見出し画像

花冷えの夕暮れ、バス車内

駅からのバスの車内、車椅子の所定の位置に着くと、目の前の座席には女性が座っていた。そこへ別の女性が乗り込んできて、座っていた女性に何か話しかけた後、先に座っていた女性が立ち、後から来た女性がその席に座った。私は、座った女性がヘルプマークを持っているのだろうと思っていたが、荷物を整理しはじめた時に彼女の片手に障害者手帳があるのが見えた。譲り合いの正しい在り方だ。

しかし、違和感はすぐにやってきた。
席を譲った女性は、譲る際に「どうぞ」とも言わず無言であった。スマホをいじりながら、障害のある女性の方を度々確認するように視線を送っており、それが私には恨めしそうな顔に見えた。SNSかLINEで、「障害者に席を取られた」などと書いているような顔をしていた。譲られた方は本当はいたたまれなかったかもしれない。

いくつかのバス停を過ぎたところで、障害のある女性は席を立ち降りていった。
そのすぐ後だった。
席を譲った女性は、元々彼女が座っていた席、つまり彼女が譲った席を誰にも取られまいと遮るように手を伸ばし、文字通り滑り込むように座ったのだ。そばには1人立っている乗客がいて、通常なら「すみません」とか「ここ、良いですか?」のように声をかけるような場面であると思う。彼女はずっと無言で、まるでワゴンセールの商品を争うように席に座ったのだ。

その振る舞いに、残念ながら品性は感じられなかった。正直に言えば浅ましいとさえ思えた。もしひと言「座って良いですか?」の言葉が彼女から聞こえたのなら、私の目の前に居座っている緊張感は席を立っただろうに。
そうまでして座りたいほど疲れているのかもしれないし、体調がすぐれなかったのかもしれない。
だとしても、席を譲った彼女は、困っている人に対する親切心ではなく、障害者手帳を見せられて仕方なく立ったのだろう。優しい気持ちを表すことができなかった彼女が哀れに見えた。

私は席を譲りたくても譲れない。たとえその時疲れていたとしても、たまたま体調がすぐれない日だったとしても、譲ることができるという立場をとても羨ましく思う。そんなことをあの彼女は考えることもないだろう。
せっかくの親切が、むしろ私の周りの空気を変えてしまった。
寒い寒い、花冷えのする夕方のことだった。

#毎日note
#note
#日記
#障害者
#車椅子
#身体障害者
#バス
#障害者手帳
#障害者の暮らし
#譲り合い
#花冷え

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?