見出し画像

音楽室の記憶 前編(短編小説)

高校2年生という食べ盛りの時期だというのに、リョウの昼食は購買部で販売されているメロンパン1つだけだった。
昼休みには混み合う購買部に、リョウは朝礼前に立ち寄る。

昼休みの頃にはスクールバックで少し潰れて柔らかくなっているメロンパンの封を、クライスメイトと談笑しながらも素早く開き、どうにか焦っている素振りを見せずに急いで口へ運んでいく。
男子高生の会話などあってもなくても同じようなものばかりで、殆どのものに内容がない。

昨日のバラエティ番組に出演していたアイドルが可愛いという話。授業はつまらないが「えー」を連呼する先生のクセを面白がり、今日の授業では何回言ったかをカウントしたという話。
リョウは右耳から入れた友達の話を脳内で反芻させることなく、そのまま左耳から出していた。

昼休みが始まってからまだ10分も経過していない。
リョウは既にメロンパンを完食していたが、そわそわとしきりに時計に目をやっている。
それについていつも昼休みに屯する友人たちはなにも言ってこない。

長針がカシン、と震えながら9を指した。即ち、昼休み開始から15分が経過したとき、リョウはそろりと立ち上がり、友人たちに何も言うことなく教室を後にした。

おそらく本人は、トイレにでも立ったんですよ。というような雰囲気を醸し出しているつもりに違いない。
しかし、彼の背中を何も言わずに見送る友人たちの口元は綻び、何やら噂立った会話をしていた。

自然と早足になるリョウも自身のそれに気がついているが、それでも足取りを落ち着かせる気はないらしい。
寧ろ心なしか速まるばかりで階段も2番飛ばして駆け上がる。

目的は音楽室。


#小説 #短編小説 #第1話  #前編
#小説家志望 #毎日小説 #毎日note #17
#実話 #半分実話 #ノンフィクション
#恋愛 #恋愛小説

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?