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映画「罪の声」

10月31日に観てきた「罪の声」。
原作読みたいなと気になっていたのだけど、そこへきて野木亜紀子さん脚本で映像化。野木さん脚本の作品が大好きだし、キャストが星野源さん、小栗旬さん、市川実日子さん…観るしかないよね。

そして、これが想像以上にいろんなことを考えさせられる映画だったので、ゴリゴリにネタバレで感想書いていきたいと思います。

まだ観ていない方は、どうかここから先は読まずに映画館へGOしてほしい。
ドラマ「アンナチュラル」や「MIU404」が好きな人には、よりオススメしたいです。

それではゴリゴリネタバレ感想のはじまり、はじまり。



私が「アンナチュラル」と「MIU404」が好きな人にオススメしたい映画だと思ったのは、これもまた、間に合った人と間に合わなかった人、そして突然事実を突きつけられて見ていた世界が変わった人の話だったから。

この”間に合う”と”間に合わない”が、アンナチュラルやMIUに通じると思った。

一つ一つの選択が連なり、引き起こした理不尽。
それぞれの大人の思惑(金、復讐、社会への怒りなど)のせいで罪を背負わされ、人生を狂わされた三人の子供たち。やるせない。ひどいと思うけど、大人たちもまた被害者だった。お金に困っていなければ、身内の死さえなければ、会社が過失を認めていれば、この事件は起こらなかったかもしれない。他にももっとたくさんの”たられば”が思いつく。何をどこまで遡れば”間に合った”のか。彼らが一つ一つを選択していくシーンは、結果へ向けて倒れだしたドミノが、一つまた一つと進んでいくようで胸が絞られた。

金に目が眩まなければ。父が死ななければ。罪がもみ消されなければ。誰かが異変に気付いて探していれば。この人と手を組まなければ。姉ちゃんを呼び止めなければ。

たくさんの人の一つ一つの選択が積み重なって、望ちゃんは死んでしまった。

だけど、テープの真相を探ることを俊哉が選択したから。阿久津が英検準一級を持っていて社会部へ駆り出されたから(先輩たちが阿久津を社会部へ戻したい思惑もあったのかもしれない)。関係者が口を開いたから。もっと遡ると母親がテープとノートを処分しなかったから。亜美が背中を押したから。そして、俊哉があきらめずに二度電話しから。聡一郎は”間に合った”のだ。

職も頼る人もなく、保険証もないから治療を受けられず、死ぬところだった聡一郎に、あとほんの少しのところで間に合った。

彼の命に間に合ったから、未来が生まれた。母親とも再会することができた。再会のシーンで、望の声を聞きたいといった母親がすがることができる僅かな彼女の断片が、あのテープというのもなんという皮肉。

人生はなんて理不尽でどうしようもないんだろう。私たちはとても無力で愚か…と途方に暮れてしまった。

“間に合った”とはいえ、聡一郎の人生を思うとやるせない。幼くして人生を狂わされ、学校にも行けず、虐げられ、地を這うように生きてきて、光となるような出会いがあっても、それが続くようなことはなかった。たとえ物語の中とはいえ、他人である私が、誰かの苦しみの上に成り立つものを見て、「よかった」なんて傲慢なことは言えない。ただ、この事件をきっかけにジャーナリストとして矜持を持つ記者が生まれた。彼は痛みから目を逸らさず、寄り添うと腹を括った。それもまた事実。

世の中理不尽だらけでやるせない。でも、理不尽だけでもないと思えるラストだった。聡一郎はあの夫婦と再会して、どうか安らかに生活してほしい。

登場人物の選択が織りなしていく物語はとても緻密で、心の動きに感情移入して、あっという間の時間だった。本当に観てよかった映画でした。


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