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自分の生き方を決める“コア”に出会う場に

世界レベルで持続可能な社会の実現に向けて、地域で環境問題に挑むグローカルリーダーを育てる、実践型ビジネススクール&オーディション『Green Business Producers(GBP)』。40人の参加者とともに過ごした第1期を終え、10月から第2期が始まります(応募は8月末まで)。

グリーンビジネスを考え行動する「気付き、きっかけ」をもたらすような、これからの暮らしと社会の未来を探る連載。〜耕す未来、ダイヤルダイアログ〜は、GBPの、そして私たちの「今」そして「これから」について考え、綴っていく対談です。

第2回目は、GBPのオフィシャルスポンサーであるマイファームで専務取締役を務める、浪越 隆雅さんにお話を伺いました。第1期はオブサーバーとして講座全体の見学をしていただきましたが、第2期では講義を受け持っていただきます。浪越さんから見て、GBPはどのようなプログラムなのでしょうか。

浪越 隆雅
株式会社マイファーム 専務取締役
2011年株式会社マイファームに参画。マイファーム創業期から、体験農園事業、農業教育事業、流通事業、生産・コンサルティング事業等、各事業の立ち上げに寄与し、農業における、「趣味→職業」の領域まで、幅広く関わる。現在は、その経験を活かしながら企業や行政を対象とした農業アドバイザリー業務を実施。農業分野だけでなく、地域活性の領域でも取り組みを進めている。

小田切 裕倫
GBP副代表理事・運営責任者/プログラム設計・株式会社Challite 代表
東京と佐賀県唐津市をベースに、全国へ足を運び「地域、企業、生産者、社会問題(環境を含む)」を掛け合わせて場と物語をデザイン。人と人、人と事業のつながりを生みだす。地域に生まれた人とコトの流れの定着と広がりを目指し、2019年に唐津市で株式会社Challiteを立ち上げ。地域を軸にさまざまな分野の企画実施やプロジェクトに携わる。ビールと音楽がすき。最近、畑付きの一軒家に引っ越した。

自身が拒まれた農業に、楽しく人を呼ぶ

小田切さん(以下、小田切):よろしくお願いします。僕のなかで、浪越さんは「マイファームを駆け上がった人」っていうイメージなんですよね。今日はそのきっかけも聞けたらと思っていて。

浪越さん(以下、浪越):ぜひ!まずは僕が働く「株式会社マイファーム」について少し説明すると、「自分でつくって、自分で食べる人」を増やそうとしている会社です。趣味で農業を始められる『体験農園マイファーム』を作ったり、業界に入るための学校『アグリイノベーション大学校』を運営したり。作物の流通や売買、行政や企業のモデル作りのお手伝いなどもおこなっています。

小田切:農業に関わる人を増やすために、本当にさまざまな事業をやられていますよね!最初に、浪越さんとマイファームとの出会いから聞いていってもいいですか?

浪越:僕はもともと人材系の会社で働いていて、営業担当をしていたのがマイファームでした。草刈りバイトの募集広告を掲載して、「良い人来ますよ」と言いながら自分で応募したんです。

小田切:(笑)

浪越:で、落ちました。

小田切:えっ!落ちたんですか!

浪越:そう。結構、自信あったんですけどね……。

小田切:そもそも、草刈りのバイトに手を上げたのはどうしてだったんですか?

浪越:もともと人材系に進んだのは「“人”が関わっていない業界はない」から。広く世界を見て、進む業界を決めたいと思っていたんです。そのなかで、特に、外部から新しい価値観を持ち込んだら化学反応が起きそうな業界がおもしろそうだな、と思うようになって。その最たるものが農業でした。

小田切:化学反応が起きそうな業界。

浪越:自分がこれまで、農業とは別の業界で得た知見やノウハウを掛け合わせておもしろいことができそうだ、と。そこで活躍できたらかっこいいなと考えたんです。それで、マイファームのバイトに応募しました。

小田切:で、落ちてしまったと。

浪越:はい(笑)それでもめげずに、今度はいちご農家になろうと思ったんですけど、またしても拒まれてしまって。「しっかりと資金がないと」「勉強していなければ参入できない」「ちゃんと覚悟はあるのか」といった感じで、結局そのまま諦めてしまった。当時は、農業界に全く関わりがない人はなかなか新規就農しにくく、新しく業界に入る難しさを身をもって知りました。

小田切:その参入しにくさが、後継者不足や人材不足につながっているわけですよね。

浪越:そうですね。本気で入ろうと思えば入れるけれど、そこまでにいくつもの壁がある。ここに社会的な課題があると感じて、業界に参入しやすい世の中になったらいいなと考え始めていました。

小田切:それがまさにマイファームがやろうとしていたことだった、と。

浪越:おっしゃるとおりです。会社を辞めて、改めてマイファームに応募して、まずはアルバイトとして入社しました。そこから15年間、農業への敷居を下げ、新しい人たちの参入で人材の流動性を高めていくことを目的に活動しています。 

小田切:具体的には、どのように新規参入のルートを?

浪越:僕らの事業構造はピラミッド型や直線ではなく「円」になっています。まずは趣味・遊びの領域で農業の楽しさを知ってもらい、楽しいと思った人たちが学校で学び、農家として現場に入っていく。できた農作物の売買や流通をサポートしながら、ビジネスの継続も支えています。また、消費者に農作物を届けることで「こういう考え方を持っている農家さんいいな。自分もやってみようかな」と、また遊びの延長で農業を始める人が出てくる。こういった循環を僕らは作っているんです。僕自身は、この円のなかで事業を立ち上げては次へ、立ち上げては次へ……と一回りしながら、どんどん新しい事業を作っていったような形ですね。

マイファームの公式サイトより

小田切:とにかく行動に移しているのがすごいな。思ったら行動してみるのは、GBPの受講生にも伝えていきたい姿勢です。

判断基準になる“コア”を見つけられたら

小田切:数々の新規事業を立ち上げてこられた浪越さんから、特に受講生に伝えたいことはありますか?

浪越:そうですねえ。“コア”を見つけることかな。

小田切:“コア”?

浪越:はい、僕らは本当にいろいろな事業をやるなかで、「自産自消」という考え方に紐づいて判断しています。多くの人に「自分でつくって自分で食べる」ことを通して、自然や命の尊さ、自分の生き方について考えてほしい、というのが会社の理念だからです。例えば、チーズを食べる時に、その産地や牧場、牛について考えて、ちゃんと“身構えて”食べる。そういう豊かさを人生に取り入れるきっかけが「まずは種を植えてみる」ことだと思っています。

小田切:「自産自消」がマイファームの軸なんですね。

浪越:そう。自分のコアに据えたい考え方が見つかると、考え方がとてもシンプルになって動きやすくなります。迷ったらコアに近いほうを選ぶし、理念に反するものはやらないと決められますからね。

小田切:たしかに、大事ですね。

浪越:プログラムでは、いろいろな人がいろいろなことを言うと思います。特に地域に行ったら絶対にブレブレになるんですよ。さまざまな出会いもあるし、やることがたくさん出てくるし。だから、受講期間中に自分の“コア”を見つけたらいいんじゃないかなって……と言いながら、実は、僕自身は“コア”がないんですけどね。

小田切:そうなんですか。あえてコアを作ってない?

浪越:というより、僕は、マイファームの「自産自消」という概念に共感して、同じゴールに向かって動いている感じで。だから、僕自身のコアっていうのは正直あんまりないんです。

小田切:受講生からは「コアを持たなきゃいけないんですか」「何者かでいなきゃいけないんですか」って質問がくるかもしれませんね。

浪越:僕、持ってないですって言っていいのかな。でも、誰かの夢に乗っかる人がいてもいいかもしれないですよね。

小田切:うんうん。

浪越:必ずしも自分自身のコアを見つけるだけではなくて、「この人、憧れるな」とか「ついて行ってみようかな」と思える人を探せてもいいのかも。誰かのコアに共感して、一緒に地域や業界に入っていくのもひとつのやり方だと思います。僕の場合はたまたま、マイファームという場が見つかったということですね。

小田切:第1期のときは、ある程度『リーダーシップを持って地域に入れる人』を育てるという認識がGBPのなかにもありました。ただ、第2期ではもう少し多様性を持って何かが生まれる場にしていきたいんです。

浪越:それは、めちゃくちゃいいですね。

小田切:みんながリーダーになったら、逆にいろいろなものの取り合いになっちゃいますよね。エコシステムとか有機体を地域でどう作っていくかの視点を持った上で、柔軟に動ける人が必要だなと思うんです。リーダーがいなければやるし、誰か他にいるなら別のポジションを担当するような。そういった意識を作っていく講義もGBPのなかには盛り込んでいきたいと思っています。

浪越:確かに、「自分がどの立場が適してるのか・どの立場だと心地良いのかを見つける」という観点は大事ですね。リーダーシップだけではなくて、事業計画やビジネスプランなどの話も「知っておく」っていうのはすごく大切だなと思っていて。別に自分ができなくてもいいと思うんですよ。「得意じゃない」と気付くことができたら、得意なパートナーを見つければいいわけです。ビジネス要素が抜け落ちた状態で進んでもうまくいかないので、全体を俯瞰して見た上で「自分はどこを担うのか」を考えておくのは大切ですよね。

小田切:GBPでは、地域課題や環境問題に対して「日本代表レベルでやる人も、草サッカーを楽しむ人も、両方いていい」と思っているし、その行ったり来たりがあっていいとよく話すんです。それこそ、さっき見せていただいたマイファームさんの円の図は、上下がなくてすごくいいですよね。

浪越:僕らも上下ではなく「役割が違うだけだ」という考えで、あの図を作りました。人事制度を作るときも気にしていて、迷走の挙句に「役職:トマト」とかになっちゃったこともあります(笑)

小田切:なんとなく、やりたいことは伝わります(笑)例えば、唐津のオフサイト研修では、いわゆる“リーダー”ではない人たちにもたくさん関わってもらおうと考えていて。学生や議員、農家や社会福祉系の方など、さまざまな立場の人たちを混ぜ込んだ形でセッションすることを意識しています。もちろん、闇雲に知り合いを集めるのではなく、GBPのことを理解してくれるような考えを持つ方々を招きます。

浪越:いいですね。いろんな役割の人たちに会って、自分の役割も探していくことができるプログラムにしていきたいですね。

講師も受講生も、みんなが横並びに学び合う

小田切:第1期からオブザーバーで参加している浪越さんから見て、GBPのユニークなポイントってなんだと思いますか?

浪越:受講生の幅広さは、かなりの強みですよね。参加者の幅で言えば、マイファームがおこなっている『アグリイノベーション大学校』よりも広いと思います。こちらは農業や食などの限定的な領域に関心がある人たちが集まってきますが、GBPは地域というフィールドを決めているだけで、やりたいことは幅広いので、いろいろな業界の人たちがいる印象です。同時に集まって意見交換するだけで、常に学びがあると思います。

小田切:おぉ、なるほど。中にいる僕らは気づかない視点かも。

浪越:その幅広い人たちが同期となってつながり続ければ、ずっと学び続けられる環境ということですよね。それは果てしなく大きい可能性だと思ってます。

小田切:第1期であれば、40人全員が「教わる側」であると同時に「教える側」でもあって、響き合う関係性ということですよね。

浪越:本当に。僕らの『アグリイノベーション大学校』も、時間が経って参加者が増えるほどに学びが重なっていく印象があります。どんどん卒業生が一歩先を見せてあげる立場になっている感じ。10月から始まる2期生の人は、すでに1期生の先輩が40人もいて、40パターンの学びがあるのはめちゃくちゃ強い。

小田切:事例がたくさんあるのは、たしかにいいことですね。第1期では「グリーン」と「ビジネス」のバランス感覚を養うのがとても難しいと感じました。GBPに参加する人は基本的にはやっぱり「グリーン・ソーシャル」に偏る人が多くなりますが、そこにしっかりと「ビジネス・数字」を持ってこなければうまくいかない。第2期では、浪越さんにも講師として入っていただきますし、マインドから事業計画などの具体的なところまで、ぜひいろいろ伝えていきたいと思っています。

浪越:もちろん。単純に数字を作るだけではなく「何のための事業計画なのか」など、みなさんに知ってもらいたいですね。ただ、なんかあれですね、「講師」ってなんかなあ……。

小田切:浪越さんも!実は、細野さんとの対談でも、そういう話が出たんです。

浪越:うん、「講師」って言った瞬間に、僕が言ったことが“正解”になっちゃうんですけど、たぶん正解じゃないんですよね。

小田切:うん、うん。

浪越:僕はひとつの考え方・可能性を提示しているだけで、別にそれが正解ではなくて。逆に僕のほうが受講生から教えられることもたくさんあるだろうし、受講生が考えている素晴らしいこともあるわけです。僕も講師としてだけでなく、横並びで意見交換したり、一緒にアイデアを出していきたい。みなさんと同じ、GBPのプレイヤーとして活動していきたいです。だから、やっぱり「講師」じゃない気がしますね。

小田切:この連載を通じて、なにかいい言葉が見つかるといいなあ。

安心して帰ってくる場所になったらいい

小田切:先ほど「同期やプログラム内で学び合う関係」とおっしゃっていたんですけど、そうするとだんだんと意識が内側になっていくような気がして。仲間意識の強い同期で固まってしまうと、本来はフラットで広い世界のはずなのに、いつの間にか壁ができていく……みたいなことって起きません?

浪越:んー、“戻ってくる場所”にしていくのはどうでしょう?

小田切:なるほど、波止場的な。

浪越:GBPの卒業生ってそれぞれ地域に入って、きっとボコボコにされるんですよ。だからこそ、ホッと安心できる環境を大事にしてあげるのはすごく大切だと思います。各地に行くときは「行ってらっしゃい」、たくさんのものを得て帰ってきたら「おかえり」。そしてまた彼らが「行ってきます」と各地に戻っていかれるような。

小田切:それであれば、内側を向いているのも悪いことではないですね。

浪越:そうですよね。これが「同期」という濃い関係性であったり「GBP」という大きな枠組みだったり、ちょっとずつ濃度の違う場があるのも大事だと思います。例えば、たまに地元に戻ってサッカー部の同級生と飲み明かす関係性もあれば、もっと大きな高校全体の同窓会があってもいい。それぞれで交わされる会話の濃度や広さが違うことで見えてくることもあります。

小田切:故郷みたいな感じですね。

浪越:つらいことがあって迷っていたけれど、ここで癒されたから明日からまた頑張ろうって各自が戦いに戻っていくみたいな。そういう場所があってもいいのかなって。

小田切:それはいいですね。そういう場を作るにあたって、浪越さんが第2期で力を入れていきたいことは何かありますか?

浪越:どんな人が集まるかによって、変わってくると思うんですよね。『アグリイノベーション大学校』も、時代の流れや社会情勢によって受講者のタイプが変わるんですよ。受講生たちがどんな人なのかを機敏に察知して、対応できたらいいなと思っています。

小田切:GBPとしても、講義を固定せずに参加者に合わせてチューニングしていくことを意識しているので、そのように考えてくださって嬉しいです。

浪越:第2期の人たちには、第1期という「前例がある良さ」と、「前例を真似しちゃう可能性」の両方があると思っています。もちろん、パターンに当てはめていくことで早く結果に辿り着けることも多いんですけど、やっぱりオリジナリティは大事にしてほしいな。GBPはイノベーティブなことをしようと思う人たちの集まりだと思うので、“コア”の部分は意識していけたらいいですよね。 

小田切:受講生たちの“コア”を探す旅がどんなものになるのか、今から楽しみですね!

ー編集後記ー
とてもスマートで頭の切れる浪越さんですがお茶目な一面も。取材後には『まっくろくろすけを捕まえたメイちゃん』のモノマネをしてくれました。「横並びで一緒に学んでいきたい」とおっしゃってくださったとおり、2期では講師との対話の時間も多くしていきたいと思っているので、おたのしみに!(ディレクター:おおもり)

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