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六本木WAVE 昭和バブル期⑧

l  猫を預かった話 六本木デート

 その日は早めに仕事を切り上げ四ツ谷駅前の公衆電話からキャンディに電話した。すぐに出た。
「さっきはごめんね 仕事場で悪いなと思ったんだけどね… ほんとごめんね」
「いや 大丈夫(-_-;) どこに行けばよいかな?」
少し早口になりながら周囲の雑踏をなんとなく気にしつつ電話していた。「夕食は未だでしょ?よかったらご馳走するわ 六本木まで来られる?」「うん 帰り道だから問題ない じゃあ7:30くらいでも良いかな」
「うん アマンドの前は混むんだけど行きたいレストランがすぐだからその辺りにいるね!」
「OK じゃすぐに向かうね!」

 そのあとバスで赤坂を経由して麻布方面に向かい途中から走って待ち合わせ場所に直行した。キャンディは先に着いていた。
 少し伸びかけたボブヘアにサングラスを頭の上に軽く乗せて大きな瞳で微笑みながらこちらに手を振った。
 今日は裾の広がった濃い緑色のプリントワンピース 腰のあたりが細くなっており濃いブラウンの太めの革ベルトを締めていた。
 足元は編み上げの黒のブーツで少しかかとが高めなのかいつも以上に背が高い。私は背は高くないので並ぶと若干彼女の方が背が高かった。
 いつもながらエキゾチックというかジプシーの女性のような出で立ちで、仕事帰りのOLや学生風の女性たちの中でひときわ目を引いた。
 私は相変わらずのユニフォームのように着古したJPRESSのチャコールグレーのトラッドスーツに白のボタンダウンシャツと紺のレジメンタイ。
 そのころの広告関連の営業(当時はヤンエグとか言っていた)がする定番の格好であった。どう見ても釣り合わないな、とふと思った。
 しかし彼女はまったく気にしていない様子。
「待った?」
「うん でも少し… 気にしないで それよりテーブル予約したから急いで!」
そう言ってキャンディはいきなり私の鞄を持っていない右手を取って引っ張るように走り出した。意識し過ぎだとは思ったがアマンド前の人だかりの中からこちらへ向けられた好奇の視線をすごく感じていた。
 その店は、六本木アマンドの地下にあるイタリアンレストラン。名前はシシリア六本木店。一階の欧州風の木のドアを開けて地下に降りる。
 いきなり食をそそるニンニクとオリーブオイルの熱い空気の洗礼を受けた。この辺りは土地柄、休みの日などしょっちゅう出没しているのだが、ここに入るのは初めてであった。
 「いらっしゃいませ!」よく通る男性の声で迎えられた。
店に入るなり、彼女は常連なのだろう、出迎えのボーイと二言三言話した後、すぐに奥の4人掛けのテーブルに通された。

すでにほとんどのテーブルは埋まっていた。(つづく)

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