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六本木WAVE 昭和バブル期⑪

l  猫を預かった話 赤いレーザー光線
 
「レイ…?」

そうだったんだ。
これまで私は彼女の源氏名である「キャンディ」しか知らなかったことに自分でも驚いた。

「本名聞いてなかったな…そりゃそうだ 自分とは客と‥‥という関係なのだから…」

そして彼女の表の顔は 割と売れているファッション・モデルであった
この店の誰もが彼女を雑誌のモデルという職種の女性として認識していた
 
結局私は彼女に対して心の熱をある範囲で維持はしていたが、その温度変化に対して相当に鈍感に放っておいていた。
傷つきたくなかったのか…自分勝手な感情をもてあそんでいた。

理由はすぐにはわからないが、これまで関係を持った玄人の女性や仕事で関わって親しくなった女性たちとは明らかに別な感覚で接していた

自慢でもなんでもなく…時折 玄人の女性に気に入られ📞番号を教えてもらったり、食事を奢ってもらったり、時には家に招かれたり…商売抜きの身体の関係になっても金銭の授受は伴わない

うらやむ人もあるだろうけど、自分の心は常に醒めていた
恋愛感情や一種の愛情が伴わないわけではない
ただそれ以上には心が動かなかった

『それって‥単に恋愛対象にならなかっただけじゃん!』
心の声が意地悪く自分に囁く
『いい加減、適当、単なる遊び…真剣に考えることでは無いでしょ』

キャンディ いや レイに対してもそうなのだろうか
一度しか男女の営みはない しかも客として…なのに・・
何度も自問自答していた

そう 距離感をキープすることが必然のような…そういう関係
そうしなければいけない何かがある関係
関係ともいえない関係…

ここで愛情とか恋愛とかいう言葉を持ち出しても相応しくないことくらいわかっていた。
だからこそ言葉に表せない、表現しずらい関係(性)であった。

そんな意味不明な複雑思考が数秒間、頭の中を相当な速さで走り回った。
どこに向かって何を結論付けたいのか…何を成し遂げたいのか…
 
 ふと我に返ると、その踊り場ではアンビエントな音響が流れていた…
二人ともまったく話をせず 互いに前を向いたまま 寡黙のまま過ごした。

Brian Eno - Ambient 4 (On Land) - A1 - Lizard Point
(つづく)

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