレクチャー
  講師:パディ・ディロン(シアター・グリーン・ブック コーディネーター)
二部:日本での取り組みの紹介とグループディスカッション 

合わせて2時間半の内容でした。

シアター・グリーン・ブックのレクチャー

イギリスと日本をZOOMで繋ぎ、シアター・グリーン・ブックの発起人である  パディ・ディロン氏より、シアター・グリーン・ブック 1
「持続可能なプロダクション製作」についてレクチャーいただきました。
こちらは近日動画サイトで公開予定です。

パディさんのオンラインレクチャー

レクチャーの後は参加者とパディさんの間で質疑応答を行いました。

日本での取り組み  2例

B.O.S-Entertainment 廃棄予定の大道具を回収し、別の公演で使えるようにレンタル可能な大道具にリサイクルする取り組み

演劇集団円×東宝舞台株式会社 
ソハ、福ノ倚ルトコロ」2022年10月公演での持続可能な作品製作の取り組み 
アップサイクル可能な紙管を材木の代替素材として使用

公演パンプレットと合わせて配布されたチラシ

グループディスカッション

<テーマ>

  1. 明日から自分の業務に取り入れられる小さな取り組みを3つ見つける

  2. グリーン・ブックに書かれた工程の中の、実現可能性を話し合う

<1. 明日からできる取り組み>
このディスカッションはこれまで出会った事がない職種の人同士が話合いできるようにグループを編成しました。

出てきたアイデアの中には、”使われていない資材を業界全体で共有する”  ”打ち合わせをなるべくオンラインで行う”  ”100% リサイクルパンチ(黒)を使用する”   ”ペーパーレス化を実行する” ”小道具のマッチング”  ”養生テープを紙素材に変える”  ”SDGsTシャツを作って観客にアピール” ”使用しているテープの幅を狭くする” など、どの職場でも応用できそうなアイデアがたくさん生まれました。

話し合いの様子
グルーブごとにアイデアを共有

<2. グリーン・ブックの実現可能性>

グリーン・ブックに書かれた4つの役職に分かれてたグループディスカッション

グリーン・ブックの表に従い、プロダクションの企画からリハーサル、製作まで、今の現状と照らし合わせて、グリーン・ブックの指示が実現可能かどうかを3つの色で表す。緑=既に実現済みか明らかに実現可能 黄色=困難はあるが実現は可能 ピンク=実現は難しい

グリーン・ブック内の役職、工程別の取り組み表

三段階の判断は個人により様々ですが、自分と違う判断を、なぜ他者はしたのか?をグループで探る事で、お互いに自分が気がついていない課題や解決策を知る事ができます。

表を前に真剣な面持ちの参加者

結果、どこのグループも準備段階は緑や黄色で示されていましたが、製作の部分に入るとピンクが目立つ状況に。働いている者同士の合意形成は可能だが、具体的な製作の部分が難しいと考える人が多かった模様。

終了後は参加者同士連絡先の交換など交流されていました。

参加者の感想 グリーン・ブック レクチャーについて

●サスティナビリティを考えるハードルはクリエイティブにも良い影響があると言っていた事がすごく印象に残りました。

●成果に結びついたコミュニケーションについて語られていたが、成果に結びつかなかったコミュニケーションも多々あったと思うので、それがどういうものだったか、どう乗り越えたのか、あるいはどう視野から外したのか、お聞きしてみたかった。 サスティナブルリーダーは、どういうポジションの人が務めているのか? この取り組みによって、クリエイション期間の準備期間はより長く必要になったと思うがどうだろうか?

●環境問題への取り組みの必要性は分かっていても、前進するのは難しい。指標を出すことで目的や着地点を見いだすことに大いに役立つと感じた。それを作られたご苦労は想像するだけで大変だが、それをやって、更に進めている事に感銘を受けた。

参加者の感想 グループディスカッションについて

●製作会社は現実問題、同じ悩みを持っていて前に進み難い立場となのだと感じました

●レクチャーで話が出たように、どのセクションも“これをやるのだ” という熱量が同じでないとなかなか、前に進めないのかもしれませんが、まずは一歩踏み出すことが大事だと感じました。『まずは、やってみよう!』精神ですね。

●色々な考えはあるものの、環境問題への関心は高まって来ていると感じた。もう少しお互いを知ってから出来たら良かった。

●今出来ることから考えれば発展し易いと感じた。

主催者 大島広子の動機と感想 

レジ袋有料化やSDGsの様々なキャンペーンが町中そしてオンライン上でも一気に増えて、環境問題が経済活動の一部となりつつある日常と、異常気象がもたらす豪雨や洪水などの災害がいつ自分の現実となるかわからない今に生きています。

演劇業界の中では「環境に配慮する」という取り組みをほとんど聞かないし、私自身も舞台美術を作る上で、これまで多くの素材を捨ててきて、ぼんやりと「これでいいのかな? でも一人ではどうしようもできないな〜。」と思ってきました。 6月にイギリスのシアター・グリーン・ブックというガイドラインと出会い、イギリスでは実際に「環境に配慮した公演」が実現されていることを知り、日本でも絶対にできる! 環境に配慮した舞台芸術の創造を進めるべきだと思いました。でもどうやって? まずはどのくらいの人に関心を持ってもらえるのか、手探りで勉強会を企画しました。

自分の予想を上回り、勉強会を告知した時点で多くの方から環境配慮と演劇創作を両立させていきたいという作り手の熱量を感じました。そして、当日参加していただいた皆さんとても積極的にアイデアを出し合い、それぞれの現状を共有していただきました。

グループディスカッションが思いのほか盛り上がった事は、一番の収穫だったように感じています。なぜなら、もし日本でも環境配慮型の作品を作るとなると、それぞれの職種間の理解と合意形成が欠かせないからです。グリーン・ブックにも合意(Agreement) という言葉が頻繁に出てきます。今回のグループディスカッションのように、作品(プロダクション)製作の場でもこれまで以上に幅広い職種間で話し合いが行われるようになれば、環境配慮よりもさらに広い意味での持続可能な演劇/舞台芸術が実現できるのではと、ワクワクしています。

次回は2023年1月に勉強会を開催予定です。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?