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物語「GreatesT’rip Jum”V”oyage」17-1 okujyou jum'v'oyage『急』(玖)


前回 GTJVー16-3

学園祭が近づいている。クラスのグループを問わず、大半の人たちが少しうわついている。

フツーな彼らも、木人たちも。こういうことに興味無さそうな外人部隊も、なんちゃって不良な彼らも。ワクワク感、というのが多分一番近いのだろう。

 なのになぜ、わたしの心は晴れないんだ。

 モヤモヤが続く、それもてんとう虫に乗っていた頃のそれとは、明らかに違う感じのものだ。どうにかしなければ、と思う。そのためにしなければいけないことも、分かっている。なのに。

 昼休みになってすぐ、明るく支配的な声が響く。

「都倉ちゃん、リハするよ! 今日もよろしく!」

 コジカさんが遠くまで通るクリアな声で、わたしを指名した。リハーサルっていっても、お化け屋敷のセットの中で、予行練習するだけなんだけれど。セットも完成してないし.。まあ、その辺りはフツーの人たちや木人たちの混成チームでやっているみたい。

 この企画は、良く言えば多様でのどか、悪く言えば都会の学校の割にあか抜けない、クラスの雰囲気を変えた。参加者は、コジカさんたち小動物楽団やフツーの彼らだけじゃない。なんちゃって不良グループやギャルっぽい外人部隊や木人樹海の半数を越えた。

もちろん学年の学習発表や、部活や他のクラスの出し物と掛け持ちしている人たちも多い。元々祭り関係に興味なくて、何もしない人も多少はいるけれど、参加しない人たちも、『グループの中では』のレベル。完全に孤立は、していない。

 わたしはといえば、結局孤高の一匹狼や才媛を演じられていない。要は、断る勇気がなかった、ということだ。

「わかった。先に行っててね

 急ぐから、の[そ]と[ぐ]の間で誰かがわたしの手をつかんだ。

「都倉さんごめん、10分だけちょうだい、一緒に来て!」いきなり走り出す。 

 手をつかんだのは、アザラシA、だった。あっけにとられたようなコジカさんに、声が飛ぶ。

「悪いコジ、マ、さん。都倉さん借りる!」廊下を走り出した。

「え、ええ、ちょっと、どこに、行くの」息継ぎの合間に聞くのがやっとだ。

「いいから!」廊下に響いた声が過ぎ去っていく。

 教室の階段を下りる、2階の子供っぽいにぎやかさを振り払うように、Aは走る、わたしを引きずるように。

 かつて、破れかぶれの時に通ったのと同じ道を通っている。もしかして。

 1階をわたしたちが走る、もうすぐ玄関だ。やっぱりそこに向かうのか。でも、Aみたいな他の人を巻き込んでいいのか、なんて考えていたら。

 ぐいっ。Aは玄関とは違う方向に手を引っ張った。階段を一段抜かしで上りながら、

少しテンションの高い声で語る。

「都倉さん、屋上で会ってた人の正体が分かった、案内する!」

「いや、それは別に」わたしが望んでいることじゃ。

「いいか悪いかはあとでわかるよ!」

 階段を2階分上ると、そこは教室だった。同じフロアのレイアウトなのに何となく大人、落ち着いたような雰囲気。

 そこは高等部の教室の入口だった。Aがちょっと緊張した声で言う。

「失礼します。城戸先輩いらっしゃいますか?」

 声に答えたのはやさしそうだが実にマイペースっぽい先輩。ようこそー、ちょっと待っててねー、といって、やわらかそうな濃い茶の長い髪を揺らしながら教室に入っていった。

 しきー、かわいい後輩が来てるみたいだけどー、という声に続いて、その人が現れた。

「お待たせ、ああ、誰かと思ったら」

 ちゃん付けでAの名前を呼ぶ。同学年ではねーさんと呼ばれているAも、やはり実年齢の先輩の前では、きちんと後輩しているみたいだ。

「こんにちは。わざわざ来てくれたってことは、何か大事なお話かな?」

 その人はやさしく、でも先輩らしい落ち着きと余裕とともに聞いて来た。

 きれいな人だ。すらっとした感じ、背はわたしよりも10㎝くらい高く、手足も長い。顔立ちも、目は大きくくっきり、鼻は小さいけれどうざくない程度に高く、賢くクールそうなイメージを与えそうだ。でも今、アザラシAとEことわたしを見つめる笑顔は、そこにおおらかさと優しさが加わったもの。

「先輩、急にすみません。私の友達、ここにいる都倉さんが、先輩に言いたいことがあるらしくて。都倉さん、ほら」

 Aの中ではハッピーエンドが見えているんだろう。気になっていた人が、実はあこがれの先輩だった、二人は学年の間をこえて親しい仲に、っていう感じ。ありきたりだけれど、嫌な展開ではない。

 実際、城戸先輩はきっといい人だ。何事もきっちりしてそうだけれど、後輩には多分おおらかで、面倒見も適度に良さそうな感じ。アザラシAが年の近いすぐ上のお姉さんだとすれば、城戸先輩は4つくらい年の離れた、一番上のお姉さん、だ。

 Aの読みは完璧なはずだった。

 そう、先輩の髪型が、肩まで届かないボーイッシュなショートでなかったなら。

「このひと、じゃない」

 つぶやくように言った。言葉がこぼれ出た、って表現の方が近いのかもしれない。

「え? 都倉さん、何?」 

 Aは状況をつかめていなかった。まあ、仕方ないよね。

「ごめん、城戸先輩はわたしが探してたシキとは別人なの。でもありがとう。とても嬉しかった」

 そういうと、わたしはシキ先輩の方に向き直って言った。

「先輩、お手数かけて本当にすみません」

 そして、Aが自分を気遣ってくれてのことだから、あまり怒らないでほしいと伝え、深々と一礼した。

友達思いな彼女の方は、今まで見たこともないようなうろたえぶりだ。え、え、都倉さんの言ってたシキさんって、城戸先輩じゃ、じゃない、の? まさか?

 その横で、ああそんな感じね、うんうん、となにも説明していないのにうなづいていたのは、城戸先輩だった。

「残念だけど、私はあなたが探していた人じゃないみたいだね。お役に立てずごめんなさい。そして安心して。大事な後輩をこんなことで責めたりしないから」

 ということでそれじゃ、とAに言って、教室に帰ろうとする城戸先輩。 

「あ、あの、先輩!」

「何? えーと、確かトクラさんって言ったっけ」

 都倉が漢字ではなくカタカナの響き。ドーデモ優柔不断ブレスト男と同じそれなのが気に入らないが、まあ仕方がない。

「城戸先輩の名前の、シキは、どういう字でどういう意味ですか」

 何なのその質問、と、ようやく我にかえったアザラシAからひじをつつかれる。それを楽しそうに見たあと、先輩は答えた。

「織物のオリって言う字を無理矢理読んでる。いろいろな人や出来事を、織物を織るようにきれいにつなげなさい、って意味、かな。あんまり深く考えたことないけど」

 深く考えたことがない割に、先輩はスラスラと質問に答えてくれた。『おはよう』や『いただきます』を言うみたいに。

 きっと今までに名前の事を深く考えること、少なくともそのきっかけとなる何かがあったんだと思う。そうでないとそもそも答えられない、はずだ。やっぱり相性は悪くないんだろう。

 でも今、会いたい人は、一人だ。

 名前について聞きたいとか、質問をしたいとかあるけれどそんなことよりただ会いたい。

「ありがとうございました。素敵な名前ですね。それじゃ失礼します」

 わたしはまた深く一礼して、下り階段を走り出した。ちょっと、都倉さん、と呼ぶ声がするのが分かっていた、けど振り向かなかった。



「本当にすみません。せっかく相談に乗ってもらってたのに」

 アザラシAはしょんぼりした声で城戸先輩に謝った。

「いいのいいの、君はいつも頑張りすぎなんだから。このくらいの頼み事は大丈夫。にしてもトクラさんだっけ、話には聞いてたけど、結構おもしろい子だね」

「そうなんです。何か物知りだったり、逆に誰でも知ってることに疎かったり。びしっと物事を言う時もあれば何考えてるのか分からない時とか。急にコンタクトレンズつけてきたり、変なところもありますけど。

でも、友達です」

 ふうんそっか、またよろしくね、ととりあえずの返事をしながら、〈シキ先輩〉はわたしが走っていった方向を見た。

(ふうん?)

 先輩には何か思うことがあるみたいだったけれど、今それは解決しない。

この後別の話につながるのだけれど、だいぶ先のエピソード。そもそもこのやりとり自体を知ったのも、ずっと後になってからのことで。



かん、かん、かん。階段をいつもより早いペースで上りながら、わたしはシキのことを考えていた。

 まず何を話すのか、この間言われた通りトクラさんとの再会の結果報告をするのは気に食わない。かといって聞かれたから答えるのもイヤだ。出来ればシキの名前、そうだ。

シキ自身は自分の名前のことを、どう思っているのだろう。

 まずそれから聞こう、そう思ったのと同じタイミングで屋上についた。

 さああ、と緩やかな風が吹いている。暖かくやさしく、乾いて軽やかな秋の風。

その向こうに、二つの違う感覚があった。

 ひとつはほんの少しの湿り気。本当にかすかだけれど、少しずつ雨雲が近づいているのかもしれない。もうひとつは暖かさの裏にあるわずかな冬の冷気。秋の終わり、陽気はこれからほんの少しずつ、涼しさのかわりに寒さを含んていくようになる、はず。

 こんなこと数々を思ったのは、屋上で何が起きているのか整理するためなのだろう。

 屋上にシキはいなかった。

 正確に言うとシキはいなかったけど、カバンが屋上の中央に置かれていた。カバンに近づいてみたけれど、前に見たシキのものだ、間違いない。カバンには特に変なところはない、革製のカバン兼武器。

 ふと思ったことがある。

 この間カバンの中身が外に散らばったとき、なぜ、シキはあわてたんだろう。カバン自体だけじゃなく、中身も気にしたのは? 見られてはいけない物でも入っていたのか。

 答えは分からない。

 分かっているのは答えが、私の足元にあるかばんの中にあるだろう、ということだけ。

 何気なく、本当に中身を見ようとかは考えずに、カバンをつかんだ。

 ばちん、ばらばら。

 この間と同じようにカバンの留め金が外れ、中のものが転がった。またかよ。

ため息をつきながら、参考書やペンケースを拾おうとした時、開かれているメモ帳が視界に入った。

 もう一度だけ、いや誤解されるのなら何度でも言うけれど、見るつもりはなかったのだ。

 メモ帳には、びっしりと文章が書かれていた。

(17-2に続きます)

NEXT: 完全版Full Stories ↓ 屋上版だけOn Rooftop Edition only↓↓

The school festival is approaching. Most people, regardless of class groups, are a bit buzzed.

The ordinary people, the tree people, the gaijin who don't seem to be interested in this kind of thing, and the just plain delinquents. The gaijin troop, who don't seem to be interested in this kind of thing, and the just plain delinquents, too. Excitement is probably the closest I can get to it.
 But why doesn't my heart feel better?
 The buzzing persists, and it's a distinctly different feeling than the one I had when I was on Ladybug. I have to do something about it. I know what I have to do for this. And yet.
 Just after lunchtime, a bright, dominant voice echoes.
I'm going to rehearse, Tokura-chan! Have a great day!"
 Kojika-san nominated me with a clear voice that could be heard far and wide. Rehearsal is just a rehearsal in the set of the haunted house. The set wasn't even finished. Well, it seems that the area is a mixed team of Hutu people and Kijin people.
 This project changed the atmosphere of the class, which was at best diverse and tranquil, and at worst, unrefined for an urban school. The participants were not only Kojika-san, his little animal band, and the ordinary people. We have gone over half of the fake delinquent groups, the girly gaijin squads, and the tree-huggers.
Of course, there are many people who are also involved in the school year's study presentations, club activities, and other classes' performances. There are a few people who are not interested in the festival and do nothing, but even those who do not participate are at the "in-group" level. We were not completely isolated.
 As for me, I could not play the role of a lone loner or a brilliant woman after all. In short, they didn't have the courage to say no.
I'll go ahead of you. Someone grabbed my hand between [so] and [gu] of "Go ahead, I'm in a hurry.

I'm sorry, Ms. Tokura, give me ten minutes, come with me! Suddenly, I started to run. 

 It was Seal A, who grabbed my hand. Someone grabbed my hand between [so] and [gu] and said, "Okay.
Sorry, Koji, ma'am. I borrow Mr. Tokura! He ran down the hallway.
I could barely hear him between gasps for air.
It's okay!" The voice echoing down the hallway passes.
 A runs, dragging me, as if to shake off the childish bustle of the second floor, down the classroom stairs.
 I'm taking the same path I once took when I was a broke man. I could be.
 We run down the first floor, almost to the front door. I knew that's where I was headed. But then I wondered if I should drag someone else like A into this.
 With a jerk, A pulled my hand in a different direction from the entrance. I said in a slightly excited voice as we climbed the stairs, passing one step at a time.
Mr. Tokura, I know who you met on the rooftop, I'll show you!
No, that's not what I want.
You'll find out later if it's okay or not!"
 Two flights of stairs later, we found ourselves in a classroom. The layout of the same floor, but the atmosphere was somehow more mature and relaxed.
 It was the entrance to the high school classroom, A said in a nervous voice.
I'm sorry to interrupt. Is Kido-senpai here?"
 The voice was answered by a kindly, but very fast-paced senior. Welcome, wait a minute," she said, entering the classroom with her long, soft, dark brown hair swinging.
 A's voice was a little nervous. "Shiki-chan, there seems to be a cute junior here," he said, followed by the appearance of a person.
The first thing that comes to mind is the name "A", which is called "Chan-chan" in Japanese. A, who is called "Nee-san" by her peers, is still a proper junior in front of her real age senpai.
Hello. Since you came all the way here, do you have something important to tell me?"
 The person asked gently, but with the calmness and composure of a senior.
 She is a beautiful person. The actual first thing you need to do is to make sure that you have the right tools to get the job done. The face is also very attractive, with large, clear eyes and a small but not obnoxiously high nose, giving the impression of a smart and cool person. But the smile on his face as he looked at me, seal A, seal E, and myself, was a combination of generosity and gentleness.
I am sorry for the suddenness of this conversation. My friend, Ms. Tokura here, has something she wants to say to her senpai. The happy ending is probably in sight in A's mind. The person she was interested in was in fact a senior whom she admired, and the two became close friends beyond their grade level. It's a common but not unpleasant development.
 In fact, I am sure Kido-senpai is a good person. He seems to be very strict about everything, but he is probably very generous to his juniors and seems to be reasonably good at taking care of them. If seal A is the older sister, then Kido senior is the oldest sister, about four years older than her.
 A's reading should have been perfect.
 Yes, if it weren't for his short, boyish, shoulder-length haircut.
He's not this person," he said mumblingly. Perhaps "words spilled out" is a better way to describe her.
What? Mr. Tokura, what?" 
 A had no grasp of the situation. Well, it can't be helped, can it?
I'm sorry, Kido-senpai is not the same person as the Shiki I was looking for. The first thing to do is to find the right person to help you.
I told her not to be too angry because A was concerned about her, and bowed deeply.
She, who is a friend to me, was more upset than I've ever seen her before.  I'm not sure.

'I'm sorry, but it seems I'm not the one you were looking for. I'm sorry I couldn't help you. And don't worry.  
Oh, um, senpai!
What? Let's see, I believe I said Tokura-san," Tokura sounds in katakana, not kanji. I don't like the fact that it's the same it as the dodemo indecisive breast man, but well, it can't be helped.
After looking at it with amusement, senpai replied.
'I'm forcing myself to read the character for weaver's ori. The most important thing to remember is that the name "Tokura" is not in kanji but in katakana, which means "to connect various people and events together in a beautiful way like weaving fabric.
 I am sure that by now he must have thought deeply about his name, or at least had something that triggered it. Otherwise, I would not have been able to answer the question in the first place. I guess we are not incompatible with each other after all.
 But now, the person I want to meet is one.
 I want to ask about names, I want to ask questions, but more than that, I just want to meet him.
Thank you very much. It's a lovely name, isn't it? I bowed deeply again and started running down the stairs. I knew I heard a voice calling out, "Hey, Mr. Tokura," but I didn't turn around.

I'm really sorry.

I know you're always trying too hard. I'm sure I can handle this kind of request. You're always trying too hard. You're also a little weird, like wearing contact lenses all of a sudden, but we're friends.
The actual "I'm not a fan of the way you do it," he said, "but I'm not a fan of the way you do it.
(I'm not sure what to expect.)
 It seemed that he had something on his mind, but that is not resolved now.
This is an episode that will lead to another story later on, but that is a long way off. I didn't even know about this exchange until much later on.

 The first thing to do is to make sure that you have a good idea of what you're doing.
 As I climbed the stairs at a faster pace than usual, I was thinking about Shiki.
 First of all, I don't like the idea of reporting the result of the reunion with Tokura-san, as I was told the other day. But I didn't want to answer the question because I was asked. I would have liked to know Siki's name, yes, I would have liked to know his name.
I wondered what Shiki himself thought about my name.
 I arrived at the rooftop at the same time I thought, "I'll ask him first.
 Come on, a gentle breeze is blowing. The autumn wind was warm and gentle, dry and light.
Beyond that, there were two different sensations.
 One was a slight dampness. I was on the rooftop at the same time I thought, "Let's hear it first." It was really faint, but maybe the rain clouds were slowly approaching. The other was a slight winter chill behind the warmth. It was the end of autumn, and the weather would gradually become colder instead of cooler.
 The reason I was thinking about all this was probably to sort out what was happening on the rooftop.
 There was no Siki on the roof.
 To be precise, Shiki was not there, but his bag was placed in the center of the rooftop. I got closer to the bag, but it was definitely the same shiki I had seen before. There is nothing strange about the bag, a leather bag and weapon.
 A thought occurred to me.
 Why did Shiki panic the other day when the contents of the bag were scattered outside? What did I notice about the contents of the bag as well as the bag itself? Was there something in it that was not supposed to be seen?
 I don't know the answer.
 All I know is that the answer would be in the bag at my feet.
 Casually, without really thinking about looking at the contents, he grabbed the bag.
 Ding, ding, ding.
 Just like the other day, the clasp of the bag came undone and what was inside rolled away. Again.
Sighing, I was about to pick up my reference books and pen case when an open notepad came into view.
 One more time, and I'll say this again and again if it can be misunderstood, I did not intend to look.
 The notepad was filled with sentences.

(Writter:No.4 ヤヤツカ Photo:No.5 ハルナツ Auful translation:Deep L & No.0)

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