#連作短編小説
-小説- うたたねのこぼれ種 【3.ヤマモモ】
昨日一日来なかっただけで、店には静寂がしっかりと詰まっている。昨日は、父親の病院への付き添いがあったため、シンは店を休みにしていた。シンは、どこかよそよそしい雰囲気を取り払うように、窓を開け、空気を入れ替えて、テーブルを丁寧に拭いて、店の前の掃き掃除をして回る。
もっとみる-小説- うたたねのこぼれ種【4.ぶどう】
夏の定番となった数々の大型フェスの中、小規模・中規模のフェスもまた勢いを増している。小規模から中規模フェスへの過渡期にある「UNBIRTHDAY FES」から目が離せない。
このフェスを仕掛けるのは、岩瀬(いわせ)アリス。彼女の歌声に励まされてきた人も多いはずだ。
今回のインタビューでは、「UNBIRTHDAY FES」に込めた思いや、魅力について話を聞いた。「UNBIRTHDAY FES」につい
-小説- うたたねのこぼれ種【5.メロン】
UNBIRTHDAY FESのステージで、シンはRound Scapeとしてピアノを弾いた。自分の演奏が明るく響きわたる感覚は久しぶりだった。Round Scapeの音を聞いて笑顔が揺れる景色は忘れられない。
ぴったりとくるものは見ればわかる。亮と若葉が並ぶ姿を見て、シンは一歩踏み出すことができた。今となっては、不器用でまっすぐな二人をそばで見ているのが楽しいとすら感じている。
-小説- うたたねのこぼれ種【6.りんご】
俺は、バンドを始めることにした。
暇そうにしていた大介(だいすけ)、光樹(こうき)、拓海(たくみ)を誘ってみたら、意外にもあっさりOKしてくれた。それから、音楽のことがわかる奴もいた方がいいと思って、ほとんど喋ったことはないが、中学の時に吹奏楽部でトランペットをしていた聡(さとる)にも声をかけると、「僕でよければ」という控えめな言葉と共に入ってくれた。
-小説- うたたねのこぼれ種【7.桃】
「店、ここやで」
「ここか。例のウーロン茶のうまい店は」
大介の後に続いて亮が「居酒屋 ぐるり」と書かれたのれんをくぐると、威勢のいい声が響いた。
「いらっしゃい。おー、来たな、亮」
「おい、拓海か。ここで働いてんのか」
「俺の店や。店長さんやで」
続いて、カウンターに座る客が亮に声をかけた。
「亮、久しぶり。俺らわかるか?」
「おー、光樹と聡や。久しぶりやな」
-小説- うたたねのこぼれ種【9.あんず】
「はじめまして」
「はじめまして。ニーナデザインの新野彩と申します。よろしくお願いします」
「佐久間創(さくまつくる)です。よろしくお願いします」
お互いに名刺を受け取ると、その文字を見てはっとした。