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脈絡のない想起

人間の記憶がどのように保存され、どのように取りだされるのか、それはとても興味深い。
ある食べ物を口にしていて、亡き父と行った旅行のことを思い出すとか、あるメロディを聞いて、わずか1年だけ共に過ごした同級生を思い出すとか、脈絡のある思い出し方がある一方で、梅干を食べていて教室で飼っていたインコを思い出すとか、色を見て先生に怒られたことを思い出すとか、何の共通点もないのに過去のある1点お思い出すときがある。

塗り絵アプリが気に入っている。決められた場所に決められた色を置くだけ、頭を使うわけでも、芸術的センスが問われるわけでもない。ただ指をポンポンと置いていくだけできれいな絵が完成し、ある時は名画に触れ、色の効果を知る。
毎日新しい絵が表示され、ずっと遊べる。ちょっとした時間潰しや、気分転換に、この千円で買ったアプリは大変役に立っている。

そのアプリで塗り絵をしていて、最近よく思い出すシーンがある。
初めてミュージカルを観に行った2018年2月16日のこと。
有楽町駅で下車し、寒空の中、左手に帝国ホテル、右手にシアタークリエや宝塚を見ながら日生劇場の旗が見える辺り、その一場面の空気感のようなものを思い出す。
そこにいるのは、髪を染めていないボブカットの私だ。空気感は感じつつも、視点は何故か私を客観視している。その日に撮った写真を見ているようだ。

塗り絵アプリとそのシーンに全く関連はないのに、絵を塗り始めると頭の中にあの日の風景が蘇る。室内の温度がそうさせるのか、私の頬はドキドキしていたあの日の冬の冷たい空気を思い出している。

新しい単語どころか、昨晩の夕食すら思い出せないことがあるのに、何故今あの日のことを思い出しているのだろう。
そういえば記憶は連続体ではなく、たいてい断片である。ある断片から別の断片が想起される。劇場の入り口、貝殻で埋め尽くされた波打つ壁、グランドカーブから見えた舞台、端正な顔と白い腕、そして帰りに食べたサンドイッチ。
私には思い出すべきことがあるのだろうか。


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