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GBPは地域に関わる人たちの“壮大なキックオフ”

世界レベルで持続可能な社会の実現に向けて、地域で環境問題に挑むグローカルリーダーを育てる、実践型ビジネススクール&オーディション『Green Business Producers(GBP)』。40人の参加者とともに過ごした第1期を終え、10月から第2期が始まります(応募は8月末まで)。

グリーンビジネスを考え行動する「気付き、きっかけ」をもたらすような、これからの暮らしと社会の未来を探る連載。
 〜耕す未来、ダイヤルダイアログ〜は、GBPの、そして私たちの「今」そして「これから」について考え、綴っていく対談です。
初回は、第1期で講師として参加いただいた細野 真悟さんです。講義だけでなく、1期メンバーのメンターとして伴走してくださった細野さん。オフサイト研修で地域まで足を運んだ細野さんから見た、GBPの持つ魅力や可能性についてお聞きしました。

細野 真悟
Good Business Creator・株式会社ローンディール最高戦略責任者
2000年にリクルートに入社しリクナビNEXTの開発、販促、商品企画を経験した後、新規事業開発を担当。2017年から音楽コラボアプリ「nana」を運営するnana musicにCOOとして転職し、2年半で黒字化。現在は企業間レンタル移籍プラットフォームを提供するローンディールのCSOを務めながら、フリーのGood Business Creatorとしても複数のベンチャーの戦略顧問や大企業の新規事業部門のメンタリングを行う。
小田切 裕倫
GBP副代表理事・運営責任者/プログラム設計・株式会社Challite 代表
東京と佐賀県唐津市をベースに、全国へ足を運び「地域、企業、生産者、社会問題(環境を含む)」を掛け合わせて場と物語をデザイン。人と人、人と事業のつながりを生みだす。地域に生まれた人とコトの流れの定着と広がりを目指し、2019年に唐津市で株式会社Challiteを立ち上げ。地域を軸にさまざまな分野の企画実施やプロジェクトに携わる。ビールと音楽がすき。

もう二度と利益を目的にしない、と決めた

小田切さん(以下、小田切):細野さんとは第1期でもゆっくり話すことがなかったので、改めてこういう機会があるのは嬉しいです。まずは「細野さんがどんな人か」から教えてもらえますか。

細野さん(以下、細野):僕の自己紹介ですね。キャリアとしては、長くリクルートで働いていたんですけど、実は新卒で一度落ちています。それで、ずっとやりたいと思っていた教育系、専門学校の生徒募集マーケティングの仕事に進みました。ただ、やってるうちに世の中のスピード感に焦りを感じていたんですよね。

小田切:スピード感、ですか。

細野:そう、教育は本質的なことなんだけれど、世の中がどんどん変わっていくなかで何を教育すべきかも変わっていく。そのスピード感に自分がついていけなくなるのを感じて、新しい領域に関われるリクルートに再応募したんですよ。

小田切:教育の現場に触れてみて「ゆっくり育んでいる場合じゃないぞ」と。

細野:でも、中途採用の門はシステム部門しか空いておらず。「できます!」って嘘ついて入ったから超大変でした。当たり前ですけど実際現場入ってできることもなく、入社後してすぐでメンタルがやられてしまって……だから、税理士になろうと。

小田切:え、税理士?

細野:柔軟に人と仕事することができないと思っていたから、決められたことをコツコツやる仕事にしようと思って。初任給を全部ぶっこんで、土日に専門学校に通って簿記とって……。でも、勉強すれば資格の点数は上がっていくから「あれ、僕がおかしいわけじゃないんだ」と。

小田切:ギリギリで気付けたわけですね。

細野:そうなんです。それで、仕事現場でも復活できた。そこからは「あの状態に戻りたくない」という必死さだけで仕事してきた気がしますね。がむしゃらにやったから底力がついて、駆け登っていくことができた側面もあります。仕事でのワクワクや楽しさは後半になって余裕が出てきてからです。

小田切:そんなキャリアのスタートだったとは、知りませんでした。

細野:しかも、最後もメンタルが不安定になって辞めてるんです。

小田切:えっ、そうなんですか?

細野:いざ経営側になった時に、それまで僕が心血注いで作ってきた商品も、雇っている人間も、経営的な視点では全部ツールになってしまうとわかったんですね。その瞬間に恐いなと思って。僕はこのゲームには乗れないと。

小田切:経営者は、熱い想いの一方で、冷静な状況判断も求められるのが難しいところですね。

細野:その使い分けが僕にはできませんでした。最終的に体を壊しかけて退職という感じで。そこから、株価を上げたり利益を出したりするのが目的化しているビジネスには、もう二度と関わらないって決めたんです。

小田切:強い信念。

細野:それで、会社員時代から副業的に携わっていた株式会社nana musicに転職しました。そこで作っていた音楽アプリ『nana』は、社長自身がどうしても欲しかったものを作ったという、もう収益性とか無視した商品で、まんまと大赤字だったんです(笑)僕自身がアプリのヘビーユーザーだったこともあって、「心からいいなと思うものを持続させるために自分の能力を使いたい」と思って、2年半かけて黒字化しました。持続可能な状態になり、それ以上の利益を出すフェーズになってから離れましたね。

小田切:徹底してますね。その後、CSOを務められている株式会社ローンディールで働き始めた、と。ローンディールは「大企業の人材がベンチャー企業で働くレンタル移籍」をおこなう会社ですよね。そこを選ばれたのは、どうしてだったんです?

細野:会社員時代、『nana』に副業で関わったりしたことで「リクルートの世界って狭いんだな」と気付けたという原体験があります。ローンディールは、その経験を多くの人に提供しようとしていることに感動したんです。しかも、当時は全然儲かってなかったので、「絶対に持続可能な状態にしたい」と思って携わり続けています。

小田切:現在は、フリーの「Good Business Creator」としても活動されていますね。

細野:『nana』もローンディールもそうですが、強いビジョンを持っている人は得てしてビジネス面がうまくないケースがあります。彼らの「世の中を変えたい」とか「こうしたい」という想いを持続可能な状態にするために、僕は力を使いたい。ビジネスとして軌道に乗るところまで、僕が一緒に中に入っていくことを生業にしています。

第1期で感じたのは、地域のもつ絶望と希望

小田切:GBPの第1期にたずさわることになったのは、どのような経緯だったんですか?

細野:同じくリクルート出身の菅原くんが立ち上げた一般社団法人Green innovationの、社会人向けの研修スクール『Green Innovator Academy(以下、GIA)』に講師として声をかけられたのが最初です。その誘いをきっかけに、社会課題に取り組む人にこそビジネス的な考え方や筋力が役立つんじゃないかと思い、参加しました。

小田切:実際に社会課題とビジネスをぶつけてみて、どうでした?

細野:実は消化不良というか、中途半端に終わってしまった気がして。受講者が考えたビジネスアイデアの壁打ち相手として入ったんですけど、数十分の壁打ち程度では「どうしたらいいか」を考えるところまでできなかったんです。

小田切:いや、なかなか難しいですよね……。

細野:だから、自然電力さんが「地域で活躍するプロデューサーを育てるプログラムをやるから」と講師に誘われたときも、正直自信なかったですね。でもお話を聞くうちに、自然電力の本気度が伝わってきて、それなら僕も本気で、と思って参加したのが始まり。

小田切:なるほど。実は、第1期のときから不思議だったんですよね。細野さんは講師なんだけど「もっと関わらないとわからない」と言って、オフサイト研修にも参加してくれて。そんな講師、あんまりいないので(笑)

細野:GIAでは、参加者が考えたアイデアをオンラインで壁打ちするだけの関わりだったから、僕自身が地域課題について何もわかってなかったんです。僕が地域をちゃんと見て、僕自身が提案するアイデアのレベルが群を抜いてない限り、壁打ちする資格なんかないと思ったんですよ。というか、グリーンビジネスっていう未解決問題に対して、僕らの呼び名も「講師」でいいのかなって(笑)

小田切:たしかに、そもそも解決する・させるってことではないですもんね。

細野:そうそう、監督もコーチもいなくて、全員がプレイヤーとしてもがいている感じ。だから、まずは僕自身がプレイヤーとして、社会課題解決をビジネスで提案できるのか試したかったのが、第1期の参加理由。もっと言うと、地域に行って話を聞いて、僕のなかで「なんとかしたい」っていうWILL(意志)が発動するのかも確かめたかったんですよね。

小田切:めちゃくちゃ当事者意識を持って参加してくれてたんですね。実際、オフサイト研修では最後に参加メンバーからの発表があるんですけど、細野さんにはそこでもご自身の発表をしてもらいました。

細野:そうそう、ヘボい案しか出せなかったら壁打ち相手なんて務まらないから、必死でした。メンバーの相談に乗ってる暇なんてなかった(笑)

小田切:実際、地域を見てどう感じました?

細野:まず、香川県三豊市で秘馬さんを見て「ここまでやらないと地域課題をビジネスで解決できないんだ」って圧倒されましたね。いろんなプレイヤーが全力で、あそこまでやって、それでもまだ本当の意味では解決してない。

小田切:そうですね。

細野:いやあ、なんて根深いことなんだ……っていう絶望と、実際にどうにか一矢報いようとする人たちに出会った希望、みたいなものを同時に感じましたね。そりゃ僕がちょっと行って、「解決策これね!」ってできるもんじゃないって、身をもって体感しました。

小田切:秘馬さんはGBPの理事でもあり、本当にパワフルですからね。

細野:それで、次に佐賀県唐津市に行ったら、今度は小田切さんがいて。秘馬さんとはまた違う方法で地域プレイヤーを繋いだり、農作物に付加価値を高めてビジネスにしていたり。「こういうパターンもあるんだ」みたいな発見がたくさんありましたよ。

小田切:各地域で発見がありますよね。逆に、宮城県の東松島市は“復興”をキーワードに下からのプッシュ型だったりします。第2期で、ぜひ細野さんにも見てもらいたいですね。

細野:前回、東松島は行かれなかったけど、みんな「東松島が良かった」って言ってましたよね。なんとなく想像ですけど、東松島には秘馬さんや小田切さんのような人がいないから、「自分でも何かやれるんじゃないか」って隙間を感じてワクワクしたのかなって。僕はまだ未体験なんで、第2期で訪れることができたらいいなと思ってます。

複数の地域に行くことで起こる“巻き戻し”と”葛藤”

小田切:細野さんから見てGBPのユニークなところって何だと思いますか?

細野:「巻き戻し」が起こるのがいいな、と思ったんですよね。

小田切:ほう、巻き戻し?

細野:GBPに応募する人って、もちろん地域課題やグリーンビジネスに関わりたいというWILL(意志)を思っていて、なかには「こういうふうにやりたい」ってHOWのアイディアまで持ってる人もいますよね。それが、GBPを通してWILLの持ち方から見直させられるんですよ。本当に地域のことを考えているのか、もっと視点を引いて状況を見たら本当の課題って何なのか、とか。そういうところまで“巻き戻される”。

小田切:自分が「これだ!」と思っていたものがリセットされる、みたいな。

細野:やりたいことがすでにある人にとって、そこまで巻き戻るのってつらいんですよ。最初は「もうあと実行したいだけなんですけど」って巻き戻ろうとしない。でも、GBPはそれを許さないから、すごい混乱と葛藤が生まれるわけですよね。その混乱と葛藤の末に、視野の広がりがある。

小田切:その巻き戻しが起こるのって、何故なんでしょうね。

細野:一番は、自分に関係のない地域に行くことですね。限られた選択肢のなかから地域を選んでフィールドワークして、地域の人たちの前で課題解決のプレゼンをする。「なんで唐津のことやらないといけないんですか」みたいな葛藤があるはずです。

小田切:実は、説明会でも「取り組みたい地域があるのに、オフサイト研修は他の地域でやる必要があるのか」という質問をもらったりもします。

細野:自分の地域で頑張るための知見や武器を与えてくれるだけのスクールだと思って参加すると、そう思うと思います。ただ「その地域や人が好きだから課題解決したい」という考えだけで進もうとすると、めちゃくちゃ視野が狭くなる。知らない地域をいくつか見比べることで、ようやく地域の問題の本質が見えてくると思うんです。そして、この本質的問題に手を打たない限り、地域課題解決はビジネスにならない。各地域のマニアックな課題だけに取り組んでも、ビジネスとしては小さすぎるんです。

小田切:地域課題の対策って、横展開・量産ができないモデルがほとんどかもしれません。例えば、唐津の「農作物をコスメとして活用する」という「マニアックなネタ」だけを別の地域に移植したとしても、おそらく定着はしないと思います。

細野:だから、複数の地域を見て“抽象度”を上げられるといいですね。一度、本当に解かなきゃいけない課題をちゃんと見据えてから、地域に入って地域の人たちと汗をかいていく。ちゃんと抽象的なゴールを見据えながら、目の前の具体的なことをやっていく。そういう視点と打ち手をセットにした上げ下げが、すごく難しいんだなって思っています。

小田切:本当にそのとおりです。抽象的なゴールが描けていないうちに、やみくもに地域の人たちとネットワークを作っても何も起こらない。地域では、技術的な課題よりも、状況によって自分の見方や関わり方を変えていくことが求められると思っていて、それを細野さんが今、言語化してくれたのはすごく大きなことだと思いますね。

細野:僕がGood Business Creatorとして受講生に提供できるのは、この抽象的な「なぜ三豊や唐津はうまくいく可能性があるのか」を、わかりやすく解説できることですね。それから、ビジネス界のツールや武器をたくさん持っていること。みんなが解決したい課題に対して、具体的なアイディアを提供できるんじゃないかなと思ってます。

小田切:めちゃくちゃ心強いです。視座を変える抽象のところと、具体的なビジネスのやり方、両方の視点で講義を組み立てていきましょう!

GreenBusinessProducersそのものが「壮大なキックオフ」

小田切:細野さんに「第2期も講師を」とメールしたら、即答でOKのお返事をくれましたよね。

細野:うん、2期目も関わりたいなと思ったのは、やっぱり本気度が高いプログラムだと実感したから。GBPって講座を受けて終わりじゃなくて、その後に地域への関わり方が何種類も用意されてますよね。もう魚の頭から尻尾まで全部食べます、みたいな感じで、誰も取りこぼさない(笑)だから、GBP自体が壮大なキックオフなんだよね。

小田切:うわー、壮大なキックオフ!たしかに、そうかも!

細野:視座を上げること、打ち手のパターンを理解すること、それを自分でできるようになること。プログラム期間中に全部やるなんて到底無理です。だから、GBPでできるのは、自分がいかに狭い視野で地域課題を見ていたかを知り、今のレベルじゃ話にならないことに徹底的に気付かされるところまで。そこで「もう無理」って逃げ出すのか、ぐっと歯食いしばって「人生かけてやらなきゃ」ぐらいの覚悟を決めるのか。そこからがスタートですね。

小田切:でも、その場で覚悟が決まらなくても、その後のGBPへの関わり方はいくつもあるっていう……。

細野:そう、普通は逃げ出すルートはないけど、関わりしろはたくさんある。(笑)

小田切:この本気度で続けていったら、GBPは未来に一石投じることができますかね?

細野:きっと10年後には、第2の秘馬さん・第2の小田切さんみたいな人が地域に出てきているはず。GBP第10期くらいになったら、オフサイト研修で行ける活動地域が20カ所ぐらいありそうですよね。解決はしてなくても、うまくいってる地域が出始めたりして、そこに秘馬さんが勉強に行っている……みたいな未来は、あるんじゃないでしょうか。

小田切:まだ第2期ですが、そんな未来に向けて一歩ずつ確実に、ですね。

細野:第2期に関しては、1期生が関われるといいなと思ってるんです。2期生の姿を見て、GBPを受ける前の自分を振り返ることができると思います。また、第1期で訪れた地域にもう一度行って、地域課題が1年でどう変わったか見れるといいんじゃないかな。「あれだけやってこれしか進まないのか」「あの時は秘馬さんに敵わないと思ったけど、案外そうでもないかも」とか。そう思えたら、自分もやれるかもしれないと改めて思えそうです。

小田切:そこは大事ですね。

細野:そして、2期生もまた同じように葛藤や混乱を経ていくんでしょうね。GBPは、卒業生たちが層のように塗り重なって地域課題に挑んでいくスタイル。集団としてだんだん成長していく仕組みだから、やっぱり10年ぐらいかかりそうです。

小田切:かかると思いますね。時代に合わせて、個々が動いていけるといいなと思っています。特に環境問題は、これまでにないスピードでどんどん変化していくと思うので、GBPの講座自体も参加者や状況に合わせて柔軟に動かしていこうかと。細野さんにもキックオフやオフサイト研修に参加してもらいながら、どんな講義がマッチするのか話し合いたいです。

細野:僕自身も第1期でいろいろ理解した上で、2期生との関わり方がどう変わるのかすごく楽しみです。講義や壁打ちのコメントも変わると思います。

小田切:一緒にGBPを盛り上げてもらえること、本当に楽しみです。よろしくお願いします!

ー編集後記ー
細野さんの「地域に関わる仕事において講師なんてものはそもそも存在しない」という言葉にハッとさせられました。また「GBPに関わらせてもらってるっていう感覚」とおっしゃっていただけたことはとても嬉しく感じました。この細野さんのnoteをとおしてGBPに少しでも興味を持っていただけたら幸いです。(ディレクター:おおもり)


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