カルダシェフスケールから紐解く人類文明の未来
起業家やエンジニア、SF愛好家といった方々にとって未来予想は常に関心の対象ではないかと思う。
斯くいう私もその1人であることは言うまでもない。
テクノロジー、カルチャー、社会システム、自然環境など幅広い領域の未来予想は私の心を動かし、希望を与え、使命感を与えてくれる。
そして、あらゆる未来予想が収束する先にある究極のテーマが存在する。
それは文明の未来である。
私の人生にとって文明の未来は最大の関心事であると同時に、最重要な使命を与えてくれるトピックなのだ。
今回は文明の未来について考えをまとめることにした。
宇宙文明という視点
文明というテーマを扱うに当たって今一度、視点を合わせておきたい。
人生において文明という言葉を使う機会は多くないのではないかと思う。中高生時代の歴史の授業で出てきた世界四大文明が最も使用されているタイミングなのではなかろうか。
古代文明も文明であることは否めないが、私は文明の未来を論じるために宇宙文明という尺度を用いることを提案する。
具体的にはロシアの天文学者であるニコライ・カルダシェフが提唱したカルダシェフスケールのことである。
カルダシェフスケールとは文明の発展度を測る尺度であり、文明が利用できるエネルギーの総量によって大きく3タイプ(近年は5タイプまで拡大)に分けるフレームワークである。特にSETI(地球外知的生命体探査)を論じる際に用いられる地球外文明の数を求めるドレイクの方程式と肩を並べる枠組みである。ドレイクの方程式については別の機会に深堀したい。
ここからはカルダシェフスケールについて解説する。
1964年、ニコライ・カルダシェフは文明をエネルギーとテクノロジーの2つの要素に依存していると考えた。また、テクノロジーの進歩は文明が制御できるエネルギー量に比例していると理論を構築した。このロジックに基づいて考案したモデルがカルダシェフスケールである。
先述した通りカルダシェフスケールは文明の利用可能なエネルギーの総量に焦点を当てている。加えて文明の活動領域とテクノロジーの発展度も垣間見ることができる。
先ずは定義からみてみよう。
カルダシェフスケールは以下のシンプルな式で表わされる。
Kはカルダシェフスケール(文明レベル)を表し、Pは文明が操作できるエネルギーの総量である。
この式から導き出される値により文明のタイプが確定する。
タイプ1文明:10 ^ 16 Wものエネルギーを出力可能な文明。文明が誕生した故郷の惑星のエネルギーを余すことなく利用することができる。文明圏は故郷の惑星全体もしくは同じ恒星系の複数の惑星に及んでいるかもしれない。惑星から得られるリソースを基盤とするタイプ1文明は惑星文明と定義できる。
タイプ2文明:10 ^ 26 Wのエネルギーを利用することができる文明。*ダイソン球の様な大規模構造物を広範囲に建造し、恒星のエネルギーを巧みに使いこなすこの様な文明は恒星文明と呼べるであろう。故郷周辺の異なる恒星系に到達するテクノロジーレベルに達していることが想定される。
*ダイソン球:宇宙物理学者フリーマン・ダイソンが提唱した恒星のエネルギーを全て利用可能にするために恒星全体を殻の様に覆う巨大構造物。
タイプ3文明:10 ^ 36 Wのエネルギーを操ることができる文明。タイプ3文明は我々人類が築き上げた文明に比べて10〜100万年進んでいると考えられる強大な文明である。銀河の隅々まで文明は波及し、数千億の星々からエネルギーを抽出している。自在に銀河内を移動することができ、周辺の銀河にも文明の痕跡が確認できるかもしれない。エネルギー、テクノロジー、文明圏の観点から銀河文明と呼ぶに値する。
タイプ4文明:10 ^ 46 Wに及ぶエネルギーをブラックホールや中性子星、ダークエネルギーを含む宇宙のあらゆる領域から抽出できるタイプ4文明は宇宙文明と言って差し支えない。この文明は人類の想像すら及ばない高度なテクノロジーによって成り立ち、並行宇宙の行き来やエントロピーの逆行すら成し遂げているかもしれない。
ここまでカルダシェフスケールで定義されているタイプ1~4の文明について簡単に解説した。より高度なタイプ5文明はここでは割愛する。
カルダシェフスケールにおける各タイプの文明間のレベルには大きなギャップがあり、カルダシェフスケールの数が1異なる文明を並べることは人間社会とアリのコロニーを比べる様なものである。
そして、今日の人類文明はカルダシェフスケールで表すと0.73ほどとされている。何を言いたいのかと言うと宇宙基準では我々人類文明は極めて未熟な文明であると言うことだ。
人類文明の未来
人類文明:K(カルダシェフスケール)=0.73。
この事を知る前と後で私の世界の見え方は劇的に変わった。
天をも貫くドバイのブルジュ・ハリファに長江の水流を制御する三峡ダム、見渡す限りの人工物が続く関東平野、アントロポセン(人新世)を代表する巨大構造物に圧倒されてきた私は人類文明は高度に発展を遂げた成熟した文明であると錯覚していたことに気付かされたのだ。
人類文明はまだ発展の序章に過ぎない。
ここからはカルダシェフスケールを人類文明に落とし込んでいく。
タイプ0.73文明である我々がまず目指すべき水準はタイプ1文明である。
科学者の見解では100〜200年以内にタイプ1文明に到達するとしている。
ただし、待つだけでタイプ1文明に発展することはない。
カルダシェフスケールの尺度となる使用可能なエネルギーレベルを何段階か上昇させる必要があるのだ。当然現在のエネルギー生産手段は変更せざるを得ない。
現状想定される有力候補は2つ。核融合発電と宇宙太陽光発電だ。
どちらの方法も技術、財源、政治的ハードルは非常に高い。しかしながら先進的な地球市民たちはこのハードルを超える力があると私は確信している。
先進的な地球市民に成るにはまずは多くを知る必要がある。科学技術、自然環境、人間社会など多岐に渡る知識は理性を養い、より長期的目線を手に入れることに繋がると考えている。
知識を得た者は是非自身の思考を理論化し、周りの人々と共有して欲しい。自身の理論に客観性、実現可能性、公正さが加わることだろう。同時に周りの人々の理論にも耳を傾けて欲しい。今より少しでも他人に関心を寄せる事が自身にとって長期的な力となるだろう。このような活動が社会共通の価値観を形成する助けとなる。共通の価値観の形成こそが奇跡の様な成果をもたらす第一歩であると考えている。
現在広まっている人類共通の価値観はいくつもある。オリンピック、基軸通貨、世界宗教などがそれに当たる。共通の価値観は時と場合によって良い振る舞いをすることもあれば、悪い結果を残すこともあることは歴史を振り返ると想像がつく。しかし理性的で未来志向かつ精神的豊かさを追求する共通の価値観から生じるムーヴメントはタイプ1文明に到達する必須要素であると信じている。
代表的な未来志向の共通の価値観を挙げさせてもらうと、*SDGsや*シンギュラリティといったものだ。未来志向の価値観がより多くの人々の共通の価値観となった時、世界は大きく変化を始めることだろう。そして実際に変化を起こすには信じた価値観に基づいて行動するのみである。
*SDGs:2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標。
*シンギュラリティ:人工知能研究の世界的権威レイ・カーツワイルが提唱した人工知能が人類の知能を超える特異点。その後の世界は人間の想像が及ばないほど劇的な変化が訪れるとされる。
多くの先進的な地球市民が誕生し、タイプ1文明に必要なエネルギーを生み出すテクノロジー開発が共通の価値観となった世界を想像してみてほしい。
文明の発展は加速し、多くのエネルギー供給を受ける人間社会はより豊かとなる。達成までの道のりは簡単なものではないかもしれないが取り組む価値はあると思わないだろうか?
ここまでの話はタイプ1文明までの道のりに必要だと私が考えている簡易的なエッセンスを並べたに過ぎない。更に先にあるタイプ2文明を見据えた場合、多くの人々の知識と知恵、ムーヴメント、そして行動を起こす必要がある。
タイプ2文明を見据えた価値観の共有
文明のアップグレードを加速する
人類の文明がタイプ2文明へ到達するまで数千年かかるとされている。人生を超えるタイムスケールであるが故に、現在までタイプ2文明を見据えた計画を立てている人に私は出会ったことがない。存在したとしても今の世界では非常にマイナーな存在であることは間違いないだろう。難しい取り組みかもしれないが、私は人類文明を最低でもタイプ2文明へ上昇させることを人生の使命とした。そのために私自身も先ずは先進的な地球市民と名乗れる様により多くの人々に「文明のアップグレードを加速する」という価値観を共通の価値観にすべく共有する日々を送っている。この場を借りて最後に私のこれからの行動計画と描いている未来を共有させていただきたい。
お気づきかもしれないが私の思想や行動の根元はSF(サイエンスフィクション)から大きく影響を受けている。大そうな話ではないのだが私の物語はSFの世界に魅了されたことから始まった。そして成長と共にいつしかSFをエンターテイメントとしてではなく、現実のものにしたいと強く願う様になった。大学生になった私はカルダシェフスケールと出会い、私が夢見た世界は人類の文明が少なくともタイプ2文明へ到達した世界であると解釈したのだ。その後、私はタイプ2文明を目指すために人生の計画を立てた。
結論から言うと私の人生の終着点は人類文明をタイプ2文明へアップグレードさせるための財団を創設して運営することである。誠に残念ではあるが人間の寿命から私が見ることができる世界はタイプ1文明までが現実的だ。命尽きるまでに文明を継続して発展させる団体を作り、死後も意思を継承して人類の発展を滞りなく進めることを願っている。
財団創設までの私の人生計画は大きく2つの軸から成り立つ。1つ目は私の価値観を共有することでより多くの人を*エンロールしてイノベーションを起こす仲間を増やすこと、2つ目はプレイヤーとしてイノベーションを起こし続けることである。
*エンロールメント:巻き込むという意味の英語。ただしここでは生き方や在り方を周りの人に共有し、インスピレーションやパッションを与えて、共有された人の生き方を変えるキッカケを作る事を表す。
1つ目は言うまでもなく私の価値観を共有し、より多くの人と共通の価値観を形成してムーヴメントを起こすことだ。その過程で未来学教育やイノベイター(革新者)の育成活動を展開していく予定だ。社会課題や環境問題に向き合う者、イノベーションを起こすミレニアルズとZ世代、そしてその次の世代と支援者と共により良い世界を創造する。
2つ目はシリアルアントレプレナーとして私自身がイノベーションを起こしてテクノロジーを社会にインストールすることだ。千の言葉より一の行動で示すことの方が説得力があると私は考えている。まだスタートラインにすら立っていない未熟者である私がいくら言葉を並べても意味は無いのかもしれないが、宣誓を込めてここに記している。
私は現在日本人のお金に関して新たなカルチャーを根付かせるべくFintechスタートアップを立ち上げたところだ。この先30年で少なくとも3つの*SFプロトタイピングプロダクトを含めた新規事業を計画している。具体的にはバイオロボティクス、軌道エレベーター、核融合といった分野に私は関心を寄せている。
*SFプロトタイピング:サイエンスフィクションから着想を得たコンセプトを逆算して社会実装する手法。
計画通りに事が進めば私が還暦を迎える頃には財団が機能し始めていることだろう。財団は主に未来学的次世代イノベイターの育成プロジェクトとSFプロトタイピング事業への投資ファンドで構成される。そして当分の間はタイプ1文明を目指すはずだ。さらにその先の未来について簡単に触れておくと、タイプ1文明からタイプ2文明へ移行するに当たって人類はステラーエンジニアリング(恒星工学)の技術開発や反物質の利用を始め、活動範囲はプロキシマ・ケンタウリ星系やバーナードスター星系まで拡大するかもしれない。
不確実な遠未来を予想することは難しいが、計画を立てることはできる。
そこで私はその時代に実行する計画を提案したい。
ヘリオテクノスフィア(太陽人類圏)構想だ。ヘリオポーズを越え、オールトの雲の一部も含んだ太陽圏で人類文明のテクノロジーを波及させ、各地に様々な目的で利用可能なプラットフォームを構築し、宇宙空間を含めたテラフォーミング領域を拡大していく構想だ。
太陽圏の図。氷や岩石で構成されているとされるオールトの雲のリソースを使用することで太陽系外天体を目指す際の前哨基地を建てられるかもしれない。
これらが私の行動計画と描いている未来のあらましである。
今回、初めて共通の価値観に昇格する未来を見据えて私の価値観を文字にした。文章に共感し、共通の想いや価値観を持った同志と巡り会えることを期待している。
いつの時代もたった1人の意志から物語は始まる。
誰もが物語の主人公になれるのだ。
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