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私はアルムおんじ

以前お世話になったフランス語の日本人講師のレッスンを取った。お顔を拝見するのは、約8ヵ月ぶりくらいだろうか。人気で予約が取りにくい先生の一人でもあり、しばらくお目にかかってはいなかったが、お変わりひとつなく、彼女らしいテキパキしたレッスンであった。


レッスンの中で、ふと思ったことがあった。
フランス語を含むラテン語系統の言語は、動詞を人称によって活用する。現在形の場合、英語なら三単現のSでお馴染みのアレが、ひとつの時制につき6つある。その中の英語で言うWeにあたる活用を使う機会がないのだが、どうしたら良いかと私は尋ねた。
先生は「家族や友達、同僚の話などをしてみてはどうか」と提案してくれた。私はそこで、ふーむ…と考え込んだ。

親戚付き合いがあるわけでもなく、家族といえば母ひとり、親子である以外に介護者と被介護者という特殊な関係性ではあるが、その状況をフランス語で話すのは難しく、また他人に話すような話題は特にない。
友達と会ってお喋りをしたりお茶を飲むなんてことも年に1~2回あるかどうかだし、ネットで話す内容はレッスンの話題になりにくい。
同僚、というよりクライアントだから、仕事上以外のお付き合いもない。
…となると、Weを使う場面というのが私にはないのだ。

私は自分の障害を講師の先生方に内緒にするつもりはないが、話題にあげる必要性もないので言っていない。もしも言ったところで、ヘルパーさんがWeの仲間入りすることくらいで、やはり話題にはなりにくい。フランス人は個人的なことにあまり介入してこないので、こちらから言い出さなければ「そこには1人で行きましたか?」「誰と食べましたか?」なんていう質問もされないのだ。

それに、心のどこかで「障害」というワードが相手を驚かせてしまったり、気を使わせてしまったり、あるいは気まずい空気が流れるのを私自身避けたいという想いがある。
言ってしまえば楽になる反面、愚痴が増えるのは確かで、健常者であり、ましてフランス人である先生たちに言ったところで、せいぜい表現の誤りを正されるぐらいでリアクションに困るだろう。

オンラインレッスンは、私のように外にでることが難しい人でも受講することができ、また「健常者である」「障害者である」という区別を取っ払って人と接することができる。
しかし、”普通”とは違う私の生活をどう見せるかという点においては、それなりの心労がないわけではない。直接対面して、私の姿や様子を講師自身が目にしていればまた少し違ったことになるかもしれない。
言葉のレッスンなんだから、いちいち本当のことを言わなくても、架空の家族や友達や同僚を作ったって良いのかもしれない。ただ、そこで嘘をついているのが心苦しく、また面倒ではある。

結局、介護を通して人と関わっているにせよ、また好む好まざるを除いて、私が比較的単独行動の傾向にあり、普段からWeを使うことがあまりないのだということに気づかされた。
親戚がなく、友達と会わず、ひとりで仕事をする。人と関わるのはほとんどネット。
事情を知らない人が聞いたら、私はハイジの祖父・アルムおんじみたいだ。


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