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ぎんちゃんとはるちゃん
一昨年の5月半ば、小学四年生になった娘が最初に連れて来たのはぎんちゃんだった。
誰かが見つけた子猫を、友達数人と我が家の前で「どうしよう」「どうしよう」と相談しながら可愛がっていた。
やがて夕方になり、カラスの歌のチャイムが流れると、「わたし帰らなくちゃ!」「わたしも!」「じゃあね!」と、みんな帰って、残された子猫と娘は同じような表情で私を見つめる。
それから月日は流れ、四年生の修了式の日。
誰かが見つけた子猫を、友達数人と我が家の中で「どうしよう」「どうしよう」と相談しながら可愛がっていた。
やがて夕方になり、カラスの歌のチャイムが流れると、「わたし帰らなくちゃ!」「わたしも!」「じゃあね!」と、みんな帰って、残された子猫と娘は同じような表情で私を見つめる。
デジャブでしょうか。
いいえ。ようこそ、はるちゃん。
こうして一年足らずの間に、2匹の猫と共に暮らすことになったのだ。
ぎんちゃんは、臆病で凶暴で神経質だけれど賢くて寂しがりやの甘えん坊な灰色のオス。
ぎんちゃんが来る何日か前から近所で子猫の鳴き声がずっとしていた。母猫は安全な場所を求めて、子猫を1匹ずつ咥えて引越しをする。
ぎんちゃんだけ母猫が迎えにこなかったのかもしれない。
生後約一ヶ月で家族と離れてしまったぎんちゃんは、兄弟と充分にじゃれ合うことも少なかったのだろう、一歳を過ぎるくらいまでは力加減を知らず、じゃれているのか本気なのか、自身の顎が震えるほど全力で噛んでくる子だった。
遊びに来た友人たちにも被害は及び、
「こんな猫初めて。」
「うそでしょ。私の知ってる猫じゃない。」
と、言われるほどだ。
猫というよりネコ科の何かを拾ってきたのかもしれないと本気で疑い、確かに私の知っている猫でもなかった。
警察犬訓練中のシェパードのごとく飛びかかってくるぎんちゃん。獲物認定された私と娘の腕は、尋常ではない噛み傷だらけで、知らない人にはビックリされるか、傷のことには触れてはいけない空気をかもしだされるかのどちらかだった。
はるちゃんが来て噛まれる痛みを知ったからなのか、少し大人になったからなのか、今ではすっかり落ち着いて、たまーに本気を出すくらいだ。
はるちゃんが来たのは生後約二ヶ月だった。クシャミばかりして、顔も耳も汚れて痩せていて、見た目は弱っていたけれど、大きなしゃがれ声で元気に鳴き続けていた。
学校の帰り道の倉庫から何日か鳴き声が聞こえていたらしく、はるちゃんもぎんちゃんと同じく取り残されたのか、きっと母猫を求めてずっと必死に鳴いていたのだろう。
薬とごはんをあげているうちに、どんどん元気になり、今ではぎんちゃんよりでっかい。
のんびりしていて人間が大好きでとっても素直な食いしん坊。
怒っても噛むことはなく、ちょっとしつこく撫でまわしてもぺろぺろと指を舐めてくる。なんて穏やかなのだろう。
うんうん、猫ってこうだよね。そんな、かわいい茶白色のオス。
だがしかし、こちらはお布団的なものにことごとくおしっこをしてしまう。
買い換えればおしっこ。
洗えばおしっこ。
去勢をしても勢いは衰えず、布団を敷いている夜間は猫用オムツを着用させていて、オムツから飛び出たしっぽはカキフライに似ている。
はるちゃんが来て、最初はシャーシャーと警戒していたぎんちゃん。
間違って噛み殺してしまわないかと本気で心配だったのだが、じわじわと距離を縮め、毛繕いをし合うようになって、追いかけっこをして、ケンカをして、今では本当の兄弟のように過ごしている。
性格は正反対だが、お腹が空くとニャアニャア声をそろえて擦り寄ってくるところと、短めの鍵しっぽなところがよく似ていてかわいい。
近所にはたくましく生きている野良猫が何匹かいる。
母猫に見捨てられた子猫が毎年どこかにいる。
野良猫の母親も命をつなぐために必死の選択をしている。
世界中の猫に、世界中の生まれた命に、家族と共にお腹を満たし、穏やかで快適な暮らしが待っているわけではないのだと思い知らされる。
一方で、ぬいぐるみに腰を当てがる去勢済みの彼らを見て、子孫を残したかっただろうなぁと申し訳なくも思う。
食べて寝て暴れて甘えて食べて寝て。
ふすまや障子はもちろんボロボロだけれども、ぎんちゃんもはるちゃんも家の空気にすっかり馴染んだ。安心してくつろぐ姿はとても愛おしい。
もうすぐ春が来る。
二度あることは三度ある。
うちにはこれ以上猫を飼う余裕はないため、はるちゃんがきたあと、
「もう、連れてこないでね」
と心を鬼にして娘へ伝えた。
もしも子猫に家の敷居をまたがれたら、じっと見つめられたら、追い出せる自信がないうえ、連れてこないかと少しワクワクしている自分が怖い。
猫屋敷はこんな気持ちからできあがってしまうのだろうと想像。
連れてくるなよ、絶対に連れてくるなよ。
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