対話

なんで現代の日本人に「対話」の文化が希薄なのか?

令和2年読書記録vol.6

「わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か」

平田オリザ著

令和2年のテーマが「対話」なので、対話の本をよく読んでいます。

この本を


①求められるコミュニケーション能力のダブルバインド

①日本で対話の文化が希薄な理由

③対話に必要なものは何なのか?

が分かります。


① 求められるコミュニケーションのダブルバインド

最近の若者のコミュニケーション能力の低さや論述力が低いと言われていますが、本当でしょうか?



ダブルバインドとは、直訳すると 「二重拘束」 の意味で、2つの矛盾したコマンド(特に否定的なコマンド)が強制されている状態です。

例を出すと、積極的に質問をすることを励行しておきながら、質問をしに行くと、「今忙しいんだから」「そんなこともわからないのか」と断られたりしながら、一旦問題が起きると、「なんで相談しなかったんだ」と叱責せれたりすること、、ありますよね。

私も、臨床実習でスーパーバイザーからダブルバインドを受け、質問することができなくなり、苦しい経験をしました。

日本人に引きこもりが多いのも、ダブルバインドが原因と言われているようです。

現代の、就活生や若手は、

「求められるコミュニケーション能力のダブルバインド」

を経験しています。

表面上、企業が求めるのは

グローバル・コミュニケーションスキル=異文化理解能力

であり

「異なる文化・価値観を持った人にも、きちんと自分の主張を伝えられる」

「異なる文化、価値観を持った人の意見もそのコンテクスト(背景)を理解し、時間をかけて説得、納得し妥協点を見出すことが出来る」

といったことが求められます。

しかし、実際に求められる能力は、

「上司の意図を察して、機敏に行動できる」

「会議の空気を読んで、反対意見を言わない」

「輪を乱さない」

ことが求められています。

そりゃあ、当たり障りなく働くようになりますよね。


② 日本人で対話の文化が希薄な理由

1つは、「ムラ社会」の文化です。

日本は古来、島国、稲作文化の宿命で、ほぼ均質の価値観や生活習慣をもつ社会=ムラ社会があります。

ムラ社会で求められるのは、

「分かり合う文化」

「察し合う文化」

で、著者は「温室コミュニケーション」と表現しています。

間 や 行間を読むことが大事になっています。

例えば、人の俳句を詠んで、情景が思い描くのも、均質な価値観や生活習慣を持っている民族だからこそだと思います。


戦後〜高度経済成長期のように「成長型」の社会では、むしろ同じ価値観を持っていることは、成長を促進する要素になっていました。まさに、「一致団結」という言葉が合っています。

国の幸せと個人の幸せが同じであり、なんとなく従っていれば、多少不都合はあったとしても、だいたい皆幸せになれる時代でした。

逆に、ヨーロッパなど陸続きの国では、異なる文化や宗教が行き交っています。そこでは、

「自分が何を憎み、愛し、どんな能力で社会に貢献できるか?」

を説明できないと無能のレッテルを貼られてしまいます。

察し合う文化と対比して、「説明し合う文化」と著者は表現しています。

2つ目の理由は、

日本人は、対話より議論が、プロセスより結果のほうが大事なためです。

結果を重視しているため、A と B という意見が出たときには、AかBの意見がどちらが正しいか、そして間違いかを議論することが多いです。

そうなると、日本のような上意下達、年功序列の文化では、特に見えない力が働きますよね。

そして、Aの意見だった人が、最終的にBの案を飲むことになると、

「負けた感がする」「損をした気がする」「恥ずかしい」

ような気がするのではないでしょうか?

一方欧米では、A なのか Bなのかという結果も大事ですが、それよりもそこまでのプロセスのほうが大切な文化のようです。


3つめは、

「対話の基礎体力がないため」です。

対話には、「聴く」「待つ」「理解する」「主張する」という時間が重要ですが、日本人の多くは、この対話の時間に耐えられず、

「なんで分からないんだ!」とキレるか

「どうせわからないんだ!」と諦める

かの2択を取ることが多いです。


③対話に必要なものは

最後に、対話に必要なことですが、

著者は、「異なる価値観に出くわしたときに、分かり合えないことを前提に、物怖じせず、卑屈にも、尊大にもならず、粘り強く共有できる部分を見つけ出していくこと」

と表現しています。

そのためには、相手の言葉の「コンテクスト」(背景、その人がどんなつもりでその言葉を使っているのか?)を理解しようとする努力が必要です。

コンテクストやナラティブを理解することって、言うのは簡単ですが、めちゃめちゃエネルギーがいることですよね!

だって、夫婦や親子、兄弟など身内でも理解できないことって多いですし、男女でも、世代でも大きく違いますよね。


私達、医療介護従事者が、リハビリテーションの達成のために、

クライアントの「その人らしさ」を理解するには、ナラティブやコンテクストを理解していくことが必要です。

そのためには、議論、説得よりも「対話」の能力が必要だと考えます。

人間臭さを知ることが出来るこの仕事が私は好きです。








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