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コーポレート・ガバナンス関連ニュース(2019/10/18)

敵対的TOBの「敵」って誰?

【記事の注目ポイント】ニここ最近、敵対的TOBという言葉を聞く機会が増えてきた。最近の例では、エイチ・アイ・エス(HIS)によるユニゾHDへの敵対的TOB、伊藤忠商事によるデサントへの敵対的TOBなどが有名である。被買収会社の取締役会が「TOBに反対」と表明した時点で、敵対的TOBと呼ばれるようになる。従来、日本では敵対的TOB自体が根付いていないこともあり、仕掛けた側が「無理に物騒なことを始めた」と捉えられがちだったが、徐々に風向きは変わりつつある。

【コメント】記事にあるように、米国では、仮にTOBが提示された場合に、取締役会は高い買収価格を提示した買い手に会社を売ることが一般的であり、抵抗も少ない。また、何よりもCEOや社長といった経営者はあくまで「執行のトップ」にすぎず、取締役会の意思決定には従うというのが日本と海外との大きな違いである。余談だが、日本の場合、社長が株主に対しても自社のことを「我が社は」と平気で言うが、海外の場合は「Our Company」ではなく「Your Company」と言う。この辺りからも日本の経営者と海外の経営者の(株主から経営を委託されているという)意識の違いがわかる


会社法改正案を閣議決定 政府、社外取締役設置を義務化

【記事の注目ポイント】政府は18日の閣議で、上場企業などに社外取締役の設置を義務付ける会社法改正案を決定した。企業が社内の利害関係にとらわれず、第三者の視点で経営をチェックできる体制を整備する。日本企業のコーポレート・ガバナンス(企業統治)を強化して株式市場の透明性を高め、海外から投資を呼び込む狙いがあるとのこと。改正案には「上場会社は社外取締役を置かなければならない」と明記し、(1)監査役会を置き、株式の譲渡制限がない(2)資本金が5億円以上または負債総額200億円以上の大会社(3)有価証券報告書の提出義務がある――のいずれも満たす企業を対象とするとのこと。

【コメント】今国会の法案の目玉である会社法改正案の中身が閣議決定された。記事にあるように社外取締役の設置の義務化が法制化されたことは、日本企業のコーポレートガバナンスをより一層強固なものへと変化させることに繋がるはずである。また、記事内では触れられていないが、もう一つ今回の会社法改正によるコーポレートガバナンスの強化で重要な点は、取締役報酬の決定方針を取締役会で定め、開示することを義務付けている点である。現在は、株主総会で取締役報酬の総額を決定した後は、個別の取締役報酬は取締役会、または取締役会から委託された代表取締役が自由に決めることができるが、これに一定の規律を設ける形となる。恐らく、将来的には現在多くの企業で行われている「社長による個別役員報酬の一任決定」は禁止となると思われ、多くの企業で役員報酬の決定基準やプロセスの整備、報酬委員会の運営強化が必要になるだろう。


ステークホルダー主義の危うさ

【記事の注目ポイント】米国の企業経営者団体のビジネス・ラウンドテーブル(BR)が、従来の「株主ファースト主義」を見直し、顧客や従業員、取引先、地域社会などその他の関係者も等しく重視する「ステークホルダー主義」を打ち出した。政治の場面でも、次期大統領選の民主党候補の指名争いで支持率トップに立つエリザベス・ウォーレン上院議員の主張がこれに連動する。資本主義のひずみの是正を訴える同氏は「アカウンタブル・キャピタリズム・アクト(ACA=社会的責任を伴う資本主義法)」の成立をめざしており、その中には(1)取締役会のメンバーの4割以上は労働者の代表が占める(2)経営者や会社幹部の株価連動報酬を大幅に制約し、経営者の利害と株主の利害を切り離す――などの項目が並んでいる。株主第一主義を見直す動きの背景には、格差の拡大への対処などが考えられる。しかし、こうした問題意識は理解できるとしても、「ステークホルダー主義」のような多元主義がはたして現実に機能し、問題の解決になるかどうかは疑問である。

【コメント】ウォーレン上院議員の主張は、イギリスのコーポレートガバナンスコードの改訂を踏まえたものともいえる。同コードが2018年に改訂された際には、Brexitや金融危機の背景となった格差の拡大の是正の一環として、従業員利益重視の内容が色濃く反映されている。しかし、記事にあるように、他のステークホルダーへの配慮を強めることで、「株主利益に反する経営」が実現されてしまうと、そもそも株式会社という形態とはそぐわないことになる(単に他の世のため、人のためというのであればNPOで良い)。一義的には、まずはしっかりと利益を出し、株主に報いるということが株主会社の存在意義であるという点を軽視してはならない。

関電、役員人事の諮問委員会議長に社外取を検討

【記事の注目ポイント】関西電力は次期会長・社長の人選を審議する委員会の議長に社外取締役をあてる方向で検討している。委員会の独立性や客観性を高めるためとのこと。関電では、役員人事や報酬を「人事・報酬等諮問委員会」が審議し、取締役会に提案する仕組みを設けており、これまでは会長、社長と4人の社外取締役による計6人が委員を務め、議長は会長が担ってきた。

【コメント】これは当たり前すぎるほど当たり前のことなのでコメントするまでもないが、次期経営トップの選解任や経営者の報酬の決定などのガバナンス上、極めて重要な事項については完全に会社側からは独立した社外取締役が多数を占める委員会(当然議長は社外)で決定しなければ、その正当性に疑義がつくので、これまでが異常だったというべきだろう。監査役が事態を把握しながらも機能しなかったという事実を踏まえば、委員会の議長を社外取締役にするというレベルではなく、機関設計自体も見直し、経営のありかたや今後の方向性のけっても含めて社外取締役が主導することが本来は望ましいと考える。

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