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ナンデ会議(短編小説)

「では、今日の議題を発表します」

学級委員長のフウマくんの号令とともに、書記であるカナちゃんが黒板の向かって右端に、大きくチョークを走らせた。
彼女が書き終えたのを確認した後で、フウマくんはみんなの方へ向き直った。

「はい。今日は『なんで宿題をやってこなければいけないのか』についてです」

不定期で開かれる、僕たちが日頃疑問に思っていることについて考える会議、通称『ナンデ会議』は、「なんで地球は回っているのに僕たちは目が回らないのか」という大きな議題から、「なんで買い食いをしてはいけないのか」という身近なものまで、とにかく僕らがふとした時にに引っ掛かった『なんで』をみんなで考えようという会議だ。

僕たちは毎日たくさんの『なんで』が思いつくので、不定期と言いつつも、ほとんど毎週開かれている。
全部が全部をみんなで考え続けるとキリがないので、『ナンデボックス』というものを教室の後ろに作っておいて、紙に書いた『なんで』をいつでも入れていいことになっていて、ランダムで議題が決まる。

「やってくるのが当たり前じゃん」

そう野次を飛ばしたのは、足を組んで背もたれに体重を大きく預けているユウタくんだ。

「そんなこと言って。ユウタが一番やってきてないじゃんか」

横槍を入れるのは、休み時間にいつもユウタくんとバスケをして遊んでいるカイくんだ。
カイの発言にそうだそうだと加勢する子たちも、いつものバスケメンバーで、ユウタくんがへへへと頭を搔く。
みんな笑っているが、中にはそれが苦笑だったり、呆れていたりする女子もいるようだ。
同じく苦笑をしていたフウマくんが、パンパンと手を叩いて注目を集めた。

「そんなこと言っちゃ会議する意味ないよ。ナンデ会議に『あたりまえ』は禁句だから。そんなの本末転倒じゃん」

フウマくんは学級委員長ということだけあって、頭がいい。テストではいつも90点より下を取らないし、塾にも行っているらしい。
「禁句」や「本末転倒」だなんて、大人が使う言葉だとばかり思っていた。

「それじゃあまず、先にみなさんに書いてもらった意見用紙を見ていきたいと思います」

教卓に積まれたプリントの中から、フウマくんは無作為に一枚とってみせた。

「ゲームをさせないため」

その発表に反応して、カナちゃんはチョークを走らせた。
フウマくんが発表して、カナちゃんがそれを書いていく、その作業が何度か続けられて、その度にそれを見守る僕たち側からはガヤが飛んでいた。

・ゲームをさせないため
・頭が良くなるから
・学校が決めたから
・いい大人になるため
・テストでいい点を取るため
・授業をしっかり聞いていたか先生が確認したいから
・イヤなことでも頑張れるようにするため

「やらなくていい」という極端で自己中心的な回答や、「それが宿題だから」のような明らかにふざけた回答を除いて、黒板に書かれた回答を一つずつみんなで考えていく。

「まずは『ゲームをさせないため』これについてです」

フウマくんがそういうと様々な意見が四方から飛び交った。

「ゲームはやっちゃダメってわけじゃないだろ」
「でもそれが本当の理由じゃなくても、少しはそういう意味もあるんじゃない?」
「私はそもそも男子と違ってゲームなんてしないよ」
「あー、それ男女差別だー」

一通り意見が出切ってみんなが静かになったところで、フウマくんが纏める。

「みんなの意見としては、『ゲームをするのはそんなに悪いことじゃない』とか『これが理由だとゲームをしない人にとっては効果がない』ということになりますね。それじゃあ、『ゲームをさせないため』が理由だと思う人は手をあげてください」

パラパラと主に男子が手を挙げて、その数をカナちゃんが黒板に書く。

「それでは次、『頭が良くなるから』についてですが____」

みんながそれぞれの理由に、思い思いに意見を出し合っていく。
並べられた理由の下に、それに賛同した人数が書かれていき、最後にフウマくんが纏める。

「ここに挙げられた理由の中で、一番表が多かったのは『授業をしっかり聞いていたか、先生が確認するため』というものでした。それではこの意見について、もう一度話し合いたいと思います。その前に、いつものように、この意見を出した人を発表したいのですが、今回のこの意見は、僕です」

フウマくんはさすがだなと、僕は思った。教室の隅っこでこの議論を聞いている先生も、ウンウンと頷いている。
その時、ハイ。と手を挙げたのはカイくんだ。

「フウマは結局、宿題はしなきゃいけないと思ってるってこと?」

みんなの注目は、カイくんからフウマくんに移って、彼の答えを待った。

「僕は、宿題はしなくていいと思ってる」

堂々とした態度で、両手を教卓にズシっと乗せたままフウマくんは言った。
その言葉にみんなは驚いていた。クラスいち優等生のフウマくんらしからぬ発言だったからだ。
先生まで、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。

「もし『授業をちゃんと聞いていたか、先生が知りたい』という理由ならね」
「なんでなんだよ」

今度はユウタくんが、挙手もせずに座ったままフウマくんに質問した。

「だって、授業でやったことをちゃんと聞いていたのか確認するのは、テストの役目だろ?」

その時みんながハッとした。その通りだとここにいるみんなが思ったのだ。

「だから、そういった理由で宿題があるのなら、僕はなくてもいいと思う。みんながこの意見に賛成なら、このまま先生に持って行こうと思うんだけどいいかな? と言っても、先生はずっと聞いてたんだけど」

みんなの顔が、特に宿題嫌いの男子の表情が明るいものになった。

「そうだよ。テストがあるんだから、宿題は必要ないよ!」

一人がそういうと、周りもそうだそうだと一丸になった。
フウマくんは隅っこでずっと傍観していた先生を教卓によんで応えを仰いだ。

「そういうわけで先生。宿題はなんでやってこなければいけないんですか?」

先生の答えを、僕たちは固唾を飲んで見守った。先生の答えによっては、宿題がなくなるからだ。

「そうだな。宿題はな____」

そして、僕たちは今日も宿題をやるのだが、いつか宿題を無くしてやる。という気持ちを持っている子たちが多くいて、先生を納得させるための「宿題がいらない理由」を僕たちは意見を出し合って考える。

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