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GRアワード受賞事例を深堀り!先進事例から学ぶ、良質で戦略的な官民連携の要諦

今回の勉強会では、2021年12月に開催した日本GRサミット2021」で発表したGRアワード受賞事例について、日本GR協会として学んだポイントを紹介します。

日本GR協会 代表理事の吉田 雄人(前 横須賀市長)と、日本GR協会の事務局として官民連携事例の研究を進めているGRオフィサーの中村 潤平と平澤野安を中心に、官民連携のさまざまな切り口から先進事例を深堀りを行います。

●GRアワードの取り組み

今回、GRサミットでは、2事例の表彰をさせていただきました。日本GR協会設立目的である、「広める」、「学べる」、「繋がれる」に資する取り組みとして、開催に至りました。

選定のプロセス

多彩な経歴を持つ事務局メンバーがそれぞれの視点でアワードにふさわしいと考える事例を収集。その数54事例

54事例について、事務局メンバーで採点、評価などのスクリーニングを行い、8事例

弊協会理事を中心に、2事例の表彰事例を決定
最優秀事例 深谷市

優秀事例 八王子市

サミットの様子(動画)

5つの基準により事例を評価

1.地域課題解決に資するか
2.イノベーション
3.三方良し 管、民、住民の困りごと解決
4.持続性・継続性 
5.再現性 ※どの地域でも模倣できるものを高評価に

●最優秀事例 深谷市事例について深堀り!!

深谷市は、埼玉県北部に位置する市で、人口14万人、農業に強みを持ち、深谷ねぎなどが有名、渋沢栄一の生まれたところとしても有名。

市の課題感として、人口推計によると、40年後は人口が10万人を下回る予測もある。他の地域でも、スケールは違えど同じような課題感を持っているものと思われます。

課題としては、成長技術革新の企業が少なく、波及効果の高い企業を求めている。

特性として、農業、食品加工業に強みがある。

農業、食品加工業に強みがあることを活かし、ディープバレー構想を立ち上げ、「アグリテックの集積」、「ベジタブルテーマパーク」、「地域通貨negi」の3つの柱を戦略的すすめる。

プロジェクト推進のポイントとして、

●官が目指すビジョンを明確にする
●みんなで一緒になってネットワークを作っていく
●とにかく現場に行く、泥まみれになって実際にやっていく

農業、深谷ねぎという、得意なもの、強みがあり、差別化という意味で自分たちの強みに注力した点が、印象に残る事例です。

ビジョンがはっきりしている

(吉田)深谷市のすごかった点は、ビジョンがはっきりしているところ。

「人口減の中で、税収が不足していく、そのために産業振興を行うことによって、自主財源を作っていかないといけない。産業振興をするし、深谷市は、その中で農業が資源としてあるので、それを活用していく」

というそういったビジョンが共有されていたというのが一番のポイントになるのではないかな。

9個のポイントの中に「実現したいビジョンを明確に示す」がみんなが共有できていたということが特出するべきところじゃないかなって思っています。

(平澤)ビジョンとかメッセージと言うところですね、私も初めてお聞きして、話がストレートに入ってくる、関係人口というか関わる人に響いていく。

お二人から共通として、ビジョンとかメッセージというポイントとして出てきましたね。


アジャイル型に進んで行く

(平澤)スライドに、1つだけ官民共通して書いてある項目がありまして、アジャイル型に進行していく、これはどういうことなんでしょうか?

(中村)アジャイル型に関しては、スタートアップのみなさんが、自分たちの技術を使って農業振興していきたいという認識はお持ちだと思うですが、農作物の取れるタイミングだとか、農家の皆さんの顔ぶれを深谷市の職員さんが知ってますから、お役に立てるかどうかを1on1で、やっていくというのが、話を伺っていくところで、そこはいわいるウォーターフォール型の開発のように、しっかりとした計画を立てていくのではなくて、その場その場で対応していくのがアジャイルのポイントかなと思います。

(吉田)あと、アジャイルの話ではなかったんですが、「コンサルはいらない」という話があって、私もコンサルティング会社で働いていたこともあったんですが、その話の真意としては、現場に一緒に入ってくれる方がいたから良かったんだと言う話。当然現場に入れば、机の上では見てられない、ネット上では転がってないような、リアルな課題感というのが見えてきて、その課題に対して、どう向き合っていくのかみたいなものは、教科書があって、答えが書かれているという部類のものではなさそう。

(コンサル出身者として)コンサルを全否定されると困るんですが、現場で一緒に働いてくれる人と共同出来たっていうのが、アジャイル的な形でのプロジェクトになったんじゃないかなって、私は思いました。

(平澤)私は以前行政にいて、計画を書いて、それ自体が仕事になってしまうということもあって、現場に向き合って、どんどん変わっていく、どんどん進んでいくということが、すごく良いイメージというか、一般的に行政に求められているものと違って良いイメージだったのかなと感じました。

(吉田)そういう思いで、深谷市の福嶋さんがマイナビの池本さんに声をかけたという話なんですよね。

行政側から声をかけるガバメーションリレーションズ

(吉田)よく、GRの話、ガバメントリレーションズなので、民間からガバメントに声を掛ける、関係構築していくというのを基本的には捉えられるものなんですけど、行政側からもそういうアプローチというのが、ありえるし、こういったいい結果につながってるっていうのは、行政の皆さんの心構えとしても、ぜひ持っていただいていいんだというのが一つの気づきになり得たんじゃないかなと思います。

ともすると、行政って業者を特別扱いしてはだめだとか、一社とだけ付き合ってはいけないとか捉えがちですけど、現場に入ってくれる人を探すっていうのも、難しいことなので、そういう姿勢も学ぶべきポイントだったんじゃないかな。

そういう意味で、コンサル出身者の中村さんはどうでしたか?

(中村)身の引き締まるところはありました。枠組みはいらんぞと、とにかく一緒に汗かいてやってくれる方を探しているんだと、深谷市の方々がおっしゃっていたところです。

市の職員が、インキュベーター

(吉田)市の職員が、インキュベーターなんだって言う話があって、インキュベーターっていうのは、孵化・羽化させる人って意味で、昆虫が、幼虫から、蛹になって、成虫になっていく、そこをサポートするという意味で、そのような立場に職員がいるという発言が、行政の立場から話が出ることが面白くて、民間企業との向き合い方の理想像みたいなのを見せていただいたなって、私は受け止めました。

元行政職員の平澤さん、このあたりどうですか?

(平澤)私は、市役所職員だったんですけど、行政の職員が目利きなんだと言うことをおっしゃっていて、地元のどこに行くべきなのか、この話だったらどこに行くべきなのか、このことだったらどこでやれるのかなど、人や土地といった地域の資源に対して取り組むことを、自分たちの役割として、自身を持ってやられていたというところが、一緒にやるという姿勢がすごく印象に残りました。

もう一つの成功要因

(中村)民の立場で、今回マイナビさんがお話されている内容ですが、マイナビさんは、47都道府県に営業所があると事業体なので、イレギュラーなケースかもしれませんが、経営陣の方から言われていた話として、「47都道府県に営業所があるので、なにか地域のためになることを探してこい」というミッションがあったということで、民間は、さもすればすぐ儲けと言われる中で、そういった長期的なビジョンを経営の方で持っていたということも、今回、民間立場からの成功要件だったのかなと思っています。

●優秀事例 八王子市の事例について深堀り!!

八王子市は、東京を西部に位置していて、人口56万人。特徴として学校が多く、10万人の学生が学ばれている、産学連携の土壌があります。

八王子市の課題感としては、大腸がん検診です。部位別死亡者数から、他の検診に比べて大腸がん検診の率が低かったということが課題認識としてあります。

当然これまでもアプローチをされてきて、公費を投入して、勧奨通知をしてきたんですが、中々成果が出なかった。発症後は、身体負担も大きく、行政コストとしても医療費が高額になるという中で、そこを解決する方法がないかという点が企画の発射台になります。

導入経緯としては、SIB(ソーシャル・インパクト・ボンド)の勉強会に八王子市の方々が参加されたことがきっかけです。その中で面白いのは、経済産業省から、がん検診をフィールドにSIBモデル事業に取り組んでみてはどうかという、アプローチが別のルートからあったということが後押しになって、平成29年度の予算要求に至ったというのが経緯です。

取り組みとしては、成果報酬型の取り組みで、すべての人に同じ勧奨通知を送るのではなくて、状況に応じて、お知らせする内容を変えていく。

SIBについては、何を成果とするかがポイントになります。今回八王子市のケースにおいては、①大腸がん検診受診率、②大腸がん検診精密検査受診率、③早期大腸癌発見者数がポイントとなっています。

予算・お金の面での難しさ

(平澤)私が行政にいたときは、SIBについては話には聞くけれども中々難しいなと感じていました。というのも、予算の関係で、何をやっていくらだよっていう部分が大変だっただろうなと。

一番の特徴は、予算のところだと思うんです。民間側から見た、予算・お金の部分の難しさってどんなところだと思いますか?

(中村)民間に軸をおいて話すと、SIBについては、成果がゼロだったら民間の売上がゼロになることが大きな特徴な取り組みだなと思います。仕様発注ではなく、成果をクリアするために頑張らないといけないのが、民間の大きなポイントだと思います。

(吉田)その通りで、中村さんの話を聞いて思ったのは、逆に良い成果を出したら通常以上のインセンティブがある仕組みにしておく必要があるのかなって思いました。

どうしてかと言うと、これまでの行政からの発注形式って、成果に伴わずにお金がもらえる、細かいことを抜きにして言っちゃうと、民絡みたらおいしい仕事相手と思われがちなんですけど、民間側がリスクをおいて、このような取り組みをするっていうのは、新しいだろうなと思います。

行政側の話で言うと、行政やったことがないんですよね。成果報酬型を、入札にかけて行くってやったことがないんですよね。そこのハードルっていうのが一番高かったんじゃないのかな。

3分の1くらい自慢を込めて言うと、私が、横須賀市長時代にこのSIBモデルを全国初めてやったんですね。このときは、児童養護の分野が対象だったです。他の自治体でも事例はありますが、八王子市のように成果報酬型で発注を掛けれたというのは、大きなイノベーションの1つではないかなって思っています。

出会いは必然

(平澤)「官との出会いは必然」というところがキャッチーだなと思ったんですが、このあたり中村さんいかがですか?

(中村)そうですね、ちょっとキャッチーに書いてしまった部分はあるんですが、今回の事例で民間側の方が、八王子市さんとの関係は必然なんだとおっしゃってたんですが、自分たちの活動は、2年も3年も、行政にはこういう取り組みが必要だと繰り返し言ってきたんだと、たまたま八王子市さんとフィットして仕事に至ったっていうところで、出会いとして偶然ではなく必然だったというところが繰り返しいっていたところでもあり、私も感銘を受けたところです。

(吉田)深谷市の事例は、ビジョンから始まっていたんですが、この八王子市の事例は、課題から始まっていたと思っていまして、そもそも大腸がんの検診率というのが中々伸びないという課題が、八王子市にあったと、そもそも高い率ではあったんですが、他の検診はほぼ100%精密検査を受けていたという中で、大腸がんの精密検査は80%くらいしか受けてもらえてなかったという、結構強めの課題意識が八王子市側にあったっていうことも、「出会いは必然」と中村さんに言わしめた状況だったんではないでしょうか。

ビジョンをしっかり持つとか、課題認識をしっかり持つとか、そういうところが官民連携のスタート地点にあるんだなと感じました。

課題にフォーカス

(平澤)ホントそうですよね。出会いは必然と民の立場で書かれていましたが、官側の立場でも必然的に、しっかりと課題にフォーカスして、ああではないこうではないと考えた結果、ここしかない、ここだと取り組まれた。ほんと偶然のようで、必然なんだなと、キャッチーなというところで取り上げましたけども、その必然を信じて活動を続けていくことがGRにすごく大事なのかなと、聞いていて思っております。

(吉田)キャンサースキャンさん、ケイスリーさんとそれぞれ民間のプレーヤーがいたんですが、必然の出会いに至るまでに、いろんな自治体に声を掛けているんですよね。深谷市の事例は、自治体側からの声掛けだったんですが、八王子市の事例は、いろんな自治体に声を掛けていって、八王子市さんと出会えたというところもフォーカスしておく必要があるなって。

自分の出身地の自治体に声を掛けたらだめだった、話を聞いてくれないで終わってしまってはいけないってことで、自分の持っているいいサービス、世の中のためになるという強い思いがあれば、出会うまでドアを叩き続けることも大事なんだなって感じたところでございます。

(平澤)結構話したってことはおっしゃってましたよね。声を掛けたと、ほんと人事を尽くしたというところなんだなと思いました。

振り返り

(平澤)はい、というところで、よろしいでしょうかね?今回2つの事例についてお話をしたんですが、結構違った目線からお話してきて、深谷市の事例と、八王子市の事例とそもそも入り口から違ったということだったりもありました。2つの事例を並べることで、さらに学びがあるなと思って聞いてました。

(吉田)八王子市さんのセッションで出ていた言葉に、トップとボトム両方から攻めていたからいい形で合意形成が出来たっていう話があって、これは経験則からもよく分かる話だなって。あと、深谷市と八王子市の両方の事例をあえて対比的に言うとビジョンから行くパターンと、課題から行くパターンのそれぞれがあっていいんだなって思ったという、大きくこの2つが、私にとっても大きな学びでした。

You Tubeのコメント欄にもありますけど、属人的なものにあまり引っ張られてはいけない、セッションの中で人ですねと結構何度か出てきているんですが、たしかに人なんです。その人達がどのように動いたか、どういう軸で動いたかをこういう場で共有していくことが、大事なんじゃないのかなと私は思っております。

(中村)吉田さんの話もそのとおりだなと思っております。私がすごく面白いなと思ったことは、民間視点なのかもしれないんですが、二つとも事例で強みなり特徴をそこに絞ったというのが面白かったなと思っていまして、途中セッションの中でも深谷市の方がおっしゃってたんですけど、一次産業ですので高齢の方が多かったりとか、なかなか生産性も低いなど弱点に見えるようなところもあるんだけれども、やはり自分たちの強みはここなんであるということで、強みに特化したというところと、八王子市についても、大腸がんの問題はあったとはいえ勉強会に入ってすぐに経産省から、SIBやってみないかと、すでに日本全国の中で評価されていた取り組みということが大きかったかなと。

そういう意味で、強みなり特徴なりをそこに際立たせたことが、課題も明確であっただろうし、具体化ということがあったので、そこに特化したことがすごく面白いなと思いました。

面白いし、学びだったなと思います。

(平澤)今日、どこまで深堀りできたのかなと思うところですが、我々から見るポイントとして、GR協会の中でも議論したり、アワードに関わったメンバーは、サミット前からどういったポイントが素晴らしいのかといったところをしていたのかなと思っております。

こういう視点もありますねという感じに、お楽しみ、学びにつながる機会になったのかなと思います。

(吉田)総括という意味でいうと、アワードをやってよかったなって思ってまして、GRの事例って、例えば日経コンピュータとかにちらほらって見えたりとか、新聞で行政がこんな新しいことをやってますみたいな取り上げ方をしたりとか、そういうことが出ることは、すごくいいことだと思うんですけど、まとめて学べるとか何が本当に良い事例なのか、本当に課題解決につながっている事例はなんなのかについて、まとめて見れることってなかなかないので、私達54事例GRオフィサーの方たちと当たったというのは、個個別別にもストックされたし、GR協会の中でもいいまとめになったなと思っているので、こういったことを発信し続けることって大事だし、そこに共感してくださった皆さんとGRの活動を広めていきたいなと、最後総括的な発言として言わせていただきました。

(中村)話を合わせるわけではないんですが、やってよかったな。
これぞGRって、なかなか言語化しづらいところがあって、なんとなくわかるんだけどということで、みんなで集めてみたら54事例集まったというのが実態のところ。
そうすると、戦略とか企画というのもそうなんですけど、共通して見えてきたのは地に足つけて汗水たらしてやっているのが実態だったんだろうなという風に思っていまして、大きなメディアとかで取り上げられなかったとしても現場で苦しんでいる悩まれている方々に面白い事例として、自分たちの気付きという意味でもそうですし、広く見てみれば地域活性につながっていくと、僕らなりにも気づいたところがあります。ほんとやってよかったなとと、そう思っています。

聞いてみての感想

新しい試みとして、ゲストをお招きするのではなく、先進事例の深堀りとして、対話しながらの勉強会となりました。特に印象に残ったのは、最後に中村さんから話のあった、GRって言語化が難しい、事例を調べてみてそこから見えてきたものがあるというお話。

僕も、日本GR協会に参加させていただくようになって、GRとか、官民連携について学びたい理解したいと思う中で、正直ピンとこないというか、結局どんなものなんでしょう?何をすればいいんでしょう?って思っていました。今回の深堀りの中で、スピーカーの3名の実体験やポイント解説などを聞きながら、より事例に対して自分なりの落とし込みができる機会でした。今後も学んでいきたいと思います。

注)文字起こしをベースに、執筆者が記事内の見出しをつけました。

(執筆:日本GR協会 GRオフィサー・釘崎隆充)

当日の様子はYouTubeでも公開しているので、ぜひご覧ください。

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